84:学園祭に向けて
長期休暇が明け、後期日程が始まり少したったころ、相変わらず講義の大半はフレアと一緒だが、シーク達と共に受けられる講義も増え、先輩にも結構顔見知りが増えてきた。フレアが先輩たちの紹介して攻勢に耐えかねて俺を生贄に捧げたとも言うが。
「それではベルデ学園祭に向けて、魔法科1年次の出し物を決めたいと思います」
壇上にて令嬢モードのフレアが司会を務めて俺はその後ろで黒板に出てきた意見を書き記していく。今行っているのは約一か月後に行われる学園祭に向けての打ち合わせ。
ベルデ学園では毎年学園祭を開催しており、生徒達の出店や騎士科の武闘大会、魔法科生徒による魔法演武などは近隣諸国からも観光客が訪れるほどの名物イベントだ。外国の要人を招き、うちの若者こんだけすごいけどどうよ?という国力を見せつける意味合いもあるため、予算などもかなり大規模なことになっている。
「魔法科の出し物って魔法演武じゃないんですか?」
「それは魔法科全体の出し物で、各学年ごとにそれぞれ別の出し物や出店を出すのよ。例年通りなら1年が屋台を出して、2,3年は研究発表が多いわね」
クラスメイトからの質問にフレアが答える。魔法科生徒は2年に上がると専攻を選ぶか他学科に転科するためそれぞれの専門分野での発表が多くなる。他学科も出店を出すために2,3年まで出店をやったら出店が飽和状態になってしまうという問題もあるが。
「じゃあ屋台でいいんじゃねえの?」
「屋台にしてもどの屋台にするかは決めないといけないし、いい出し物のアイデアが誰かから出るかもしれないでしょう?」
シークの雑な意見にフレアが少しイラっとしている、令嬢モードに素が混じってるのが証拠だ。やめろシーク、フレアはさっさと終わらせて鍛錬に行きたがっているのだ、あまり時間をかけるとその鬱憤が一緒に鍛錬をする俺に来る。
「というわけで何か意見ある人はいるかしら?」
「「「「………」」」」
まあそうだろう、突然何か意見をと言われてもそうそう出るもんじゃない。こういう時ぱっぱと動けるタイプの人間は残念なことにどちらも壇上に出てしまっている、俺とフレアだ。
「…まあそうなるわよね。アルク、何かない?」
「え、俺?」
「ファーストペンギンの役目よ、光栄に思いなさい」
えぇ…、ファーストペンギンって自分から行くやつであって背中押して叩き落されることじゃないんだけど…。うーん、メイド喫茶とか執事喫茶とかアニメだと定番だったけどこの学園じゃ本物いるしなぁ。俺がレイン公爵家で見せたウォーターショーなんか喜ばれるだろうけど、水を操る部分で要求される技術が高すぎるし…。
「演劇でもする?」
「演劇って、そんな経験ある子いないと思うわよ?」
「経験ないのなんてだいたい一緒でしょ。ノエル先生に言えば教えて貰えると思うし、魔法で舞台を整えたり、演出すれば魔法科らしくていいんじゃない?」
ダンス講座の講師だったノエル先生、通称リリィ姉。実家が芸術一家のためその方面は一通り修めており、リリィちゃんは演劇に、ノエル先生はダンスにと進む道を決めたらしい。そんなノエル先生に相談すれば教えてくれるだろうし、舞台効果を魔法でやれば難しい技術はいらないし、そのための道具を用意する必要もない。
「公演の間だけいればいいから、演目を2種類にして2グループに分かれれば日に4回やっても各々の負担は重くない上にお客さんも飽きずに楽しめるでしょ」
「悪くはないわね」
「芸術科の生徒に協力してもらってもいいかもね」
ベルデ学園芸術科、絵画、音楽、演劇、文芸、ありとあらゆる芸術を学び、創り出すベルデ王国の文化の起点。入学試験にて他者を圧倒する作品を提示できたものだけが入学を許される、0から学ぶ者が多い他学科とは違い、既に上位に位置する者達が頂点に立つために通う学科。
「…あの人たちが協力してくれると思う?」
「それは話してみないとわからないかな…、何が琴線に触れるかわからないし」
ベルデ学園芸術科、通称奇人変人の蟲毒。ありとあらゆる芸術のために社交性を捨て、常識を捨て、人間性を捨てた、人として終わってる者たちが通う学科。奇人変人が才能をぶつけあって研磨して、たった一つの傑作が生みだされる芸術家の墓場。どうして芸術方面に才能を持つと人として終わってしまうんだろうね…?
