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83:アルくん先生の補習授業

「流石にこれだけいると楽しいわね!」

「うーん、これを楽しいと思えるのは凄いなあ」


 この状態ならフレアは人のことを気にしないでいいので好き勝手にアースランスで、アースニードルで、剣で、襲い来る無数のフォレストウルフを駆逐していく。囮の魔法でフォレストウルフの足を動かし、本命の魔法を一瞬遅れて逃げ先へと放つ、フォレストウルフに魔法を当てるための対策の一つ、逃げ先を誘導しそこを潰すという魔法の使い方。多重発動ではどちらも察知されるため一瞬ズラして発動しなければならない。


「アルクは楽しくないの?」

「面倒が勝つかなあ…」


 次々襲い掛かるフォレストウルフを双剣を一振りするごとに1匹、また1匹と切り裂いていく。別にこちらから襲わなくてもどんどん来るし、初戦の時から年月も経つことで鍛えられた筋力に強化魔法の筋力増強が加わり相手の勢いを利用せずとも片腕の一振りでフォレストウルフぐらいならば屠れる。


 つまりベルトコンベアで運ばれてくる狼を切り裂いてるだけ。慣れてしまっている以上楽しさなんてない。


 そんなコンベア作業を繰り返すことしばらく、俺とフレアの周りにはフォレストウルフの山が積み重なっていた。


「とりあえず血の匂いにつられて他の魔物が来る前にさっさと帰ろうか」

「そうね、アースフォートレスは解除するわよ?」

「よろしく」


 アースフォートレスが解除され、シーク達三人が出てくる。


「わりぃアルク…、助かった。フレアも悪かった」

「俺はこうなることを予想した上で何も言わなかったんだから謝らなくていいよ、フレアは…まあ楽しんでたし例外で。謝るならメイとキャロルかな、リーダーの判断で危ない目に合わせたわけだからね」

「そうか…、メイ、キャロルごめん!」

「ううん…、作戦考えたの私だもん…」

「シーくんもメイっちも気にしすぎー!失敗してもいいようにアルるんがいる時にこの依頼を受けたんでしょ?それなら反省会はあとあと!さっさとかえろー!」


 大量に現れたフォレストウルフに最悪の想定をしてしまったのだろう、シークとメイは落ち込んでいた。実際この討伐依頼で死に至る冒険者がいないわけじゃない、メイとキャロるんなんかは1人で戦えば1匹相手ですらその危険がある。


「キャロるんの言う通りで反省会は戻ったらやるからさ、落ち込んでないで先に帰り支度整えるよ。冒険者に現場で落ち込んでる時間なんてないんだから」

「お、おう!」

「わ、わかった、急いで準備するね!」


 こういった討伐依頼の時は対象の決まった部位を持ち帰るのが基本。可能ならば死体をそのまま持ち帰って皮や肉などを売るという手もあるが流石にこの数を持ち帰るのは不可能だ。


 5人で1匹ずつ、フォレストウルフの左耳を切り取って依頼完了、全員に浄化魔法をかけて返り血などを落としてその場を後にした。


「というわけで反省会兼補習授業を始めます!」

「わー!ぱちぱちー!」

「キャロるんそれ反省会のテンションじゃなくない?」

「でもアゲてかないとお通夜だよ?」


 そういってキャロるんはシークとメイを見る。うん、2人とも落ち込んでるね、まあ2人の間違いをこれから正すわけなので仕方ないかもしれないけど。


「…反省会&補習授業!テンションアゲてこー!」

「いぇー!ぱちぱちー!」

「あ、キャロルの意見採用するのね」


 キャロルの意見が採用され、ギルドの食堂で行われる反省会。人間落ち込んでる状態だと話を聞けているようで結構聞けていないのだ、心がふさがってしまい、脳の処理能力も落ちる、理解力も落ちて話を聞けているようで内容を理解できてないというよろしくない状態になってしまう。


「というわけで先にシークとメイは甘いものでも食べて気分戻してもらおうか、すいませーん!今日のケーキと紅茶おねがいしまーす!」

「はーい!ただいまー!」


 手始めに2人の気分を多少なりとも上向かせる。甘いものをたべ、紅茶を飲み、雑談をして気持ちを切り替えさせる。シークがいじりに突っ込みだしたし、メイも少し笑みがこぼれ始めたしそろそろ本題に移ってもよさそうだ。


