表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第1章 最弱幼体と太古の血

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/19

第013話 飛び方

 左のひびで、もう一度骨が鳴った。


 小さな骨が入口から転がり、空洞の床へ落ちる。


 俺は天井に爪をかけたまま、動かなかった。


 肉は真下にある。


 今なら咥えて、右の道へ逃げられる。


 ひびの奥から、何かが石を引っかく音がした。


 石皮トカゲより軽く、爪の間隔も短い。


 やがて、黒い頭がひびから出てきた。


 尖った耳と、潰れたような小さな鼻。


 畳んだ羽が、細い体の横に張りついている。


 コウモリだった。


 ただ、口元の毛だけが赤黒く汚れている。


 そいつは空洞へ入らず、ひびの縁に爪をかけたまま鼻を動かした。


 見ているのは俺ではなく、下に置いた肉だ。


 目の奥へ意識を向ける。


――――――――――

名称:血吸いコウモリ

――――――――――


 名前が見えた瞬間、相手の耳が動いた。


 視線が上がり、俺と目が合う。


 血吸いコウモリは、俺より少し小さかった。


 片方の羽の端が裂け、腹の下には骨が浮いている。


 弱っている。


 それでも、すぐに敵だとは思わなかった。


 同じコウモリが、俺を見ている。


 転生した直後、同じ巣にいたやつかもしれない。


 確かめる方法はなかった。


 血吸いコウモリが口を開く。


 高い鳴き声が空洞の中で跳ねた。


 近すぎる音に、耳の奥が痛んだ。


 俺も牙を見せ、羽を少し広げる。


 体を大きく見せたかったが、天井にぶら下がったままではうまくいかない。


 相手は一歩だけ空洞へ入った。


 鼻先が肉へ向く。


 次の瞬間、血吸いコウモリが羽を打った。


 狭い空洞の中を滑り、肉へ飛びついて咥える。


 俺は天井から爪を外した。


 真下へ落ち、その背中へ両足をぶつける。


 血吸いコウモリは肉を落とし、俺も一緒に床を転がった。


 石に背中が当たる。


 背中を打って動けない俺より先に、相手が起き上がった。


 小さくても、羽の使い方は向こうの方がうまい。


 畳んだ羽で体を支え、俺の脇腹へ爪を立てる。


 熱い痛みが走った。


 血吸いコウモリの口が開き、牙が顔へ近づく。


 俺は頭を下げ、その首元へ噛みついた。


 毛が口に入り、その奥で牙が皮を破る。


 温かい血が舌へ流れた。


 吸う。


 脇腹に食い込んでいた爪が、少し緩んだ。


 もう一度吸うと、相手の体から力が抜けていく。


 こいつの血も、力も、俺の中へ入ってくる。


 血吸いコウモリは体をひねり、広げた羽で俺を床へ押しつけた。


 爪が傷を抉る。


 それでも牙は離さない。


 血吸いコウモリの鳴き声が、大きく響いた。


 耳の奥へ痛みが突き刺さり、顎の力が一瞬だけ抜ける。


 相手は首を引き抜き、俺の顔を爪で蹴った。


 鼻先が切れ、目の前が揺れる。


 黒い体が床を蹴った。


 逃がすか。


 俺も飛びついたが、牙は裂けた羽の端を掠めただけだった。


 血吸いコウモリは羽を畳み、左のひびへ滑り込んだ。


 俺もひびへ飛びつき、体を押し込む。


 脇腹が石に擦れ、傷が開いた。


 狭くて、羽を広げられない。


 相手が石を掻く音は、迷わず奥へ遠ざかっていく。


 その先で、別の鳴き声がした。


 一匹じゃない。


 ここで前から来られたら、引き返せない。


 俺はひびの外へ戻った。


 肉は取られていなかった。


 床には、相手の血が数滴落ちている。


 口に残った血は生臭かったが、前ほど吐き気はしなかった。


 舌で牙を舐めると、喉が残った血を欲しがった。


 脇腹の傷からも血が滲んでいたが、深くはない。


 あいつは逃げたが、また肉を狙って来るかもしれない。


 俺は肉をもう一口食べ、左のひびへ骨を置き直した。


 そのまま空洞の奥へ戻り、天井に爪をかけて羽を畳む。


 次に目を覚ました時には、脇腹の血は止まっていた。


 傷はまだ痛むが、羽は動く。


 残った肉だけで、ずっと巣に籠もることはできない。


 腐る前に食い切ったとしても、その後はまた狩りに出ることになる。


 右の道から狩りに出られるようにしておきたい。


 それから右の道へ入る。


 白い傷をつけた出口まで進み、頭だけを外へ出した。


 広い通路に魔物の姿はない。


 短く鳴くと、向かいの壁と床から音が返ってきた。


 前に調べた時と変わっていない。


 俺は出口の縁に爪をかけ、羽を広げた。


 床は遠く、落ちれば今の体でもただでは済まない。


 向かいの壁には、爪をかけられそうな割れ目がいくつかある。


 一番近いものでも、飛ばなければ届かない。


 いつまでも壁を這って逃げるわけにはいかない。


 俺は爪を外した。


 体が落ちる。


 すぐに羽を打った。


 右の羽だけが、石に当たる。


 体が横へ回った。


 向かいの壁ではなく、出てきた壁へ背中からぶつかる。


 息が詰まった。


 爪を伸ばすが、滑る。


 もう一度羽を打ち、下にあった細い出っ張りへしがみついた。


 落ちはしなかったが、飛べたとも言えない。


 俺は出っ張りに腹をつけたまま、痛む背中を丸めた。


 羽を開く場所が足りなかった。


