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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第1章 最弱幼体と太古の血

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第014話 肉を盗むコウモリ

 牙の跡に残った唾液から、前に吸った血と同じ匂いがした。


 あいつだ。


 左のひびへ逃げた血吸いコウモリが、俺のいない間に戻ってきた。


 俺は左のひびの前まで進み、床に置いた骨を見る。


 羽を広げて小さく跳ぶと、骨を鳴らさずに越えられた。


 飛べる相手には、役に立たない。


 俺が眠っている時なら音で分かるが、巣を空ければ肉までは守れなかった。


 肉へ戻り、残った塊へ爪をかけた。


 俺が初めて倒し、ここまで運んだ肉だ。


 喉の奥から、低い声が漏れた。


 残りまで取られるつもりはない。


 追うなら今かもしれない。


 けれど、羽を開いただけで脇腹が痛んだ。


 鼻先の傷も乾いてはいるが、薄羽虫の脚が当たった場所が熱を持っている。


 飛び続けたせいで、爪にも力が入りにくい。


 左の道には、あいつ以外のコウモリもいる。


 この体で入るのは危ない。


 俺は肉の端を噛み切り、その場で飲み込んだ。


 全部を食べ切るには多すぎる。


 だからといって、ここへ置いたまま狩りに出れば、また盗まれる。


 肉を咥え、空洞の奥へ引きずった。


 天井が低くなり、大きな石が壁から突き出している場所まで運び、その下へ肉を押し込んだ。


 ここなら、肉へ近づくには一度床へ降りなければならない。


 上から飛びつかれても、羽を広げる場所は少ない。


 俺は突き出した石の裏へ回った。


 体を押し込み、羽を畳む。


 脇腹の傷が石に触れないように少しだけ体を傾けた。


 肉と左のひびは、どちらも見える。


 今度は、待つ。


 水の音も、石を掻く音も遠く、近くで聞こえるのは自分の息だけだった。


 しばらくすると、羽のだるさが少しずつ引いていく。


 脇腹の痛みは消えないが、さっきよりは爪に力が戻った。


 肉の匂いと、まだ消えていない俺の血の匂いが空洞に残っている。


 来るなら、どちらかを嗅ぎつける。


 目を閉じそうになるたび、爪を石へ立てた。


 眠れば、また取られる。


 やがて、左のひびの奥で小さな音がした。


 骨は鳴らない。


 黒い頭が、ひびから出てくる。


 少し遅れて、裂けた羽が見えた。


 首元には、俺が噛んだ跡が残っている。


 同じ血吸いコウモリだった。


 あいつはすぐには空洞へ入らなかった。


 高い声を一度だけ出し、耳を動かす。


 俺が前にぶら下がっていた天井へ顔を向けた。


 次に、右の道と入口を見る。


 俺を探している。


 石の裏で息を殺した。


 血吸いコウモリは左のひびから飛び、床の骨を越えた。


 羽の端が骨のすぐ上を通ったが、骨は鳴らない。


 肉から少し離れた場所へ降りる。


 鼻を動かし、空洞の奥を見た。


 すぐには近づいてこない。


 こいつも、一度襲われた場所だと覚えている。


 血吸いコウモリがもう一度鳴いた。


 左のひびの奥から、細い声が返る。


 あいつより高く、弱い声だった。


 血吸いコウモリは肉へ進む。


 一歩ごとに止まり、天井と石の隙間を見ている。


 俺の隠れている場所までは分かっていない。


 肉へ顔を寄せた。


 俺は石の裏から飛び出した。


 低い天井の下で羽を一度だけ打ち、肉の前へ降りる。


 血吸いコウモリが跳び退いた。


 俺は肉を背にして牙を見せる。


 あいつも口を開き、高い声を上げた。


 耳の奥が痛む。


 前より少し離れている分、まだ耐えられる。


 俺も鳴いた。


 低い音が石へ当たり、空洞の中で重なる。


 血吸いコウモリが羽を半分だけ広げ、裂けた端が震えている。


 首から流れた血は乾いていたが、傷は塞がっていない。


 俺の脇腹も痛んでいる。


 もう一度噛み合えば、どちらの傷もさらに深くなる。


 それでも、退く気はなかった。


 肉は俺の後ろにある。


 血吸いコウモリが右へ動く。


 俺も同じだけ右へずれた。


 左へ動けば、そちらを塞ぐ。


 何度か繰り返すうちに、相手の口から短い息が漏れた。


 弱っている。


 前に戦った時より、動きが鈍い。


 このままなら、倒せる。


 そう思った時、左のひびで爪が石を掻いた。


 もう一つ、小さな頭が現れる。


 最初のコウモリより、さらに小さい。


 毛は薄く、腹のあたりに骨が浮くほど体が痩せていた。


 小さなコウモリはひびの縁から動かず、肉の匂いを嗅いでいる。


 俺が顔を向けると、すぐに頭を引いた。


 血吸いコウモリが低く鳴くと、小さな頭がもう一度だけ出てきた。


 血吸いコウモリは肉を見て、次に小さなコウモリへ顔を向ける。


 それでも、肉を渡す気はなかった。


 俺も腹が減る。


 狩りへ出ればまた傷を負い、戻るまでに別の魔物と出会うかもしれない。


 ここにある肉は、俺が生きるために必要だ。


 血吸いコウモリが突然、正面から飛び込んできた。


 俺は肉の前で体を低くする。


 牙が鼻先へ向かう。


 顔を引き、首元へ噛みつこうとした。


 相手は羽を打ち、俺の頭上を越える。


 狙いは俺じゃない。


 後ろの肉だ。


 振り向くより先に、肉を噛む音がした。


 俺は床を蹴り、残った肉へ両足の爪を立てた。


 血吸いコウモリが羽を打ち、肉を引く。


 脇腹に痛みが走ったが、爪は離さない。


 肉が引かれ、裂け目が広がる。


 血吸いコウモリは肉の端を咥えたまま、左のひびへ体を向けた。


 その後ろから、別の黒い影が空洞へ入ってきた。


 小さなコウモリだった。


 床すれすれを飛び、引き伸ばされた肉へ噛みつく。


 二匹が同時に羽を打った。


 肉の端が裂ける。


 血吸いコウモリは肉を離し、俺の前へ降りた。


 小さなコウモリが、一切れを咥えたまま左のひびへ戻っていく。


 俺はそちらへ飛びつこうとした。


 血吸いコウモリが目の前へ降り、牙を見せる。


 追えば、こいつに背中を噛まれる。


 こいつへ噛みつけば、肉を持った小さい方が逃げる。


 残った肉は、俺の爪の下にある。


 俺は動かなかった。


 左のひびから、小さな爪音が遠ざかっていく。


 血吸いコウモリは俺を見たまま、後ろへ下がった。


 俺も牙を見せたまま、残った肉の前へ戻る。


 血吸いコウモリは、俺が追わないと分かると、羽を畳んでひびへ入った。


 今度は追わなかった。


 脇腹の傷が開き、毛の下を血が流れている。


 鼻先も痛む。


 それ以上に、肉を取られたことが腹立たしかった。


 残った塊へ爪をかけ、空洞の奥へ引き戻す。


 取られたのは、一口より少し多いくらいだった。


 次に狩りへ出れば、また来るかもしれない。


 だからといって、ずっとここで肉を守ることもできない。


 左のひびの奥から、かすかな鳴き声が続いている。


 見たのは二匹だけだ。


 奥にそれ以上いるのかも、どこで眠っているのかも分からない。


 俺は肉から爪を離し、左のひびを見た。

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