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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第3章 魔蝙蝠と人間の狩人

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第032話 追われる兄妹

 足音が止まる。


 何かを引きずっていた音も、少し遅れて消えた。


「どうした」

「血の匂いが強くなってる」

「俺のだろ」

「だから止まってって言ったの」


 声は暗闇の先から聞こえた。


 歩幅は、さっきの三人よりずっと狭い。


 俺は金属杭から爪を離し、天井を伝って声の方へ進んだ。


 曲がり角の先に、二つの小さな影がいる。


 二本の脚で立っているが、人間ではない。


 乾いた短い毛に覆われた細い腕と脚。


 前へ突き出た口と、腰の後ろから伸びる尾。


 大きい方でも、人間の胸ほどの高さしかなかった。


 片方は短い槍を杖のように使い、右脚を引きずっている。


 もう片方がその脇へ入り、倒れないように支えていた。


――――――――――

名称:コボルトスカウト

名称:コボルトトラッパー

――――――――――


 分かるのは種族だけで、二人の名前も強さも読み取れない。


 コボルトトラッパーが兄の脚を石の上へ伸ばす。


「見せて」

「歩ける」

「見せないなら、ここに置いていく」

「それが兄に言う言葉か」

「置いていかれたくないなら、座って」


 兄が何か言い返そうとして、やめた。


 槍を壁へ立てかけ、石の上へ腰を下ろす。


 妹が右脚へ巻かれた布を解いた。


 黒ずんだ血の匂いが広がり、俺の喉が動く。


 傷は脛から膝の下まで裂け、端が紫色に腫れていた。


 まだ温かい。


 牙を入れれば吸える。


 兄は片脚を動かしにくく、妹の方も俺には気づいていない。


 天井から落ちれば、首まで届く。


「まだ針が残ってる」

「抜けるか」

「動かないで」

「さっきから動いてない」

「痛くても動かないでって意味」

「先に言え」


 妹が腰の袋から細い骨の道具を出し、傷口へ入れた。


 兄の爪が石を掻く。


 声は出さない。


 やがて妹が、俺の爪より長い黒い針の欠片をつまみ出した。


「折れてる。もう一本、中にあるかも」

「歩きながら探せ」

「兄さんの脚を抱えて?」

「置いていくより早い」


 妹は返事をせず、薬草らしいものを噛み潰した。


 苦い匂いが血へ混じる。


 傷へ押し当て、新しい布をきつく巻く。


 兄の呼吸が一度止まり、それでも脚を引かなかった。


「フィナ、北の穴へ戻る」

「崩れた音、聞いたでしょ」

「回り道がある」

針尾(はりお)オロチも知ってる道が?」


 兄が黙る。


 フィナ。


 妹の名前らしい。


「西の縦穴は使えない。北へ戻れば追いつかれる」

「じゃあ、ここで待つのか」

「道を探す」

「探してる間にも来る」

「兄さんを背負って走るよりはまし」

「背負えるみたいに言うな」

「できないから困ってるの」


 フィナが立ち上がり、周囲の匂いを確かめた。


 小さな鼻先が、ゆっくり上を向く。


 俺は羽を畳み、天井へ腹を寄せた。


 フィナの眼が暗闇を探る。


「何かいる」


 兄が壁へ立てた槍を掴んだ。


「どこだ」

「上。たぶん」


 槍の穂先が俺のいる方へ向く。


 飛べば避けられる距離だった。


 それでも、落ちるのはやめた。


「来るな。フィナ、後ろへ」

「襲うなら、治療してる間に来てた」

「だから信用するのか」

「してない。見てるだけ」


 フィナが腰の小袋から乾いた実を一つ取り出し、床へ転がした。


 実は石の傾きに沿って進み、俺の下で止まる。


 鼻を刺す匂いが広がり、血と薬草の匂いがその下へ薄れていく。


「匂い消し?」

「少しだけ。針尾蛇(はりおへび)には効かないかもしれない」

「なら使うな」

「何もしないよりいい」


 フィナは細い紐を床の低い位置へ張り、片方を石の隙間へ入れ、もう片方へ小さな骨を結んだ。


 何かが通れば、骨が石を叩く。


 俺が巣の入口へ置いていたものと似ている。


 だが、骨は床に転がしていない。


 紐へ触れた時だけ鳴るように作られていた。


 兄が片脚で立ち上がる。


「レグ、無理しないで」

「兄さんはどこへいった」

「怪我してる時は名前で呼ぶ」

「初めて聞いた」

「今決めた」


 レグ。


 二人は槍と袋を持ち直した。


 フィナが先に立ち、何度も後ろを確かめながら進む。


 レグは右脚を引きずり、それでも妹より前へ出ようとしていた。


 天井から見ている俺へ、最後まで槍を向けたままだった。


 血の匂いが遠ざかる。


 喉は、まだそのあとを追いたがっている。


 俺はすぐには動かなかった。


 人間の三人は、俺の獲物を見つけて皮を持っていった。


 あの二匹も、傷ついた魔物にしか見えない。


 それなのに、首へ落ちる前に話を聞いていた。


 レグがフィナを庇い、フィナがレグの傷を巻いていた。


 教室で誰かが隣にいた時と、少し似ている。


 聞こえなくなるまで待っても、牙を立てなかった理由は分からないままだった。


 床で小さな骨が鳴った。


 一度では止まらず、何度も石を叩く。


 俺は兄妹が消えた方へ飛びかけて、先に骨の鳴った曲がり角へ上がった。


 紐は切れ、床には太いものが腹を擦った跡が残っている。