「まあ案の一つということならあってもいいでしょう。こんな風に何か意見はないかしら?定番のものでも構わないわ、まずは案が複数ないと話ができないもの」
「んー、じゃあ串焼き屋とかでもいいのか?」
「ええ、そういうので構わないわ。やりやすいからとか、楽だからとかでも案がないよりは全然いいもの」
1人の男子が言った串焼き屋をきっかけとして、色んなアイデアが出始めた。お化け屋敷、串焼き屋、フランクフルト屋、焼きそば屋、女装喫茶、男装喫茶、BL喫茶etc
おいまてBL喫茶ってなんだBL喫茶って、ふざけるな認めないぞ、その案を出すなら百合喫茶もだせ百合喫茶も。それがあってやっと対等、男女平等だろうが。
「はぁ…、書記さんバカなことやってないでさっさと議論すすめましょう?案出しの段階で却下とかしないでほしいわ」
「じゃあ百合喫茶も勝手に書くぞ!?」
「案の一つとしてどうぞ、賛成多数になっても議長権限で却下しますけれど」
「汚ねぇ!?」
この国は民主主義ではない、君主制国家である以上権力がものを言うのだ。議長が女性である以上男性の人権は軽んじられてしまう…。
そんな女尊男卑の会議は時にいい案が、時に馬鹿な案がでながらも進んでいき、いくつかの案は検討の結果取り下げられ、候補が絞られていく。
最終的にのこった候補は演劇と串焼き屋とBL喫茶。新しいことをやるならと男女どちらの候補者もいる演劇、串焼き屋ならフランクフルトも出せるよな?と他勢力を取り込んだ串焼き屋、一部貴腐人の強固な団結力を誇るBL喫茶の三勢力に分かれていた。
ここまで勢力を絞る段階では第一勢力は演劇、次いで串焼き、一歩遅れてBL喫茶だ。次の投票で過半数が取れれば決定、過半数が取れなければ上位2勢力による決戦投票。
そんな3勢力入り乱れる投票で勝ち残ったのは本命とされる演劇と、勢力に劣ると思われていたはずのBL喫茶だった。
「そんな!?串焼き屋が第二勢力だったのに!?」
「演劇の得票数が減ってるぞ!串焼き屋もだ!」
「まさか…、裏切り…!?」
ここまでの得票率から順当に脱落した候補者たちが動けば演劇と串焼きの一騎打ちになると思われていた、けれど現実は2大勢力が勢いを落とし、BL喫茶が決戦投票に残った。
「BLが、女子だけの趣味と思うなんて愚かだな。これだから腐ることに偏見を持つ浅い男は」
「腐女子はいつでも自分を隠しているわ、バレたくない乙女心で近しい分野の演劇趣味という仮面を被ってね」
フランクフルトを推してたはずの串焼き男子が実は腐っていた、クソ!フランクフルトってそういうことかよ!!そしてBLに勝算が出た瞬間、演劇派閥だった女子が仮面を脱いだ!自分が仮面を被ったままでは負けるけれど、仮面を脱げば勝利することができるからだ!勝てば自分を偽る必要もない、大手を振って市民権を得ることができる、できてしまう!
「やべえぞアルク」
「シーク、お前がいた串焼き勢力をまとめ上げて演劇にいけ、そして可能なら百合展開をちらつかせてBL陣営を切り崩せ、百合も好きだというやつもいるはずだ。書記になっている俺に投票権はない…。これを止められるかはお前にかかってる」
「…ああ、任せろ!」
予想外の状況に慌てて俺に相談にきたシークに方針を伝えて送り出す。ここからは全男子、いや、腐ってない男子たちで協力してことに当たらなくてはならない。そもそも先ほどの仮面女子の言う通り演劇というのはジャンルとしてBLと距離が近いのだ、BLを題材とした演目もあり、まだ姿を隠している女子がいてもおかしくない。
興味がない子も当然いるだろう、けれど、そこまで好きな人がいるならBLも見てみようなんて好奇心で寝返ってしまう子がいてもなんら不思議ではない。さらに演劇の不利な点、BL喫茶で恥ずかしい目にあうのは男子だけ、女子にはなんら被害がないのだ…。
「それでは決戦投票をします。皆やりたいと思った方に投票して」
1人、また1人と投票箱に自分がやりたいと思った出し物へ投票していく。全員が投票し、議長であるフレアが一票一票開票、得票毎に俺が黒板に線を足していく。全くの同数で迎えた最後の一票、フレアが開き告げられたその票は
「最後、BL喫茶」
…終わった。演劇男子たちは絶望に沈み、演劇女子たちはまあいっかという表情。一方BL陣営は男女関係なくこの勝利に沸いている、この男女一致団結できたかどうかの温度差がこの逆転劇を生んでしまったのだろう。敵ながらその団結力には脱帽するしかない、これがBLが育んだ絆の力ということか…。
「フレアさん!これで魔法科1年の出し物はBL喫茶で決定ですよね!?」
「早速詳細を詰めましょう!!なにせ一か月しか準備期間がありませんもの!カップリングに絡みにサービスメニューと考えることは沢山ありますわ!」
BL陣営がフレア議長に詰めかける、この勢いのままBL喫茶を自分たちの欲望のままにプロデュースするつもりだろう。そんなクラスメイト達ににっこりと笑ったフレア議長は
「却下、外部のお客様が来るのにBL喫茶とかできるわけないでしょう?」
はい、魔法科1年次の出し物は演劇で決定でーす。この国は君主制なので権力が絶対でーす。




