Act1 鏡の迷宮(ギミックの正体)
さて、彼らが食事に行く前に話を戻すことにする。
薫が引き抜いたメインコード。航聖がそれを再び差し込み、使い慣れたマシンを再起動させた。ファンの回転が落ち着き、OSが立ち上がるまでの時間はわずか数分。だが、その数分間には耀心への「回答」が既に完成していた。
「……さあて、始めるとするか。瑞穂のサーバーからこの『不純物』を洗い流す」
「航聖、気をつけてね。瑞穂学園みんなの大切なものが沢山入っているんだから」
希が心配そうに身を乗り出し、覗き込んでいる……かといって手伝えることは何もない。
瑞穂学園のメインサーバーは単なる演算機ではない。数千人という生徒のプライバシーと、学園の運営を支える心臓部だ。
耀心の「課題」は、下手をするとそれら全てを人質に取るような構造をしていた。
「……航聖、大丈夫?あのファイルにウィルスとかはいってなかったの?」
希と龍輝が不安げに、しかし真剣にモニターを覗き込んでいる。
「いいや、ウイルスなんていう低俗なものは無かった……そんなことをすれば、僕がアイツを余計に避けることを分かっているだろうからな」
航聖は冷静に、削除する直前のログを解析した。
「……入っていたのは、自己増殖型の演算負荷だな。この演算を解こうとすればするほど、演算リソースを食いつぶし、思考をフリーズさせる……ウイルスではない。これは耀心からの『僕を試すためのラブレター』とでも言っておこう……解けない僕を認めさせて、精神的に追い詰め屈服させるためにね」
航聖の指が静かに、けれど正確にキーボードを叩く。
「……まずは、学園の基幹データ(コア・データ)を独立した仮想領域に隔離……それから読み取り専用にして、外部からの干渉を物理的に遮断する。……ようし、これでみんなのデータは耀心の手の届かない安全な『金庫』に入った」
画面上で、学園の重要データを示すアイコンが、頑強な壁の向こうへと隠されていく。
「……次に、この「課題」のプロセスを特定して、メモリーを空間ごと孤立させる……耀心……お前は今頃、自分が瑞穂のシステムを支配しているつもりだろうけど、……今、君が見ているのは、僕が作った「箱庭」の中だけだ」
「へぇ、つまり別部屋に隔離したってことだよ……な?」
「ああ。アイツは今、僕が用意したダミーのデータの上で空回りしているだけだ」
航聖が設定したのは、耀心が「航聖は今頃パニックであの課題を解いているはずだ」とモニターを眺めているであろう、その裏をかく仕掛けだ。
まず、耀心側には航聖が作った偽の進行状況が流れる。航聖は再度「パニックに陥りながら問題を解き続けている」という偽のログが送信され続けている。
次にミラーリング。耀心がさらに介入しようとすると自分自身の思考ロジックがそのまま自分に跳ね返ってくるプログラムが発動する。
「……終わったわね。お疲れ様、航聖」
薫が航聖の方にそっと手を置く。航聖は画面を見つめたまま、小さく頷いた。
学園のデータを一つも傷つけることなく、耀心という「不純物」だけを切り離した。それは、数年前には成し遂げられなかった「誰も捨てない」勝利だった。
「……さて……と、まだ仕上げは終わっていませんけどね。龍輝が珍しくご馳走してくれるらしいんで……行きますか」
書き直しています。自分がパニック(爆笑)




