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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第6章 魔境を拓く者

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第117話 見えない空

 鎧羽ガラスを集落の中へは入れなかった。


 取引小屋の外へ、平たい石を置く。


 その上へ死骸を下ろした。


 運んだ間に、空は暗くなっていた。


 もう一羽の心音はない。


 追っては来なかった。


「脚を見せな」


 ゴルナがレグへ言う。


「大ガラスが先だ」

「逃げないよ」

「血が固まる」

「あんたの脚も腫れる」


 レグは槍から手を離さなかった。


 右脚へ体重をかけると、口元が少し動く。


「先に座って」


 フィナが木箱を置いた。


「立てる」

「分かってるから、座って」


 レグは文句を言いながら座った。


 ゴルナが右脚の布を外す。


 治りかけていた傷は開いていない。


 膝の下が、少し熱を持っていた。


「今日は冷やす」

「明日は」

「腫れを見てから」

「走るのは」

「聞くまでもないね」


 レグの耳が倒れる。


 俺も背中の布を外した。


 左の上腕は、血が乾いている。


 背中の傷は、自分では見えない。


 フィナが水で濡らした布を当てた。


「浅い」

「届く?」

「傷には」

「俺の手」

「届かない」

「なら、また巻いて」

「最初からそう言えばいいのに」


 新しい布ではない。


 血を拭いた場所だけを内側へ折り、同じ布を使った。


 鎧羽ガラスの体を見る。


 背中と翼の外側は、黒い羽が重なっている。


 一本抜こうとしても、根元が深い。


 ゴルナが短い刃を持ってきた。


「先に胸を開く」

「羽は」

「冷えてからの方が抜きやすい」

「肉は食える?」

「食えるけど、硬い」

「血は」

「あんたが飲んだ」

「全部じゃない」

「残りは煮ても匂いが強いよ」


 胸の羽を分ける。


 外側より柔らかい。


 レグの槍は、その間から入っていた。


 俺が爪を立てた腹側も同じだった。


「硬いのは全部じゃない」


 フィナが翼を広げる。


「外から当たる場所だけ」

「下へ入れば切れる」

「入るまでに切られるけどね」


 硬い風切り羽を一本抜く。


 縁は薄く、指で押しても曲がらない。


 町へ持っていけば、素材になる。


 羽の根元には、少しだけ血が残っていた。


 因子吸収は反応しない。


 もう、この個体から取れるものは取ったらしい。


 腹を開くと、食べたものが出てきた。


 鼠の毛。


 虫の殻。


 細い骨。


 その中に、小さな黒い爪があった。


 血吸いコウモリの後脚の爪だった。


「こいつが食べた?」


 フィナが聞く。


「たぶん」

「もう一羽かもしれない」

「どっちでも同じ」


 残る一羽も、同じ場所へ餌を取りに来る。


 ゴルナが傷んでいない硬い羽を六本抜いた。


「二本は肉代」

「多い」

「町で値段を聞くんだろう」

「一本でいい」

「一本で銅貨二枚になる?」

「分からない」

「なら二枚預かる」


 町で売れた値段を聞いてから、差を戻すつもりらしい。


 俺は残る四本と、嘴を受け取った。


 肉と柔らかい羽は、集落へ置く。


「もう一羽はどうする」


 レグが聞く。


「夜に行く」

「今から?」

「休んでから」

「傷ついてるなら逃げるぞ」

「昼は俺が不利だった」

「夜なら」

「向こうが見えない」

「割れ角岩にいるとは限らない」

「血を探す」


 俺がつけた腹の傷から、黒い血が落ちていた。


 匂いが消える前なら追える。


「私も行く」


 フィナが言う。


「夜は見えない」

「匂いは分かる」

「俺の方が分かる」

「昼は私がいた方がよかった」

「夜は飛ぶ」

「地面で待つ」

「待つだけ?」

「逃げて下りたら罠を張る」