 出口から前へ跳ぶんじゃなく、先に下へ落ちてから広げる必要がある。


 出っ張りから壁を登り、元の出口へ戻る。


 爪を休めてから、もう一度縁にぶら下がった。


 今度は真下へ落ちる。


 出口から体が離れてから、両方の羽を広げた。


 空気が膜を押し、落ちる速さが遅くなる。


 羽を打つ。


 体が前へ出た。


 向かいの壁が近づいてくる。


 速すぎる。


 羽を止めても、体はすぐには止まらない。


 両足を伸ばし、壁へ爪を立てた。


 体が石に当たり、羽の端が擦れる。


 それでも、爪は外れなかった。


 向かい側まで来た。


 俺は壁に張りつき、さっきまでいた出口を見る。


 離れて見ると、黒い筋にしか見えない。


 戻らなければならない。


 今度は出口より少し高い場所から爪を外した。


 羽を打ち、体を前へ向ける。


 途中で左の羽を強く打つと、体が右へ傾いた。


 慌てて両方の羽を広げる。


 曲がりすぎた体が戻る。


 出口の横へ爪をかけ、どうにか壁へ止まった。


 行きより少しだけましだった。


 何度も同じ距離を飛んだ。


 高く上がろうとすると、羽に力を入れすぎて体が揺れる。


 曲がろうとすると、片方へ傾きすぎる。


 止まろうとすれば、壁へぶつかる。


 それでも、床へは落ちなかった。


 羽を打つたび、体を傾ける角度と爪を出すタイミングが少しずつ分かってきた。


――――――――――

種族特性【飛行Lv1】を獲得しました。

――――――――――


――――――――――

種族特性【飛行Lv1】

翼を使って短時間飛行し、空中で姿勢と進行方向を調整できる。

急旋回、長時間飛行、重い物を持った飛行は安定しない。

――――――――――


 文字が消えたあと、もう一度向かいの壁へ飛ぶ。


 壁へぶつかる前に体を傾けると、今度は横へ抜けた。


 戻る時も、狙った割れ目へ爪をかけられた。


 そのまま壁を蹴り、もう一度空中へ出た。


 通路の途中で、羽音が聞こえた。


 俺の羽より軽く、細かい音だ。


 上を見ると、天井近くを三匹の羽虫が飛んでいる。


 半透明の羽と、節の目立つ細い腹。


 前に食べたものと同じ魔物だった。


 目を向ける。


――――――――――

名称:薄羽虫

――――――――――


 弱って動けなかった前の一匹と違い、今度は三匹とも天井近くを飛んでいる。


 一番近い薄羽虫へ向きを変えた。


 相手は俺に気づき、急に上へ逃げる。


 追って羽を強く打つ。


 体が浮くが、薄羽虫は天井ぎりぎりで横へ曲がった。


 俺は曲がり切れず、石へ肩をぶつけた。


 薄羽虫が離れていく。


 速さは俺の方が上でも、向きを変えるのは向こうの方がうまい。


 ただ追うだけでは捕まらない。


 俺は一度壁へ爪をかけ、飛び去る三匹を見る。


 薄羽虫は通路の中央を飛び続けず、何度も天井の同じ場所へ戻っている。


 そこだけ石が湿り、白い菌のようなものが広がっていた。


 餌を食べているのかもしれない。


 俺はその近くにある割れ目へ移動した。


 羽を畳み、石へ体を寄せる。


 追わず、戻ってくるのを待つ。


 一匹が白い菌へ近づいた。


 まだ遠い。


 羽音が少しずつ大きくなる。


 薄羽虫が菌へ脚を伸ばした瞬間、俺は壁を蹴った。


 羽を一度だけ強く打つ。


 薄羽虫が逃げる。


 鳴く。


 返ってきた音の中に、小さな体の位置が浮かんだ。


 目で追うより早く、逃げる方向が分かる。


 右へ体を傾け、薄羽虫の前へ回る。


 口を開く。


 羽ごと噛みついた。


 苦い汁が口の中へ広がる。


 薄羽虫が暴れ、細い脚が鼻に当たった。


 噛んだままでは、うまく飛べない。


 体が下へ傾く。


 俺は近くの壁へ向かい、両足を伸ばした。


 爪が石にかかる。


 片方が滑ったが、もう片方で体を支えた。


 薄羽虫を壁へ押しつけ、何度も噛む。


 動かなくなってから、口の中へ押し込んだ。


 前に食べた時と同じ苦い味だったが、壁に張りついたまま残さず食べた。


――――――――――

薄羽虫を討伐しました。

経験値を取得しました。


固有スキル【因子吸収Lv1】が発動しました。

因子【薄羽虫因子】を取得しました。

――――――――――


――――――――――

因子【薄羽虫因子】

羽ばたき制御、群れ感知、微毒耐性などが含まれる。

現在の肉体では、一部のみ適応できる。

――――――――――


――――――――――

因子【薄羽虫因子】の一部が種族特性【飛行Lv1】へ統合されました。

種族特性【飛行Lv1】が【飛行Lv2】へ上昇しました。

――――――――――


――――――――――

種族特性【飛行Lv2】

翼を使って飛行し、以前より安定して姿勢と進行方向を調整できる。

短い急旋回や着地にも対応できるが、長時間飛行や重い物を持った飛行は安定しない。

――――――――――


 残りの二匹はもう通路の奥へ逃げていたが、体が疲れていて追う余裕はない。


 俺は壁伝いに出口まで戻り、白い傷を爪で確かめた。


 細い道を下り、巣へ戻る。


 三つの入口に置いた骨は、どれも動いていない。


 次に、肉へ顔を向けた。


 上に置いた骨が床へ落ちている。


 肉の端が、少しだけなくなっていた。


 噛み切られた場所には、俺より小さな牙の跡が残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