↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第3章 魔蝙蝠と人間の狩人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/66

第033話 罠を作る魔物【別視点・フィナ】

 少し前、フィナたちは水音のする道へ向かっていた。


 進むほど、レグの歩みは遅くなった。


「兄さん、肩」

「いらない」

「倒れてから言わないで」


 フィナは返事を待たず、兄の左腕を自分の肩へ回した。


 重い。


 右脚をつくたびに、巻いた布の下から新しい血が滲んでいる。


 匂い消しの実は、もう二つしか残っていなかった。


 針尾オロチは、あれでは止まらない。


 分かっていても、一つを床へ叩きつけた。


 鼻を刺す匂いが広がる。


「無駄にするな」

「兄さんの血よりは安い」

「俺の血に値段をつけるな」

「じゃあ止めて」


 レグは黙り、槍を持つ手へ力を入れた。


 フィナは兄を支えながら、天井を見た。


 さっきから、何かがついてきている。


 最初に見つけた時は、岩の窪みに黒い影があった。


 翼を持ち、暗い赤の眼をしていた。


 ただの洞窟コウモリより大きい。


 口元には血がついていた。


 兄の傷を見ていた。


 襲うなら、治療している間に来られた。


 そう言ったのは自分だが、襲わなかった理由までは分からない。


 フィナが上を見るたび、黒い影は少し離れた場所へ移っていた。


 見失ったと思えば、次の曲がり角でまた羽音がする。


「まだいるか」

「いる」

「蛇より先に落とす」

「槍を投げたら、兄さんは何を杖にするの」

「お前」

「先に置いていく」


 水が流れる細い溝へ着いた。


 道の中央を浅い水が横切り、向こう側に低い裂け目がある。


 二人なら通れる。


 針尾オロチも、体を伸ばせば入ってくる。


「先へ行け」

「一緒に行く」

「罠を張るなら、俺がここで止める」

「その脚で?」

「槍は持てる」

「一度突いたら終わりでしょ」


 フィナは兄を壁際へ座らせた。


 腰の袋から残った紐をすべて出す。


 水の向こうには、天井から落ちかけた石が積み重なっていた。


 下にある細い石を抜けば、いくつかは崩せる。


 紐を石へ結び、反対側を水の中へ沈める。


 針尾オロチが通る時に引ければいい。


 問題は、蛇の頭が罠の下へ入るまで誰が待つかだった。


 レグが槍を横へ置いた。


「俺がやる」

「兄さんは囮」

「同じだ」

「違う。囮は逃げるところまで仕事」


 フィナは水へ手を入れ、紐を石の下へ通した。


 冷たさで指先の感覚が薄くなる。


 背後で、長いものが石を擦る音がした。


 近い。


 レグが立ち上がろうとして、壁へ肩をぶつけた。


 フィナは紐を掴み、兄の前へ出る。


「フィナ」

「まだ」


 曲がり角の向こうで、大きな音がした。


 何かが暴れ、石へ何度も体をぶつけている。


 針尾オロチの音も止まった。


 代わりに、高い鳴き声が一度だけ響く。


 黒い影。


 あれが何かをした。


「今のうちに行くよ」

「待て」


 レグがフィナの腕を掴んだ。


「音がこっちへ来る」


 針尾オロチが再び動き始めた。


 先ほどより速い。


 何かを追っている。


 曲がり角から、黒い影が飛び出した。


 片方の翼が石を掠め、低く沈む。


 すぐ後ろに、針尾オロチの平たい頭があった。


 黒いコウモリは、フィナたちを見た。


 逃げる向きを変えない。


 罠がある水の上へ、そのまま飛んでくる。


「罠に入る」


 レグが槍を構えた。


 フィナは紐を引かなかった。


 黒い影は水へ落ちる直前に体を傾け、天井の石へ爪をかける。


 紐には触れていない。


 罠の位置が分かっている。


 針尾オロチの頭が水の上へ入った。


「今だ」


 レグの声と同時に、フィナは紐を引いた。


 結びつけた石が抜ける。


 天井近くに積もっていた石が崩れ、針尾オロチの頭と背中へ落ちた。


 平たい頭が水の中へ沈む。


 レグが槍を突き出し、眼の横へ穂先を当てた。


 鱗に弾かれ、浅い傷だけが残る。


 針尾オロチが頭を持ち上げた。


 石が左右へ飛び、太い胴が浅い水を跳ね上げる。


「下がって!」


 フィナは兄の腕を引いた。


 二人で裂け目へ転がり込む。


 黒い尾針が、さっきまでいた場所の石を削った。


 針尾オロチは崩れた石を押しのけ、裂け目へ頭を入れようとする。


 その眼の前を、黒い影が横切った。


 コウモリの爪が、槍でつけた傷をさらに裂く。


 針尾オロチの頭がそちらへ向いた。


 黒い影はすぐに離れ、水路の反対側へ飛ぶ。


 蛇も、裂け目から頭を抜いた。


「あれ、私たちを助けてる」

「決めるな」

「じゃあ、蛇を怒らせる趣味?」

「俺たちを囮にして、自分だけ逃げるつもりかもしれない」

「それなら、こっちへ逃げてくる」


 黒い影は兄妹から離れる方へ飛んでいる。


 針尾オロチも、そのあとを追っていった。


 フィナは水の中へ落ちた紐を拾った。


 途中で切れ、半分しか残っていない。


「行くぞ」


 レグが槍を杖にして立つ。


「あれを置いて?」

「追うのか」

「追わない。でも」


 フィナは暗闇の奥へ耳を向けた。


 羽音と、長い体が石を擦る音はまだ続いている。


「戻ってきた時に、槍を向けるかは考える」


 レグは返事をしなかった。


     ◇ 黒瀬湊


 針尾オロチは、俺から離れない。


 針尾蛇の血を吸ったせいで、体の熱が上がっている。


 匂いを隠しても、今なら同じように見つかる。


 俺は水路から遠ざかり、天井の低い道へ入った。


 針尾オロチの頭は通るが、体を曲げるたびに速度が落ちる。


 振り返らず、短く鳴く。


 平たい頭と、左右の壁へ擦れる太い胴が返ってきた。


 フィナの罠で眼の横に傷がある。


 浅い。


 俺の牙が届く深さではない。


 今は、倒せない。


 兄妹から離すほど、黒巣へ戻る道からも遠ざけられる。


 道の先には、石皮トカゲを倒した広い場所がある。


 その向こうには黒巣へ戻る道もあった。


 針尾オロチを黒巣まで連れていくつもりはない。


 俺は分かれ道で右へ曲がり、まだ入っていない暗闇へ飛び込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。