Act1 演算室、青い浸食 2
画面に展開されたのは、数年前、航聖の精神を崩壊させた「あの街」の俯瞰図。
数百万の命が電力リソースとして数値化され、刻一刻と破滅へ向かう地獄のシュミレーター。
「……あ、が……。……耀心……」
航聖の瞳から光が消える。あの時の記憶がフラッシュバックする。
【耀心の正解】:迷いなく弱者を切り捨て、システムの80%を存続させる冷酷な最適解。
【航聖の敗北】:100%すべてを救う『第三の道』を模索し続け、演算限界を超えて脳が焼き切れ、味わったあの絶望。
「離せ、龍輝!……これを解かなければ、僕は……僕は一生、ガラクタのままで終わるんだ!」
パニックに陥った航聖が、取りつかれたようにキーボードを叩き始める。
椅子ごと彼を羽交い絞めにして、暴れる肩を力づくで抑え込む龍輝。
「ばっか野郎!落ち着け航聖、そいつはタダの数字だ!」
「違うっ!これは、僕とあいつの……っ!」
「……いいえ、これは……呪いだわ」
いつもは決してしない薫がデスクの下へ潜り、迷いなく手を伸ばした。
ブツンッ__。
凄まじい火花が散るような感覚と共に、演算室の全ての光が奪われた。メインコードを引き抜いたのだ。
モニターは漆黒に沈み、悲鳴を上げていたファンの音が、不自然なほどの静寂へと消える。
「……。……あ……」
キーボードにあった航聖の指が、空を掴んだまま……止まった。
龍輝の腕の中で、糸の切れたマリオネットのように航聖の力が抜けていく。
「……正気に戻った?航聖……」
暗闇の中で、薫が涼香に立ち上がる。
航聖は激しく上下する肩を震わせながら、真っ暗なモニターに映る、蒼白な自分の顔を見つめていた。
「……。……僕は……僕はまた……あいつの土俵に、引きずり込まれそうになった」
「……終わったんだよ、航聖。真っ黒だ。あんなヤツ、どこにもいねえよ」
龍輝の低い、熱を持った声が、冷たくなった航聖の心に「現実」の温度を伝えていた。




