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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第1章 最弱幼体と太古の血

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第011話 勇者候補の測定

 召喚されてから、二日が過ぎた。


 白峰紗月は、ほとんど眠れていなかった。


 与えられた部屋には柔らかいベッドがあり、食事も温かかった。


 着替えまで用意されていた。


 それでも、扉の外には夜中も騎士が立っていた。


 窓は細く、人が通れる大きさではない。


 保護されているのか、閉じ込められているのか分からなかった。


「白峰、大丈夫?」


 隣を歩いていた佐倉が、小さな声で聞いた。


「うん」

「ならいいけど。あんまり眠れてない?」

「佐倉さんは眠れたの」

「一応ね。全然寝た気はしないけど」


 佐倉は目元をこすった。


 前を歩く騎士が振り返る。


 二人はそれ以上話さなかった。


 案内されたのは、召喚殿より小さな円形の部屋だった。


 中央には、紗月の腰ほどまである透明な水晶が置かれている。


 壁際には白い法衣の聖職者と、濃紺の外套を着た魔術師たちが並んでいた。


 王女セレスティアと、銀の杖を持つオルドもいる。


 昨日と同じ顔ぶれだった。


 クラスメイトたちは、水晶を囲むように並ばされた。


「これより、皆様の資質を確認いたします」


 オルドが言った。


「水晶へ手を触れ、ステータスオープンと唱えてください。表示された内容は、この場にいる者にも開示されます」

「断ったら?」


 榊が聞いた。


 オルドは一度だけ、彼女を見た。


「どのような力をお持ちなのか、私たちも知っておく必要があります」

「だから、やらないって言ったら?」

「榊」


 天城が止めるように名前を呼んだ。


 榊は口を閉じたが、納得した顔ではなかった。


「皆様の力を確認するまでは、自由な行動を認めることはできません」

「その前に、俺たちを何と戦わせるつもりなんですか」


 久我が言った。


「魔境が広がっています」


 セレスティアが答えた。


「魔境?」

「魔物が棲む領域です」

「そこから、魔物が出てくるってこと?」


 佐倉が口を挟んだ。


「はい。古い封印が弱まり、被害も増えています」

「それを止めるために、俺たちを?」

「女神の神託によって、皆様が選ばれたのです」

「俺たちの意思は関係ないのか?」


 久我の声が少し低くなる。


 王女はすぐには答えなかった。


 代わりに、大司教マルセルが穏やかに微笑んだ。


「選ばれたことは、大きな祝福です」

「こんなの、祝福じゃないだろ」


 直也が吐き捨てるように言った。


「帰る方法は」


 天城が聞いた。


「役目を終えた後、教会と魔術院が全力で道を探します」


 帰れるとは言わなかった。


 紗月の周りでも、何人かが同じことに気づいたようだった。


 二階堂が舌打ちする。


「とりあえず、これ触ればいいんだろ」


 彼は水晶へ近づこうとしたが、天城が先に前へ出た。


「俺からやる」

「陽斗」

「誰かがやらないと進まないだろ」


 天城は水晶の前に立ち、右手を置いた。


 一度息を吸う。


「ステータスオープン」


 水晶の内側に白い光が灯った。


 光は薄い板の形になり、天城の前へ広がる。


――――――――――

名前:天城陽斗

種族:人間

Lv:1


HP:32/32

MP:18/18


筋力:12

耐久:11

敏捷:10

感知:8

魔力:9

器用:8

精神:12


種族特性:

なし


固有スキル:

なし


スキル:

剣術・最下位Lv1

光魔法・最下位Lv1

指揮Lv1


称号:

異界より招かれし者

勇者候補

――――――――――


――――――――――

称号【異界より招かれし者】

異なる世界から勇者召喚によって招かれた者に与えられる称号。

言語理解、ステータス理解、成長率に補正を得る。


称号【勇者候補】

勇者となる可能性を持つ者に与えられる称号。

剣術、光属性魔法、指揮系スキルの習得と成長に補正を得る。

――――――――――


 魔術師たちの間から、声が漏れた。


「三つも」

「初期値も高い」


 小声だったが、静かな部屋では聞こえた。


 大司教の笑みが深くなる。


「見事です。やはり神託に選ばれた方」


 天城は嬉しそうには見えなかった。


 表示された文字を見たあと、こちらを振り返る。


「みんなにも、同じような力があるんですか」

「それは、測ってみなければ分かりません」


 オルドが答えた。


「ただ、異界から来た方は、この世界の者より早く強くなると言われています」


 次に二階堂が水晶へ手を置いた。


 筋力十四、耐久十三。


 天城を上回る数字が出た瞬間、二階堂の口元が上がった。


「身体強化・下位Lv1」


 二階堂が表示を読み上げる声には、さっきまでとは違う勢いがあった。


「俺も当たりってことだろ」

「戦士として、非常に優れた資質です」


 騎士の一人が答える。


 二階堂は天城を見た。


 天城は何も言わなかった。


 その後も測定は続いた。


 魔法適性を二つ持つ者。


 弓や槍の技能を持つ者。


 戦闘向きの力が一つも出ず、顔を伏せる者もいた。


 結果が出るたび、王国側の反応が変わった。


 声のかけ方。


 記録する速さ。


「次、久我颯真様」


 久我は呼ばれる前から水晶を見ていた。


 手を置いても、すぐには唱えない。


「この表示は、どこまで正確なんですか」

「現在の能力と、魂に定着した資質を読み取ります」

「隠すことは?」

「通常はできません」


 オルドの答えに、久我は短く息を吐いた。


「ステータスオープン」


――――――――――

名前:久我颯真

種族:人間

Lv:1


HP:20/20

MP:42/42


筋力:5

耐久:5

敏捷:6

感知:13

魔力:17

器用:11

精神:14


種族特性:

