第015話 血吸いコウモリの群れ
左のひびへ入る前に、俺は残った肉を食べた。
脇腹から流れた分を戻すように、血の残っている場所を選んで噛み、飲み込む。
腹が重くなるまで食べても、傷がすぐに塞がるわけではない。
それでも血は止まり、羽を開いた時の痛みも少しだけ弱くなった。
残った塊を石の下へ押し込み、俺はその上に爪をかけたまま目を閉じた。
眠りは浅く、遠くで羽音がするたびに目を開けたが、入口の骨は一度も鳴らなかった。
次に体を起こした時、脇腹の血は乾いていた。
痛みは残っているが、飛べる。
俺は肉から爪を離し、左のひびへ入った。
狭い道には、二匹が持ち帰った血と肉の匂いが残っている。
迷うことはなかった。
羽を畳んで石の間を進み、少し広くなった場所では短く飛ぶ。
前に血吸いコウモリを追った時よりも奥まで進んだが、脇腹を石に擦らずに済んだ。
道が曲がるたび、糞と乾いた血に混じる獣の匂いが濃くなる。
やがて、前から高い鳴き声が聞こえた。
一匹ではない。
短い声が重なり、違う場所から返ってくる。
俺は爪を止めた。
通路の先は、天井が少し高くなった空洞へ続いている。
奥までは見えないが、天井から垂れた影がいくつも揺れていた。
五匹。
いや、その奥にもいる。
小さいものが多い。
細い声を出して身を寄せ、成体の羽の下へ頭を隠している。
肉を持っていった小さなコウモリも、あの中にいるのかもしれない。
空洞の入口に近い天井には、一匹だけ離れてぶら下がっている。
俺と同じくらいの大きさで、弱っている様子もなく、鼻を動かして何度も通路の匂いを嗅いでいた。
見張りを残したまま奥へ入れば、群れに囲まれる。
ここを通るなら、先に倒すしかない。
戻れば、また俺の肉を狙いに来る。
俺は天井の割れ目へ爪をかけて体を引き上げ、黒い毛を石へ押しつけて羽を畳んだ。
見張りの血吸いコウモリが鳴いた。
音が通路を抜け、俺の体が隠れている割れ目の表面をなぞる。
頭がこちらへ向いた。
気づかれた。
それでも、相手が飛ぶより先に動ける。
血吸いコウモリが羽を開いた瞬間、俺は天井を蹴った。
狙ったのは首だ。
相手も飛び上がり、牙が触れる前に体をひねる。
俺の口は首を外れ、肩の毛へ食いついた。
高い声が耳の奥へ突き刺さる。
血吸いコウモリが羽を激しく打ち、俺の体を石へぶつけた。
背中に痛みが走る。
それでも、牙は離さない。
爪を相手の腹へ回し、両方の羽で覆うように抱え込んだ。
体格はほとんど変わらないが、力は俺の方が上だった。
血吸いコウモリがもう一度体を振る。
俺は肩の毛を噛んだまま牙をずらし、皮膚の薄い場所を探して強く噛んだ。
血が出て、そのまま吸う。
温かい血が喉へ流れ、脇腹の痛みが少し遠のいた。
反対に、血吸いコウモリの羽から力が抜けていく。
相手が壁へ逃げようとするたび、俺は爪を深く立てた。
二匹の体がもつれたまま、床へ落ちる。
石へぶつかる直前に羽を打ったが、支え切れなかった。
俺の下で、血吸いコウモリの体が床へ叩きつけられる。
噛みついた場所から牙が外れた。
血吸いコウモリは片方の羽を引きずりながら、空洞へ戻ろうとした。
逃がさない。
俺は床を蹴り、背中へ飛びついた。
首の横へ牙を立てる。
血を吸うたび、暴れていた体が弱くなる。
細い爪が俺の脇腹を掻き、傷が開いて痛みが戻る。
それでも吸い続けた。
やがて、床を掻いていた足が止まった。
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血吸いコウモリを討伐しました。
経験値を取得しました。
HPが回復しました。
Lvが3から4に上昇しました。
最大HP:11から12に上昇しました。
耐久:4から5に上昇しました。
敏捷:8から9に上昇しました。
感知:10から11に上昇しました。
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固有スキル【因子吸収Lv1】が発動しました。
因子【血吸いコウモリ因子】を取得しました。
因子【血吸いコウモリ因子】の一部が種族特性【微弱音波Lv1】へ統合されました。
種族特性【微弱音波Lv1】が【微弱音波Lv2】へ上昇しました。
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因子【血吸いコウモリ因子】
吸血効率、音波精度などが含まれる。
現在の肉体では、一部のみ適応できる。
種族特性【微弱音波Lv2】
音の反響で、周囲の形と動いている相手の位置を以前より明確に把握できる。
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通知が消えるより先に、空洞の奥から太い鳴き声が響き、頭の奥まで揺さぶられた。
ぶら下がっていた影が、一斉に羽を動かした。
俺は死骸から牙を抜き、空洞の奥を見る。
天井から落ちた影は、羽を広げると俺より一回り大きかった。
首から胸にかけて毛が厚く、片方の耳が裂けている。
さっき倒した個体より古い傷が多かった。
目の奥へ意識を向ける。
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名称:血牙コウモリ
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血牙コウモリは床へ降りず、そのまま俺へ向かってくる。
速い。
俺は死骸を離れ、横へ飛んだ。
牙が脇腹のすぐ横を通る。
避けたはずなのに、相手の爪が羽の端を掠め、体が回って肩から壁へぶつかった。
あいつは止まらない。
壁を蹴った俺へ向きを変え、もう一度鳴いた。
さっき手に入れた音の輪郭が、強い声に潰される。
どこから来るのか分からない。
気づいた時には、胸へ頭をぶつけられていた。
床へ落ちる。
鋭い爪が背中へ食い込んだ。
押さえられる。
俺は首を曲げ、目の前にある羽の付け根へ噛みついた。
牙が厚い毛を押し分けて肉へ入り、血が口の中へ広がった。
吸って、少しでも力を奪う。
血牙コウモリが声を上げ、俺の体を床へ押しつけた。
背中の爪が深くなる。
このまま押さえられれば、腹を裂かれる。
俺は噛みついたまま両足を上げ、相手の胸を蹴った。
牙が肉を裂いて血が飛び、相手の体が少しだけ浮いた。
俺はその下から抜け、羽を打つ。
空洞の入口へ向かうと、奥から倒した個体より小さな羽音が三つ近づいてきた。
あいつ一匹なら、もう一度噛みつけたかもしれない。
四匹を相手にすれば、戻れない。
俺は死骸を置いたまま、通路へ飛び込んだ。
後ろから太い鳴き声が追ってくる。
返ってきた音の中で、あいつの位置が一瞬だけ浮かんだ。
左後ろ。
俺は右の壁を蹴り、体を反対へ振った。
牙が空を噛む。
狭くなる場所まで飛び、羽を畳んで石の間へ滑り込む。
血牙コウモリが入口の石へ肩を擦っている間に、距離が開いた。
あいつはしばらく追ってきたが、群れの空洞から離れると鳴き声を一度だけ上げて止まった。
俺は止まらず、血の匂いを残したまま巣まで戻った。
石の下に押し込んだ肉も残っている。
俺は天井へ上がらず、床に腹をつけた。
背中と脇腹は痛むが、一匹を倒し、血牙コウモリからも血を奪った。
それでも、左の道はまだあいつらのものだ。
俺は残った肉へ牙を立てた。
次に来るのを待つつもりはなかった。




