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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第3章 魔蝙蝠と人間の狩人

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第038話 魔境狩り【別視点・ガレオ】

 肉はなくなっていなかった。


 ガレオ・ダンは、枝の下へ落ちた獣の脚を拾い上げた。


 噛み跡はない。


 吊っていた紐だけが、細い刃物で何度も削ったように切れている。


「爪か」


 地面の輪は動いていなかった。


 避けられたのだろう。


 それだけなら、珍しいことではない。


 魔境の獣は、一度罠を見れば次から近づかなくなる。


 だが、上の粉袋は開いている。


 輪を避け、枝から餌だけを取ろうとした。


 その上で、二つ目の仕掛けには触れた。


 ガレオは枝に残った黒い毛を指先で摘んだ。


 短く、柔らかい。


 鼻へ近づけると、血と洞窟の湿気が混じっていた。


 蝙蝠にしては太い毛だ。


 枝の傷へ指を当てる。


 三本の爪が、同じ間隔で樹皮へ入っていた。


 普通の蝙蝠なら掴まるだけの場所で、こいつは紐を削るために体を支えている。


 傷の深さから見ても、見た目より力がある。


 手袋の上へ置き、腰の小袋から透明な板を出す。


 毛を板へ挟むと、端に刻まれた細い線が青く光った。


「魔物。魔力は、下級より上」


 種類までは出ない。


 安物の判別板では、毒があるか、魔力があるか、その程度だった。


 それでも売る時の嘘は減る。


 ガレオは毛を別の紙へ包んだ。


 生け捕りにできれば値段は上がる。


 ただし、魔力器官を持つ個体へ麻痺薬が効くとは限らない。


 翼を大きく破れば素材価値が落ち、浅く狙えば逃げられる。


 弓で仕留めるにしても、射る場所は選ぶ必要があった。


 森の中を見回す。


 罠から少し離れた幹に、白い粉が擦りつけられていた。


 その先では、泥の上に細い爪跡がある。


 一度地面へ降り、翼か体を汚した。


 粉を落とそうとしたらしい。


 爪跡はそこから途切れている。


「飛べるだけじゃないな」


 粉の匂いは風下へ伸び、途中でいくつにも分かれていた。


 葉へ擦りつけ、別の匂いへ混ぜている。


 偶然ではない。


 罠を見て、避けて、追われることまで考えた。


 黒骨洞で、血を抜かれた魔物の死骸が見つかる。


 採取帰りの連中が酒場で話していた。


 笑い話になっていたが、ガレオは場所だけ覚えていた。


 血を吸う。


 飛ぶ。


 人間の罠を避ける。


 同じ個体なら、まだ若い。


 若いうちに捕まえれば、調教を試す商人もいる。


 死んでも、牙、羽膜、魔力器官は売れる。


 どちらになるかは、次に動きを見てから決める。


 罠を避けた程度で、無理に生け捕りへこだわるつもりはなかった。


 ガレオは立ち上がった。


 右の長靴から、また水が入っていた。


 底へ当てた革が剥がれかけている。


「次の冬までは無理か」


 珍しい魔物一匹で、新しい長靴と矢が何本買えるか考える。


 少なくとも、今日の餌代よりは高い。


 危険なら離れる。


 追えないなら諦める。


 その判断ができなければ、魔境で十年以上も狩りは続けられない。


 ただ、まだ追えないとは決まっていなかった。


 ガレオは泥に残った爪跡の向きを見た。


 粉の匂いが切れた先には、黒い岩壁がある。


 岩壁に沿って歩くと、根の陰から冷たい風が漏れていた。


 人間なら肩も入らない裂け目だ。


 入口の石には、昨日までなかった黒い毛が一本引っかかっている。


「黒骨洞へ戻ったか」


 腰の弓へ手をやる。


 今すぐ中へ入る気はなかった。


 狭い洞窟で、飛ぶ魔物を追う理由もない。


 入る場所が分かれば、出る場所もここだ。


 ガレオは風下へ回り、裂け目が見える木を二本選んだ。


 裂け目から飛び出した時、最初に向かいやすい枝も確かめる。


 枝の高さと木の間隔を見て、弓を引ける場所まで後ろへ下がった。


 魔物の熱や匂いを捉える種類なら、近くに潜むだけで気づかれる。


 風下を外し、射程の端から狙う。


 一本は登るため。


 もう一本には、細い金属線を張る。


 地面へ浅く穴を掘り、追跡粉を混ぜた土を戻した。


 同じ粉を使えば、また落とされる。


 次は、踏まなくても風で舞う場所へ置く。


 仕掛けを終えると、古い矢を一本だけ弓へつがえた。


 新しい矢はまだ使わない。


 獲物が本当に戻るかも、矢が届く場所を飛ぶかも分からない。


 木の根元へ腰を下ろし、傷んだ長靴を脱いだ。


 濡れた布を絞り、裂けた底へ細い革を巻き直す。


 空が明るくなる前に一度離れ、次の夜に戻る。


 裂け目の中からは、何の音も返ってこなかった。

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