なし


固有スキル:

なし


スキル:

魔力感知Lv1

四属性魔法・最下位Lv1

魔術解析・下位Lv1


称号:

異界より招かれし者

賢者候補

――――――――――


――――――――――

称号【賢者候補】

賢者となる可能性を持つ者に与えられる称号。

魔力の成長と、魔法、解析系スキルの習得に補正を得る。

――――――――――


 今度は、魔術師たちがはっきりざわめいた。


「魔力十七」

「四属性に、解析まで」


 オルド自身も、水晶の表示から目を離さなかった。


 久我は何も言わず、水晶から手を離した。


「三枝直也様」


 直也の肩がわずかに動いた。


「俺か」

「三枝」


 天城が声をかける。


「大丈夫だ」

「何が出るか分からないのに、よく言えるな」


 直也は軽く返したが、水晶へ向かう足は遅かった。


 手を置く。


「ステータスオープン」


――――――――――

名前:三枝直也

種族:人間

Lv:1


HP:23/23

MP:13/13


筋力:7

耐久:7

敏捷:8

感知:7

魔力:6

器用:8

精神:8


種族特性:

なし


固有スキル:

なし


スキル:

短剣術・最下位Lv1

危機察知Lv1


称号:

異界より招かれし者

――――――――――


 誰も声を上げなかった。


 悪い数字ではないのだと思う。


 けれど、天城や久我の後では、部屋の反応があまりにも静かだった。


「以上です」


 記録係が淡々と言った。


「え、候補とかは」

「現時点では確認されておりません」

「そっか」


 いつものように笑おうとして、少し失敗した。


「まあ、危機察知って逃げるのには使えそうだな」


 誰に言ったのか分からない。


 黒瀬くんなら、逃げられるなら当たりだろ、と言ったかもしれない。


「次、白峰紗月様」


 呼ばれて、紗月は顔を上げた。


 水晶までの距離が、急に遠く見える。


 直也と入れ替わる時、一瞬だけ目が合った。


「頑張れ、って言うのも違うか」

「うん」

「正直だな」


 直也が少しだけ笑う。


 紗月は水晶の前に立った。


 透明な表面へ手を置く。


 冷たい。


 召喚殿の床と同じ冷たさだった。


「ステータスオープン」


――――――――――

名前:白峰紗月

種族:人間

Lv:1


HP:18/18

MP:36/36


筋力:4

耐久:5

敏捷:6

感知:12

魔力:15

器用:9

精神:16


種族特性:

なし


固有スキル:

なし


スキル:

治癒魔法・下位Lv1

結界魔法・最下位Lv1


称号:

異界より招かれし者

聖女候補

――――――――――


――――――――――

称号【聖女候補】

聖女となる可能性を持つ者に与えられる称号。

治癒、結界、聖属性魔法の習得と成長に補正を得る。

――――――――――


 大司教マルセルが一歩前へ出た。


「聖女候補」


 その声だけで、周囲の聖職者たちが動いた。


 紗月の名前が別の紙へ書き写される。


「白峰様には、教会で治癒と結界について学んでいただきます」

「クラスのみんなと一緒では駄目なんですか」

「もちろん、生活の場を完全に分けるわけではありません」


 完全には。


 その言葉が引っかかった。


「治癒魔法があれば、どんな傷でも治せますか」


 気づけば、そう聞いていた。


 大司教は優しく答える。


「熟練すれば、多くの傷を癒やせるでしょう」

「体が、半分なくなっていても」


 部屋が静かになった。


 直也が顔を上げる。


 大司教の笑みが、ほんの少しだけ薄くなった。


「失われた命を戻すことは、治癒ではありません」


 紗月は水晶から手を離した。


 聞いても意味はないが、確かめずにはいられなかった。


 測定は再開された。


 けれど紗月は、もうほとんど結果を聞いていなかった。


 壁際の机に、召喚名簿が置かれている。


 測定を終えた名前の横には、青い印が増えていた。


 その中に、印のない名前が二つ残っている。


 黒瀬湊。


 灰原透。


 係の術士が名簿を閉じようとした時、オルドが言った。


「未召喚者二名は、召喚失敗による死亡として記録しろ」

「遺体は確認できていませんが」

「生存反応もない。規定どおりだ」


 紗月はオルドを見た。


 彼はもう、こちらを見ていなかった。


 術士が黒いインクをつけた羽根ペンを持つ。


 黒瀬湊と灰原透の名前の横に、黒い印がつけられた。


 測定を終えた者から、部屋の左右へ分けられていく。


 高い戦闘適性を持つ者は騎士側。


 魔法適性を持つ者は魔術院側。


 治癒や結界を持つ者は教会側。


 目立った適性がないと判断された者は、中央の壁際。


 直也はそこにいた。


 紗月が直也の方へ戻ろうとすると、白い法衣の女性が前へ出た。


「白峰様はこちらです」


 示されたのは、大司教の近くだった。


 直也が何か言おうとして、やめる。


 天城は騎士たちに囲まれていた。


 久我は魔術師と話している。


 二日前まで、同じ教室にいた。


 今は、出た力によって立つ場所まで決められている。


 紗月は教会側へ歩いた。


 背後で、水晶がまた光った。


 次の誰かの名前と数字が、部屋の中に開いていく。

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