Act1 赤い山と、見えない壁
夕方、某牛丼チェーン店に、制服姿の四人が滑り込んだ。
航聖は慣れない手つきで券売機と格闘している。龍輝が面白そうにニヤニヤしながら覗き込んでいる。
ヒメは希に買って貰えるので黙ってカウンターに座った。
カウンターに並んで座ると、龍輝が「いいか、航聖。よく見てろよ」と卓上の紅ショウガの容器を引き寄せた。
「……やめなさいよ、もう」
薫が、眉をひそめている。希は、また始まったか……のていで、ため息をついている。
「……龍輝、お前……」
「さあて、これが俺の『完成形』だ」
龍輝はトングを掴み、自分の丼の上にまるで噴火する火山のような勢いで紅ショウガを盛り上げた。肉の茶色が一切見えなくなるほどの鮮烈な「赤い山」がそこにはあった。
「希、これだろ?俺のいつものやつ」
「そうそう、これだよ。航聖とヒメも分かったでしょ?」
希はクスクスと笑い、薫も「視覚的暴力だわ」と呆れ顔だ。
航聖はその「赤い山」を、まるで未知の数学的疑問を見るような目で見つめていたが、やがて笑みを浮かべ、ボソッつと呟いた。
「……ふん、鮮やかな「赤」だな……」
同時刻、一方、耀心のオフィスでは、彼が満足げな笑みを浮かべてモニターを見つめていた。
画面には、航聖のPCから「苦悶する航聖の姿のログ」がリアルタイムで流れている。
(……そうだ、航聖。もっと足掻くといい。あの時のように数字の海に溺れ、壊れていく姿を見せてほしい……)
耀心が観測しているのは、航聖自身が仕込んだ「幽霊」だ。航聖が四人で牛丼を食べている間も、耀心のモニター上では「絶望し、固って、震える指で無意味なコードを打ち続ける航聖の姿」が延々と一人相撲を続けていた。
それから店を出て、学園に戻った四人。
演算室のメインPCの前に再び座った航聖は、最後の人仕上げに取り掛かった。
「さて……君に現実を教えてやろう、耀心」
航聖は、スマホで撮影しておいた画像をアップロードした。
日付:本日。時刻:18時42分。
そこには、紅生姜で赤い山が出来た牛丼と印字されたレシートが写っている。
「これを、「幽霊の僕」が必死に解析していたダミーログの最後に……送信」
エンターキーが鋭く響いた。
「奴の画面には、龍輝があそこの店員から貰ったレシートを撮った……デジタルデータが、解析完了のメッセージと共に送られているはずだ」
「……プッ……あははは!お前、そんなモン送ったのかよ?最高じゃね?」
龍輝が膝を叩いて喜んでいる。
「そうだな……耀心よりも龍輝……。それが僕の出した答えだ」
もう一つ続きます。




