↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第6章 魔境を拓く者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/119

第107話 使えない銀貨

 片靴亭へ戻ると、ベッカが鍵箱から俺の鍵を抜いていた。


「今朝まで」

「また七日」

「先に部屋を見てきな」

「何で」

「荷物を置きっぱなしにしてないか、忘れてる顔だから」

「置いてる」

「分かってるならいい」


 ベッカが鍵を戻す。


 机へ銀貨二枚と銅貨八枚を置いた。


 所持金は銅貨五枚になった。


「また減らしたね」

「七日ある」

「金の方だよ」

「仕事する」

「その腕で?」

「治った」


 右手を握る。


 痛みはあるが、指は全部動いた。


「治った顔じゃないね」

「顔で分かる?」

「あんたは痛い時、右肩だけ上がる」


 自分では気づいていなかった。


 肩を下げる。


「今、隠しても遅いよ」


 ベッカが帳面へ七本の線を引く。


「それと、登録証を見せな」

「何で」

「色が違う」


 小袋から、深緑の縁の板を出す。


 ベッカは文字ではなく、縁だけを見た。


「Eになったのかい」

「今日」

「なら、壊す物も増えるね」

「何で」

「遠くへ行けるようになるだろ」

「低危険度だけ」

「その言葉を守れるならいいけどね」


 登録証を返される。


「宿代は安くならない?」

「高くしても払えるようになったんだろ」

「今、五枚しかない」

「先に言いな」

「払った後だから」


 ベッカは銀貨を返さなかった。


 個室へ上がる。


 机の奥には、別の革紐がある。


 銀貨一枚と銅貨二枚。


 集落へ返す灰灯苔の売上。


 自分の金より多い。


 その横に、二束分の繰越札がある。


 銀貨を一枚取る。


 手の中へ置けば、宿を二泊以上延ばせる。


 食事も血も買える。


 集落に戻るまで、誰も数えない。


 革紐へ戻す。


 使えば、次に灰灯苔を渡されなくなるかもしれない。


 そうでなくても、俺の金ではなかった。


 古い文字表を開く。


 売。


 町。


 道。


 覚えた形を指で追う。


 集落の木札には、セインという名前しか書けなかった。


 次は、売った値段も自分で残せるようになりたい。


 夕食は豆粥だけにした。


 銅貨一枚。


 所持金は銅貨四枚。


「肉は」


 ベッカが聞く。


「いらない」

「金がないから?」

「血を飲む」

「それも金が要るだろ」

「明日の朝、一枚」

「残り三枚」

「数えなくていい」

「倒れて宿代を踏み倒されたら困る」

「七日払った」

「八日目に倒れるかもしれない」


 粥を食べ終える。


 人間の食事だけでも空腹は少し和らいだ。


 部屋へ戻り、鍵をかける。


 翌朝、残る宿泊は六泊。


 食肉解体店で銅貨一枚を払い、豚の血を二杯飲んだ。


 所持金は銅貨三枚。


 片靴亭へ戻り、集落の金と繰越札を小袋へ入れる。


「今日はどこへ」


 ベッカが聞く。


「集落」

「何日」

「明日には戻る」

「Eになって最初の仕事は?」

「まだ」

「金を返しに行く方が先かい」

「俺のじゃない」


 ベッカは一度だけ頷いた。


「なら、落とすんじゃないよ」


 東門で、一日か二日町を離れると届けた。


 自分の銅貨三枚より、使えない銀貨の方を服の奥へ入れた。


 三本爪の荷置き場へ着くと、入口の前にフィナがいた。


 背殻の下へ溜まった黒い粒を、木片で集めている。


「また来た?」

「夜に一匹」

「見た?」

「見張りが見た」


 血吸いコウモリの糞だった。


 入口へ詰めた泥は崩れていない。


 中に苔もないため、光は漏れていなかった。


「虫がいなくなったら来ない?」

「場所を覚えた」

「なら、ここで寝るかも」

「入口は駄目」


 頭上を見る。


 水路の壁に、浅い窪みがあった。


 入口からは少し離れている。


「あそこへ血を置く?」


 フィナが聞く。


「置いたら毎日来る」

「今も来てる」

「餌は自分で取ってる」

「じゃあ、何もしない?」

「入口の糞だけ片づける」


 追い払えば、黒巣へ戻るとは限らない。


 餌を置けば、ほかの個体まで集まる。


 今は一匹が虫を食うだけだった。


 荷置き場を閉じ、集落へ向かう。


 小門の前では、レグが槍を持って歩いていた。


 右脚に木の固定はない。


 歩幅は左右で違うが、槍を地面へついていない。


「治った?」

「走れはしない」

「槍は使える?」

「突くだけなら」

「振るのは」

「まだ無理だ」


 前なら、できることだけを答えたと思う。


 今はできないことも自分から言った。


 レグが俺の右腕を見る。


「そっちは」

「刀は使える」

「治ったのか」

「強く握ると痛い」

「同じだな」

「脚と腕は違う」

「場所の話じゃない」


 フィナが後ろで笑った。


 取引小屋へ入る。


 ゴルナの前へ、銀貨一枚と銅貨二枚を置いた。


「乾いた方も売れた?」

「乾いた方が五枚、生が十一枚」

「合わせて十六」

「俺が四枚」

「十束分だね」


 繰越札も渡す。


 フィナが数字を見る。


「十二と、二」

「十二束売って、二束は次」

「セインの名前もある」

「書いた」

「前よりまっすぐ」

「右手だったから」


 フィナは木札をゴルナへ渡した。


「乾かすと半分以下か」


 ゴルナが銀貨を指で回す。


「その代わり、二十日以上置ける。生は三日で値が下がる」

「毎回、三日で町へ行けるのか」

「依頼がなくて、怪我もしてなければ」

「雨で道が塞がることもある。その時は乾かすしかないね」


 ゴルナは机の端へ、石を六つ並べた。


「六束までは生で置く」


 その後ろへ、別の石を二つ置く。


「次に刈れる分が増えて、三日で運べないなら乾かす」

「最初から半分ずつじゃない?」


 フィナが聞く。


「毎回六束しか採れないなら、全部生の方が高い」

「でも、ミナトが来なかったら」

「その時に乾かせばいい」


 生のまま運べる量を先に売る。


 運べず傷みそうな分だけを乾かす。


 乾燥品を作るために、わざわざ生の値段を捨てる必要はない。


「この金は何に使う」

「まだ使わない。塩は前のがあるし、布もすぐには足りなくならない」

「なら、鉄?」

「値段を聞いてから決める」


 ゴルナが銀貨を革袋へ入れる。


 俺が町で金を持っていても、同じことを言われると思う。


「Eになった」


 深緑の登録証を出す。


 フィナが縁へ触れた。


「緑になった」

「遠くの依頼も受けられる」

「町から、もっと離れるの?」

「たぶん。それでも、荷置き場には戻る」

「何日ごとに?」

「依頼による」


 ゴルナが六つの石を見る。


「なら、苔を刈る日をあんたに合わせるのはやめる」

「どうする」

「六束たまった日を木札へ刻む。あんたが来た時に見ればいい」

「来るのが遅かったら?」

「待たずに乾かす」


 俺が毎回来ることを前提にしない。


 それでも、売る道は残る。


 繰越札は、ゴルナが細い革袋へ入れた。


「これは次に返す」

「町で見せる」

「忘れないよう、フィナが持ちな」

「ゴルナが今入れたよ」

「あとで渡す」

「今でいいじゃない」


 フィナが袋を受け取るまで、二人のやり取りは続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。