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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第6章 魔境を拓く者

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第103話 同じ六束

 朝、荷置き場の天井に血吸いコウモリはいなかった。


 床には、新しい糞が増えている。


 夜の間に戻り、また虫を食っていったらしい。


 入口から光は漏れていない。


 苔の匂いか、昨日までの場所を覚えているのだと思う。


 集落の小門へ向かう。


 見張りが俺の右腕を見てから、内側へ声をかけた。


 出てきたフィナも、最初に同じ場所を見る。


「今度は何?」

「大モグラ」

「黒骨洞にいたの?」

「石切り場」

「町の依頼で、また魔境みたいなことしてる」

「人もいた」

「余計に悪いじゃない」


 弓を背負ったフィナが、小門の脇へ籠を二つ置く。


「苔を見るんでしょ」

「乾いた六束は残ってる」

「新しいのは、まだ刈ってない」

「今日刈る」

「その腕で?」

「左は動く」

「籠は私が持つ」

「片方は持てる」

「帰りに落とす」


 言い返す前に、ゴルナが柵の内側から出てきた。


「昨日の夜、荷置き場へ戻ったんだって?」

「見張りが言った?」

「水路を通れば分かるよ」

「コウモリもいた」

「あんたの?」

「黒巣にいた一匹」

「苔を食ったのかい」

「虫を食ってた」

「なら、番を増やしたと思えばいい」

「入口が汚れる」

「番は糞を片づけないからね」


 ゴルナが籠の底を確かめる。


 湿った苔を入れる方には、目の粗い布が敷かれていた。


「乾いた方は、袋へ入れな」

「潰れる」

「乾いてるなら、少しくらい重なっても腐らない」

「折れる」

「粉にするんだろ」

「町で形も見るかもしれない」


 ゴルナが俺を見た。


「なら、聞いてから袋へ入れな」


 乾かすだけで、扱い方まで変わる。


 フィナと灰灯苔の生える水路へ向かう。


 壁の低い場所に、青灰色の光が続いていた。


 前に刈った跡からは、短い葉が出ている。


「そこは残す」


 フィナが言う。


「もう刈れる」

「次が遅くなる」


 少し奥へ進み、葉が厚く重なった場所だけを選ぶ。


 石へ張りついた根元を残し、表の葉を薄い刃で切った。


 右手は添えるだけにする。


 左手で刃を動かすと、切り口が斜めになる。


「下手」

「右ならできる」

「今日は左だから、下手」


 フィナが隣の一束を切る。


 俺より速く、根元も傷つけない。


「前は俺が教えた」

「前に教わったから、今は私の方がうまい」

「一回で?」

「何回も刈ってる」

「売る前にも?」

「邪魔だから」


 集落にとっては、元から何度も削っていた苔だ。


 売れると知った俺より、刈ることには慣れている。


 六束を籠へ並べる。


 新しい葉は、水を含んで重かった。


 荷置き場へ戻り、棚の古い苔と並べる。


 乾いた六束は、両手で持たなくても動かせた。


 同じ六束なのに、籠の重さは半分もない。


「これ、町で同じ値段?」


 フィナが聞く。


「乾いた方は重さで買う」

「軽くしたら安くなるの?」

「長く置ける」

「置ける分の値段は?」

「まだ分からない」

「なら、乾かした方が得か分からないね」

「それを聞く」


 乾いた葉を、布の上へ二束ずつ戻す。


 今日運べば、形を崩さず持っていける。


 けれど、新しい六束も町へ出す。


 二つを同じ籠へ入れれば、湿気が乾いた葉へ移る。


「籠を二つ背負う?」


 フィナが聞く。


「無理」

「一つは私が町まで持つ?」

「集落が見つかる」

「途中までなら」

「水路の外へ出ない」


 ゴルナが、乾いた籠の上へ細い木枠を組んだ。


 下へ新しい苔。


 木枠を挟み、上へ乾いた苔を置く。


 互いに触れない。


「重い?」


 背負う。


 右腕へはかからないよう、肩紐を左へ寄せた。


 体が傾く。


 歩けないほどではない。


「今日は町へ戻らない」


 ゴルナが言う。


「何で」

「その歩き方で暗い道を行けば、苔より先にあんたが潰れる」

「日がある」

「町まで全部は残ってない」


 フィナも籠の後ろを押さえている。


 離されると、少しよろけた。


「明日の朝」

「腕も一日休める」

