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第27話 捜索

 清治が死の恐怖に怯えていたころ、ホームはお正月気分でのんびりしていた。清治の部屋の在室ランプが消えていて外出記録もなかったが、正月は平穏に過ぎて欲しいという事務職員の願望がチェックを遠ざけていた。

 十九時を過ぎて、田代がホームを訪ねてきた。清治に年始挨拶の電話を何度かけてもかからないので、胸騒ぎがして来てみたと言う。

 もう少しでレストランの夕食時間が終わろうとしていた。支配人はだんだん不安になってきた。これまで、清治が行き先を告げずに外出したことは一度もない。

 念のため、自ら身元引受人の宏也のところへ電話をかけたところ、「うちには来ておりません」と驚いた様子だった。他に清治が行きそうな場所は、海釣り公園かここにいる田代の蕎麦屋だ。田代の話では、海釣り公園は正月の三が日はお休みだった。

 岡谷清治は忽然と姿を消した。いったい、どこへ、何をしに行ったのか。

 集まっていた人たちは、きつねにつままれたような気分だった。事務職員が玄関の防犯カメラの録画を登録済みの清治の顔写真で検索した。すぐにヒットした。

 午後二時十八分。皆が息を呑んだ。画面に映っているのは、まさしく清治の姿だった。立ち会っていた田代が言った。

「着ているのは秋冬用のジャンパーだ。釣り場で見たことがある」

 そんな格好で遠くへ行くはずがない。懐中電灯を手に、手分けをしてホームの敷地や北側にある小川、周囲の道路を捜すことになった。

「岡谷さーん」

 どこにも清治の姿はない。支配人は宏也に電話をして状況を説明の上、地元の警察署へ行方不明の一報を入れた。各職場で残っていた職員たちは、車で付近のコンビニや駅の方面まで足を伸ばして探すことになった。

 レストランの営業が終わって、ウェイトレスの田宮がロビーにやって来た。清治が行方不明になっていることを職員から聞いたという。

「岡谷さん、見つからないんですか?」

「そうなんです。あちこち手を回して探してるんだけど」

 その場にいた支配人が答えた。田宮には、「ご苦労さまでした」と言って帰らせようとした。レストランのウェイトレスは派遣なので、担当以外の業務をさせるわけにはいかない。

 だが、田宮はその場を離れようとはせず、心配そうな顔をして言った。

「どこに行ったんでしょうね。岡谷さん、この数か月ほど、頭の調子が悪かったですから」

 つい口が滑った。支配人は意外な話を聞いて、裏の会議室で続きを聞くことにした。

「教えて。調子が悪いってどんな風に?」

 田宮はウェイトレスという仕事上、支配人と一対一で話したことはなかった。自分が知り得た情報を勝手に話しても岡谷に迷惑がかからないのかと尋ねると、そんなことを言っている場合じゃないと返された。

「岡谷さん、このごろ、自分がお部屋で選択したメニューをすぐ忘れちゃうんです。以前は月に一回か二回程度だったんですけど、最近はその回数が増えてきました。中華を選択したのに、和食だと思ってたりとか」

「月に何回かなら、まあ、かろうじて許せる範囲ですよね。現場は大変かもしれませんけど」

 支配人はその程度の話かと思って拍子抜けした。田宮は、「その分は私たちの昼食に回していますから問題はありません」と言ったあと、ためらいながら話を繋いだ。

「実は、そればっかりじゃないんです。こんなこと、言ってもいいのかなあ。最近、信じられないようなことを訊いてきたんですよ。『今は昭和何年だっけ』って。最初は冗談かと思って、『もう令和ですよ』と笑って答えると、『いつの間に昭和は終わったんだ』と納得がいかない様子で、そのあと、『今日は朝ごはん食べてない』って食べたことを完全に忘れてたりもして……。岡谷さんって、いつも遅い時間にレストランにいらっしゃいますから、私も雑談をする余裕があるんです」

 支配人は強烈なパンチを受けた思いで、「しまった」と唇をかんだ。岡谷清治は入居者に知り合いはなく、職員とも必要なこと以外は話をしない。一番近くで接していたのは、まさか、食事を運ぶことが専任のウェイトレスだったとは考えもしなかった。

 現場第一主義を掲げてきたはずなのに、入居者が元気なうちからの関わり方に欠落があるのを田宮に、いや、清治に教えられた気がした。


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