 黒い尾の先が暗闇から現れた。


 槍の穂先に似た針が生え、その根元から鱗に覆われた長い胴が続く。


 平たい頭が曲がり角を越えるまでに、体の半分が道へ入っていた。


 残りはまだ暗闇の中にあり、全長がどれほどあるのか一度では分からない。


 口の横に並んだ小さな穴が、何度も開閉している。


――――――――――

名称:針尾オロチ

――――――――――


 針尾オロチは、フィナが潰した実の上で頭を止めた。


 舌を出し、匂いの濃い床から顔を背ける。


 それでも迷わず、兄妹が進んだ方へ向いた。


 匂いを消しても、位置が分かっている。


 やがて頭が少し持ち上がり、天井にいる俺へ向いた。


 まだ鳴いていない。


 羽も動かしていない。


 それでも、平たい頭の横にある穴がこちらを捉えていた。


 針尾オロチが体を縮める。


 俺は爪を離した。


 頭が天井まで一気に伸び、開いた口がさっきまでいた場所へ届く。


 牙が石を掠め、白い傷を残した。


 道の奥へ飛ぶと、針尾オロチは追わず、レグの血が遠ざかった方へ進み始めた。


 俺より傷ついた大きな獲物を選んだ。


 兄妹の足音は、前にある分かれ道で止まっている。


「右は?」

「風がない。行き止まりかも」

「左へ行く」

「そっちは水の音がする」

「匂いを流せる」

「熱は消せない」

「冷やせば少しはましだ」


 レグは、針尾オロチが何を見ているのか知っていた。


 二人の足音が左へ移る。


 俺は天井の低い横穴へ入り、針尾オロチより先に分かれ道を越えた。


 水音へ向かう途中で、別の魔物の匂いがした。


 横穴の奥に、細い体が巻かれている。


 針尾オロチほどではないが、伸びれば人間の背丈に近い。


 黒い尾針が石へ触れ、小さく音を立てた。


――――――――――

名称:針尾蛇

――――――――――


 針尾蛇の頭がこちらへ向いた。


 舌を出すより早い。


 こいつも匂いだけを追っていない。


 放っておけば、兄妹がこの横穴へ入った時に挟まれる。


 黒巣へ戻る道も後ろにあった。


 俺の熱を覚えれば、そちらへ来るかもしれない。


 水音の方から、レグの槍と右脚が石を擦る音が聞こえた。


 針尾蛇の平たい頭も、俺を越えてそちらへ傾く。


 巻き直したばかりの血の匂いが、もうここまで届いていた。


 針尾蛇が鎌首を持ち上げる。


 その眼の前を横切って広い道へ出ると、蛇の尾が石を蹴り、細い体が波打つように追ってきた。


 頭と同じ高さを飛ぶ。


 石皮トカゲほど速くはない。


 だが、頭を越えても尾の針が残る。


 開いた口を横へ避けると、尾が少し遅れて反対側から振られた。


 黒い針が胸の下を通り、風だけで毛が逆立つ。


 頭だけを見れば噛まれ、尾を警戒すれば牙が先に届く。


 もう一度正面から近づき、頭が伸びた瞬間に上へ飛ぶ。


 口を越えて背中へ爪を立てたが、蛇はすぐに体を捻った。


 足場にした背中が横へ回り、天井へぶつかる前に爪を離す。


 爪を離して上へ逃げても、尾の針が途中で向きを変えて追ってくる。


 尾まで別の魔物のように動いていた。


 俺は横穴の細い裂け目へ入った。


 頭も長い胴も入ってくるが、蛇が体を曲げられる幅は限られている。


 裂け目の途中で向きを変え、正面から来た牙をぎりぎりで越える。


 片方の眼へ爪を入れると、針尾蛇の頭が石へぶつかった。


 後ろへ下がろうとした長い体が、裂け目の角へ引っかかる。


 傷ついた眼の側から首へ回り、鱗の隙間へ牙を押し込んだ。


 血が口へ入る。


 針尾蛇が暴れ、裂け目全体が揺れた。


 爪が石から外れ、牙だけで首へぶら下がる。


 後ろから尾が迫る音がした。


 大きくは避けられない。


 血を吸いながら蛇の首を壁際へ引き、黒い尾針が飛び込んだ瞬間に体を伏せた。


 針は俺の背中を越え、針尾蛇自身の首へ当たる。


 硬い鱗に弾かれたが、尾はそれ以上こちらへ曲がらない。


 針尾蛇が頭を振り、裂け目の壁へ何度も体を打ちつけた。


 牙が傷口から抜けかける。


 爪を首の下へ入れ、もう一度深く噛んだ。


 血と力を吸い続ける。


 暴れていた胴が少しずつ石へ落ち、尾の針も裂け目の中で止まった。


 心音が消えてから、牙を抜く。


――――――――――

針尾蛇を討伐しました。

経験値を取得しました。

HPが回復しました。


Lvが16から17に上昇しました。

最大HP:38から39に上昇しました。

耐久:17から18に上昇しました。

敏捷:26から27に上昇しました。

精神:14から15に上昇しました。

――――――――――


――――――――――

固有スキル【因子吸収Lv1】が発動しました。

因子【針尾蛇因子】を取得しました。

――――――――――


――――――――――

因子【針尾蛇因子】

毒牙、熱感知、潜伏などが含まれる。

現在の肉体では、まだ適応できない。

――――――――――


 熱感知。


 針尾オロチが匂い消しを無視し、俺を見つけた理由が分かった。


 因子を得ても、同じように熱を感じ取れるわけではない。


 裂け目の外から、大きな体が石を擦る音がした。


 針尾オロチが止まっている。


 針尾蛇の血と、暴れた振動を見つけたらしい。


 レグとフィナを追っていた音が、こちらへ向きを変えた。

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