「苔は」

「一晩で腐るなら、三日ごとに売れないだろ」


 新しい六束を棚へ移し、乾いた六束とは布を分けた。


 同じ数でも、置く場所も運び方も違っていた。


 翌朝、右腕の布を巻き直した。


 指は全部動く。


 強く握ると痛むが、昨日より痺れは少なかった。


 ゴルナが組んだ木枠を、籠の中へ入れる。


 下に新しい灰灯苔を六束。


 上に乾いた六束。


 間へ布を張り、葉が触れないようにした。


「帰ったら、値段だけじゃなく使い方も聞きな」


 ゴルナが肩紐を引く。


「聞く」

「どっちが高いかだけで決めるんじゃないよ」

「高い方を売る」

「腐らせないで売れるならね」


 フィナが籠の後ろを持ち上げる。


「水路までは運ぶ」

「一人で持てる」

「昨日、傾いてた」

「今日は腕が動く」

「治ったの?」

「まだ痛い」

「なら昨日と同じ」


 二人で三本爪の荷置き場まで運んだ。


 入口の背殻を動かす。


 中に血吸いコウモリはいない。


 糞だけを片づけ、町側へ向かう。


「売った金は」


 フィナが後ろから聞く。


「十束で俺の分が銅貨四枚。今日は十二束だから、残り二束は次に数える」

「忘れない?」

「ネラに書いてもらう」

「自分で書かないんだ」

「数字は書ける」

「なら自分で書けばいいのに」

「合ってるか分からない」


 フィナが笑う。


「読める人に書いてもらう方が、今は早いよ」

「今は?」

「ずっとそのままじゃないんでしょ」


 返事をする前に、水路の分かれ道へ着いた。


 フィナは集落側へ戻る。


 俺は町へ続く道へ進んだ。


 乾いた苔は軽いが、下の新しい苔が背中で揺れる。


 右肩の紐を何度か直した。


 狩猟刀を抜くことはなかった。


 ルーヴェン砦町へ着いたのは、日が壁の上へ傾く前だった。


 東門の記録板には、俺が出た日から二本目の線がある。


「間に合ったな」


 門兵が言う。


「遅い?」

「日が落ちたら、明日の朝に回すところだった」

「戻った」

「その籠を背負ってれば見れば分かる」


 ギルドの買取窓口へ向かう。


 前に乾いた葉を見た女が、二枚の布を台へ広げた。


「分けて持ってきたね」

「同じ六束」

「今は同じ重さじゃない」


 新しい灰灯苔から先に見る。


 黒く傷んだ葉はない。


 刈った根元が斜めになった束だけ、女が持ち上げた。


「ここ、少し崩れやすい」

「左で切った」

「次は右で切って」

「怪我が治ったら」


 女は俺の布を見て、束を戻した。


「生の六束で、銅貨十一枚」

「前と同じくらい」

「状態も同じくらいだからね」


 次に、乾いた葉を秤へ載せる。


 六束あった葉は、皿の半分にもならなかった。


 小さな重りが二つ置かれる。


「銅貨五枚」

「半分以下」

「重さで買うと言ったでしょう」

「六束あった」

「水を買うわけじゃないからね」


 乾いた葉を一本折る。


 中まで同じ色だった。


「乾かし方は悪くない」

「なら高くならない?」

「長く置けるから買えるの」

「新しいのは」

「三日も置けば値を下げるし、黒くなれば買わない」

「乾いたのは」

「湿らせなければ、二十日以上は置ける」

「二十日後も五枚?」

「状態が同じなら」


 新しい六束は、早く運べば銅貨十一枚。


 乾かせば銅貨五枚まで減る。


 その代わり、三日ごとに町へ来られなくても捨てずに済む。


「何に使う」

「生は灯りの芯へ混ぜる」

「乾いた方は」

「粉にして傷薬の増量材」

「どっちも売れる」

「使う先が違うからね」


 両方を売る。


 合わせて銀貨一枚と銅貨六枚。


 そのうち銅貨四枚を、自分の運搬分として別の革紐へ移した。


 残る銀貨一枚と銅貨二枚は、集落へ返す金だ。


 自分の所持金は銀貨二枚と銅貨八枚になった。


「二束分、次へ回すって書いて」


 受付へ行き、ネラへ頼む。


「何の二束ですか」

「運び賃を数える」


 灰灯苔を十二束売った。


 十束分の運び賃を受け取り、二束分は次へ繰り越す。


 ネラが小さな木札へ書く。


「これなら集落の方も読めますか」

「フィナが数字を読む」

「名前は」

「書かない」

「相手の名前ではなく、あなたの名前です」


 札の端へ【セイン】と書いた。


 右手で書いた線は、左手で練習したものよりまっすぐだった。

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