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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第1章 最弱幼体と太古の血

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第012話 二つの逃げ道

 目を覚ました時、俺はまだ天井にぶら下がっていた。


 爪は外れていない。


 周りに、魔物の気配もない。


 下を見ると、持ち帰った肉も残っている。


 眠っている間に襲われなかった。


 何事もなく目を覚ましたことが、すぐには信じられなかった。


 今までは、目を閉じてもすぐに音で起きていた。


 水の音や、石を掻く音がするたび、何かが近づいてきたと思った。


 ここでは、遠くの音が細いひびを通ってくるだけだった。


 腹も、まだ満ちている。


 空腹で目を覚まさなかったのは、この体になってから初めてだった。


 俺は爪を外し、羽を少し広げて床へ降りた。


 持ち帰った肉へ顔を寄せる。


 血の匂いは薄くなり、表面が乾き始めていた。


 腐ってはいない。


 でも、このまま置けば長くは持たないと思う。


 人間だった頃なら、冷蔵庫に入れればよかった。


 肉の端を少し噛み、飲み込む。


 腹は減っていないのに、取られる前に食っておきたいと思った。


 全部は食えないから、肉を空洞の奥へ押し込み、上から小さな骨を一本置いた。


 隠したというほどではないが、入口からは見えにくくなった。


 次は、奥のひびだ。


 最初に確かめた時、二つに分かれていることまでは分かった。


 行き止まりかどうか、今のうちに確かめておく。


 俺は空洞の奥まで進み、二つのひびの前で鼻を動かした。


 右からは乾いた空気が流れてくる。


 左には、かすかな古い血の匂いがあった。


 黒い骨の裂け目で嗅いだものと似ている。


 先に、右へ行く。


 古い血は気になるが、また体の中が焼けるようなものを飲み込む気はなかった。


 右のひびへ頭を入れる。


 入口は狭いが、少し進むと背中が石に当たらなくなった。


 ひびは緩く上へ続いている。


 爪をかける場所も多い。


 外から何かが入ってきても、ここなら上へ逃げられる。


 途中で一度だけ短く鳴いた。


 返ってきた音は細長く、先の方で急に広がった。


 出口がある。


 俺は腹を石に擦りながら、音が広がった方へ進んだ。


 空気の匂いが変わる。


 湿った水場の匂いが薄れ、獣と土の匂いが混じってきた。


 やがて、ひびの先に暗い空間が見えた。


 すぐには出ず、頭だけを出して左右を見る。


 巣の外よりも広い通路だった。


 俺がいる場所は壁の高い位置で、下までは人間の背丈よりもありそうだ。


 向かいの壁までは、今の俺でも翼を何度か動かさなければ届かない。


 床には折れた骨や、乾いた泥が溜まっている。


 太い爪痕も残っていた。


 近くに魔物はいないが、大きな魔物が通る場所なのは分かる。


 出口としては使えるが、下へ降りるのは危ない。


 俺は壁から身を乗り出し、羽を半分だけ開いた。


 広い。


 狭い裂け目ではできなかった飛び方を試せるかもしれない。


 ここから飛び出すのはやめた。


 腹が重く、大きな魔物が通る場所で飛び方を試すのは危険だった。


 俺はひびへ戻る前に、入口の下へ爪を何度も立てた。


 石の表面が削れ、白い傷が一本残る。


 暗闇でも、爪で触れば分かる。


 巣へ戻る道の印だ。


 来た道を戻る。


 下りは思ったより速かった。


 途中で勢いがつき、頭から石にぶつかりそうになる。


 羽を広げる場所がなく、爪で無理やり止まった。


 俺は速度を落とし、空洞へ戻った。


 肉は取られておらず、上に置いた骨もそのままだった。


 次は左だ。


 ひびの前まで行くと、古い血の匂いが少し強くなった。


 近くに血があるというより、奥から流れてくる空気そのものに匂いが染みついている。


 俺の中にある熱が、わずかに動いた。


 行けと急かされている気がした。


 無視して、ひびへ入る。


 調べるだけだ。


 左の道は、右より狭かった。


 下へ曲がり、途中から石が滑らかになる。


 爪をかけられる割れ目が少ない。


 帰りに登れなくなるほどは降りず、体を低くして爪が届く範囲だけ進む。


 古い血の匂いに混じって、別の匂いがした。


 獣の毛。


 乾いた糞。


 巣に残っていたものと似ているが、こっちはもっと新しい。


 俺は足を止めた。


 目の前の石に、細い傷が何本もついている。


 石皮トカゲの爪痕よりずっと小さい。


 俺の爪と近い大きさだった。


 顔を寄せる。


 同じ巣にいた小さな体の匂いが、一瞬だけ蘇った。


 転生した直後、暗闇の中に残っていた匂いだ。


 コウモリ。


 たぶん、俺以外のコウモリがここを通っている。


 古い跡だけなら、前に巣を使っていたやつかもしれない。


 でも、残っている匂いは巣にあったものよりずっと濃い。


 ここを通ったのは、そう前じゃない。


 近くにいる。


 一匹か、群れかは分からない。


 俺と同じくらい弱いとも限らない。


 来た道を戻ろうとした時、ひびの奥から小さな音が返ってきた。


 高く、短い音だった。


 俺が鳴いた音じゃない。


 もう一度、遠くで鳴る。


 形を探るための鳴き声。


 向こうも、暗闇を見ている。


 俺は音を返さず、ゆっくり後ろへ下がった。


 急げば爪が滑る。


 羽を石へ擦らないように畳み、来た道を戻った。


 空洞まで戻ると、肉の匂いが急に濃くなった。


 俺には食べ物でも、別の魔物にとっても同じだ。


 このままでは、匂いを追って巣まで来るかもしれない。


 肉を捨てる気はなかった。


 俺は床の隅に散らばっていた骨を、一本ずつ咥えて運んだ。


 大きいものは動かせない。


 小さな骨だけを選び、右のひびの入口へ並べる。


 体が触れれば、骨が石へ落ちて音を立てる。


 左のひびにも同じように置いた。


 最後に、入ってきた割れ目の近くへも一本置く。


 三本運ぶだけで、顎が疲れた。


 罠と呼べるものじゃない。


 眠っている間に誰かが入れば、音くらいはする。


 俺は肉を天井のくぼみの真下へ移した。


 何かが来たら、すぐに咥えて逃げられる場所だ。


 それから天井へ上がり、三つの道が見える向きで爪をかけた。


 入口。


 広い通路へ出る右の道。


 古い血と、別のコウモリがいる左の道。


 俺は羽を畳んだ。


 眠るつもりはない。


 左のひびから、もう一度あの音がするかもしれない。


 しばらく待っても、何も聞こえなかった。


 代わりに、置いたばかりの骨が一つだけ石を叩いた。


 音がしたのは、左のひびだった。

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