「じゃあ本題だけど、シークが忘れてた森での注意点は後でこってり絞るとして、主要な問題点は二つ、依頼への意識と事前調査不足かな」

「依頼への意識?」

「うん、今回の依頼が俺から言われたことならいいけど、これって自分で選んだ依頼だよね?なんで講義の延長線上として受けてるの?冒険者が依頼を受ける以上それは仕事だよ?」

「あっ…」

「俺の師匠も依頼を俺の訓練のために選んだりしてたからそういうことがないわけじゃないけど、それは確実に依頼を遂行できる前提があってやることだから、シーク達が選ぶんだったらちゃんと仕事として選ばないといけない」


 俺が選ぶならいい、俺が確実に成功できる依頼を、その余力の部分で人を育てるわけだから。しかし今回はそうじゃない、新米冒険者が他人の力をあてにして自分たちの成長に使おうとしている。要するに最初から自分たちの手に余る依頼になっていてもおかしくない。


「実際魔法科生徒がFランクじゃなくEランクから始まるのは魔法というものがそれだけ強力なものだから、けどフォレストウルフは魔法使いにとって天敵と言っていい魔物だからこのパーティの強みが完全に潰されてる」

「私の毒霧も少ししか吸ってもらえなかったねー」

「足元ぬかるませたんだけどあまり効果なかったね…」


 キャロるんとメイはしっかりとフォレストウルフの特徴を覚えていた、だからこそ広範囲魔法による補助を選択したわけだがそれでも効果は薄かった。知識として知ることと経験として知ることの違いが表れた形だ。


「それと事前調査不足っていうところ、メイはきっと依頼を受けるって考えたときに学園の図書館でフォレストウルフの特徴を調べたんじゃない?」

「うん、それで色んな数の群れが居たり、魔法を感知できるって見たんだけど」

「そうだね、本で見て満足しちゃったのが調査不足の原因かな。フォレストウルフが2,3匹でいる状態ってどういう状況だと思う?」

「どういう状況…?ただ偶然その数の群れってことじゃないの?」

「フォレストウルフは大きい群れが基本で、そこから群れに収まりきらなくなった何匹かが単独で群れを離れる。そして同じ境遇の別の個体と番になって新しい群れを形成する。ようするに2,3匹でいるフォレストウルフっていうのは新婚さんなんだよ」

「新婚さんってすごい表現するね…」

「まあわかりやすいからね。そこから子供を産んで家族になるまで、大きい群れが基本の魔物が新婚さん期間が長いと思う?」

「あ、もしかして2,3匹の群れって少ないの?」

「そう、本当に少しの間だけだね、だからなかなか見つからない」


 魔物の新婚さん期間なんて一瞬、すぐに子供を作ってしまうし、1年もすれば大所帯になっている。だからフォレストウルフが2,3匹でいるところを見たら最初に疑うべきなのは


「2,3匹のフォレストウルフを見たら近くに大量にいると思え、ってのは冒険者の鉄則だね。これは魔物図鑑とかには載ってない、冒険者なら知ってるし、ギルドの資料にも載ってることだけど、メイは講義の時と同じ調査を行ったから満足してそこで止まった、それが調査不足の原因だね」

「そっか…、学園の情報だけ見てもだめなんだ…」

「資料を作った人や組織の目的によって載ってる情報は変わるからね、いろんな視点の情報を見ることが大切だよ」

「わかった」


 メイはしっかりしてるからこれで大丈夫だろう。少し頭でっかちな部分はあるが、シークが知識を疎かにする分それぐらいでちょうどいい。


「じゃあ反省会はこのぐらいにしてあとはシークをこってり絞るかー!」

「え、反省会終わりじゃねぇの?」

「メイシークというパーティの反省会は終わりだね。こっからはただただシークの補修だよ」

「…よろしくおねがいします」


 女子組はこのまま街で遊ぶとのことなので解散し、俺とシークだけで訓練場も使って補習である。今回は偶然問題にならなかっただけで、木々が茂りスペースの少ないところで戦ってたのも最悪だったし、木の根があるのに足運びが適当すぎたし、フォレストウルフの特徴も覚えてないし、今のうちに絞っておくところは沢山ある。


 土魔法で森の地形を再現し、ひたすらシークをボコボコにする。体で覚えるタイプのシークだ、ここで地形も利用してボコボコにしておかないと依頼で死にかねない。


「じゃあシーク、次の地形いくよー」

「……」

「シーク…?」


 …考え事しながらやってたら加減間違えちゃった

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