 最初に誘われた時なら、断っていた。


 昼の戦いでは、フィナがいなければ岩の裏へ抜ける道を見つけられなかった。


 今日も、罠へ落としたのはフィナだった。


「割れ角岩まで」

「その先へ行ったら?」

「戻る」

「分かった」

「一人で追わないで」

「それはミナトでしょ」


 黒巣へ戻り、服を置いて蝙蝠の姿へ変わった。


 天井へ爪をかけ、翼を畳む。


 六匹の心音が、いつもの場所にある。


 眠っている間に、左翼の切れ目が少し閉じた。


 背中の傷も、血が乾いて引きつるだけになった。


 夜が深くなってから起きる。


 人型へ戻らず、外へ出た。


 フィナは水路の入口で待っていた。


 短弓は持たず、縄と短い刃だけを持っている。


「矢は」

「夜は当てられない」


『行く』


 血の匂いは、まだ岩場に残っていた。


 昼に逃げた一羽を、夜まで待ってから追う。


 割れ角岩に、鎧羽ガラスはいなかった。


 昼に休んでいた二つの場所も空いている。


 血の匂いだけが、北へ続いていた。


『こっち』


 飛び出しかけて、フィナの足音がついてこないことに気づいた。


「割れ角岩まで、でしょ」


 北へ向くと、まだ新しい血の匂いがした。


 あの腹へつけた傷だ。


『まだ追える』

「私は、ここで戻る話をしてる」


 近くの枝へ爪をかけた。


 一人で行くと言えば、さっきと同じになる。


『匂いを見失ったら戻る。そこまで、一緒に来て』

「見つけても、また逃げたら?」

『今夜は終わりにする』


 フィナは北の暗がりを見てから、腰の縄を持ち直した。


「それなら行く。見つけたら、先に場所を教えて」


 フィナが歩き始めるのを待ち、枝から離れた。


 俺は木より低い場所を飛んだ。


 左翼の切れ目は痛む。


 昼ほど空気は抜けなかった。


 血の跡は、途中で一度途切れた。


 フィナがしゃがむ。


「飛んだ?」


『上』


 近くの枝に、黒い血がついている。


 そこで休み、また北へ移ったらしい。


 匂いを追う。


 割れ角岩より低い丘へ出た。


 斜めに倒れた大石が、木々の間から突き出ている。


 その上に、一つの心音があった。


『いる』


「見える?」


『見えない』


 音の輪郭だけが返ってくる。


 翼を畳んだ大きな鳥。


 腹側の呼吸が速い。


 眠っていない。


 俺たちが来るのを待っていた。


「どうする」


『左へ行って』


「どこまで」


『石三つ』


 フィナが倒れた大石から離れる。


『合図で、石を叩く』


「何回」


『一回』


「その後は」


『岩の下』


 フィナの足音が小さくなる。


 鎧羽ガラスの頭が、そちらへ動いた。


 夜でも、音は聞こえている。


 俺は反対側から上がった。


 飛行Lv3で羽音を抑える。


 昼より近づける。


 鎧羽ガラスが、足元の小石を嘴へ挟んだ。


 フィナの場所へ顔を向ける。


『今』


 石を打つ音がした。


 鎧羽ガラスが首を振る。


 小石が闇へ飛んだ。


 フィナがいた場所より、少し右へ落ちる。


 昼ほど正確ではない。


 その背後へ入った。


 腹の傷を狙う。


 爪が柔らかい羽を分けた。


 昼に開いた傷へ、もう一度入る。


 鎧羽ガラスが翼を広げた。


 硬い羽が顔の前を通る。


 離れる。


 大ガラスは、崩れるように大石から飛び出した。


 夜の空へ上がる。


 俺も追う。


 速度は向こうが上だった。


 それでも、進む方向が真っすぐではない。


 木の枝へ何度も翼が触れている。


 見えていない。


 鎧羽ガラスが大きく鳴いた。


 声が木々へ返る。


 俺の位置を探している。


 上から嘴が来る。


 音を返す前に横へ外れた。


 嘴が脇腹を掠める。


 毛が抜け、皮膚へ痛みが走った。


 大ガラスの体を見失う。


 翼の音は聞こえる。


 右。


 違う。


 木へ反響して、二つに分かれていた。


 低く鳴く。


 輪郭を取り直す。


 鎧羽ガラスは、俺の上にいる。


 急に落ちてきた。


 左へ避ける。


 左翼の傷が引きつり、体が遅れた。


 嘴が背中の毛を掴む。


 持ち上げられる。


 鎧羽ガラスの脚が腹へ近づいた。


 掴まれれば、硬い爪が入る。


 口を開き、すぐ近くの頭へ音撃を放った。


 大ガラスの嘴が緩み、俺は落ちた。


 枝の上を掠め、翼を開いた。


 左翼が痛い。


 それでも、地面へは落ちなかった。


『フィナ、右の石』


 念話を送る。


「どれ!」


『大きいの』


「全部大きい!」


 下で、いくつもの石が鳴った。


 フィナが短い刃で、近くの石を順に叩いている。


 鎧羽ガラスは何度も頭を動かし、どの音を追えばいいか決められずにいる。


 俺は上へ回る。


 逃げるなら、木のない方へ行く。


 鎧羽ガラスも同じ方を探していた。


 開けた空へ向きを変える。


 その先にある岩へ音撃を当てると、大きな音が正面から返った。


 鎧羽ガラスは反射的に横へ避け、倒れた大石の尖った端へ硬い翼をぶつけた。


 金属を叩くような音がする。


 鎧羽ガラスの体が落ちるが、地面へ届く前に片翼だけで持ち直そうとする。


 上から追いつき、柔らかい首の下へ爪をかけて体重を乗せる。


 皮膚が裂け、黒い血が飛んだ。


 鎧羽ガラスが嘴を向ける。


 離れる前に、翼で打たれた。


 一緒に落ち、岩の斜面へ体が当たった。


 鎧羽ガラスが先に起き上がる。


 片翼は下がったまま。


 それでも、嘴は動く。


 俺の頭へ伸びた嘴を横へ転がって避けると、脇腹の傷が石へ擦れた。


 大ガラスが追う。


 地面では、俺の方が小さい。


 嘴が当たれば、一度で骨まで届く。


 昼と同じように岩の隙間へ入ると、頭までは入らず、嘴だけが伸びてきた。


 避ける。


 鎧羽ガラスは傷ついた翼を岩へ当てながら体を寄せ、俺を掴もうと片脚を隙間へ入れた。


 その脚へ縄がかかり、フィナが岩の反対側から引く。


「捕まえた!」


 大ガラスの体が横へ倒れ、嘴が隙間から抜けた。


 外へ飛び出し、フィナへ向く前に首の傷へ爪を入れた。


 一度。


 もう一度。


 柔らかい場所を裂く。


 大ガラスの嘴が地面を叩いた。


 縄を引く力が弱くなる。


 心音が止まった。


――――――――――

経験値を取得しました。

Lvが35から36に上昇しました。


最大HP:292から296に上昇しました。

敏捷:192から196に上昇しました。

器用:144から148に上昇しました。

――――――――――


 左翼の切れ目は残っている。


 脇腹も痛い。


 レベルが上がっても、傷は閉じなかった。


 鎧羽ガラスの首へ牙を立てる。


 温かい血を吸う。


――――――――――

固有スキル【因子吸収Lv1】が発動しました。

同種因子【鎧羽ガラス因子】を追加吸収しました。


因子【鎧羽ガラス因子】の適応範囲が拡大しました。

因子【鎧羽ガラス因子】の一部が種族特性【飛行Lv3】へ統合されました。

種族特性【飛行Lv3】が【飛行Lv4】へ上昇しました。

――――――――――


――――――――――

種族特性【飛行Lv4】

空中での急な方向転換と、崩れた姿勢の立て直しが以前より安定する。

翼へ当たる風の変化を、以前より細かく感じ取れる。

――――――――――


 血を飲んでも、傷はすぐには消えない。


 体を動かす力だけが少し戻った。


「終わった?」


 フィナが縄を持ったまま聞く。


『終わった』


「噛まれた?」


『掴まれた』


「同じじゃない?」


『違う』


 人型へ戻る。


 脇腹と背中に、新しい傷があった。


 左の上腕にも、昼の傷が残っている。


 死骸を岩の窪みへ押し込み、上から枝を重ねた。


 朝になってから、運びに来る。


 今夜は、これ以上持てなかった。

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