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82:フォレストウルフ討伐

 今回の依頼であるフォレストウルフ5匹の討伐、勘違いしてはいけないのはこれは別に群れの討伐依頼ではないということ。フォレストウルフは何匹かの群れを成す場合もあるし、単独で行動する個体もいる。個体を狙えば倒しやすいが何回も探さないとならない、群れなら一気に終わるが当然戦闘の難易度は上がる。


 シーク達が立てた方針は2,3匹の小規模な群れを探して2回の戦闘で依頼を終えるということ。メンバーの人数、経験、実力を考えれば打倒で、けどいくつか問題のある方針。


「なかなかちょうどいい相手見つからねえな…」

「うーん、単体狙いに切り替える?けど単体だと練習にならないよね?」


 西の森にきて数時間、正午ごろになるがまだ一体もフォレストウルフを討伐していない。これがこの方針の問題点、フォレストウルフが群れになっているということは大家族、単独でいるということは独身。つまり2,3匹の群れというのは新婚さんなのだ。


 魔物の繁殖スピードを考えると新婚さん期間は1年程度、要するにシークとメイが立てた作戦対象はなかなか見つからないのだ。


「ねえねえシーくん、メイっち。あっちに3匹ぐらいいたよ?」


 二人が話してる間、キャロルとフレアが周囲を警戒していたが偶然キャロルが対象となる群れを見つけたらしい。


「お、どこだ?とりあえず時間もそこそこ経ってるしそいつらを狙うか」

「キャロるん場所教えてくれる?」

「はいはーい、こっちこっちー」


 先ほどまでキャロルが見ていた方角、そちらを確認すると少し離れた所に3匹のフォレストウルフが歩いていた。地面の匂いを嗅ぎ、獲物を探している様子が見て取れる。


「やっと目的のやつらがいたな。いつも通り俺とフレアで行くからメイとキャロルは援護頼む!見つけるだけで時間かかっちまったしさっさと倒すぞ!」

「あー、やっと動けるのね」

「わかった!」

「はーい!」


 シークは指示と共に飛び出し、フレア、メイ、キャロるんが続いていく。このパーティはシークをリーダーとしメイが参謀、フレアとキャロルは2人の指示に従うようにパーティ結成時から言い渡している。例えそれがどんなに間違った指示であっても、命に関わらない限りはという条件の上で。


 シークは風の中級魔法、ウインドブレードを飛ばしながらフォレストウルフへと突撃していく。風魔法は威力で見るならば基本属性の他3つと比べて一歩劣る。例えばウインドブレードを俺やフレアに直撃させても魔力障壁によって少し深めの切り傷ができる程度。魔力障壁を持たない生き物に当てれば四肢の一本ぐらいは簡単に持っていく魔法なので十二分に危険なものではあるが、他属性ならばそのまま死に至る。


 しかし風魔法の神髄は不可視であることと、自らには追い風に、敵対者には向かい風になるその高すぎる汎用性。上級魔法が使えれば飛行を可能とし、制空権を確保できる。


 俺は風の適性があるためサーチを使い察知できるし、それだけでなく魔法に込められた攻撃の意思や殺意で見切ることができる。フレアも後者は同様に可能だろう。しかしメイとキャロるんは結果を見てシークが何を行ったかを理解する。風魔法とはそういう魔法だ。


 つまり極めれば強力すぎるほどに強力だが、そうでなければ格下狩りに適正を見せる両極端な属性。シークはそれを突撃時に使用する。剣戟中に扱えるほど魔法を使いこなせないし、ウインドブレードで手傷を負わせてから剣戟に移行できれば圧倒的優位に立てるシークの基本戦術。


「は!?ウインドブレードを躱すのかよ!?」


 けれど標的となっていたフォレストウルフは不意打ちのウインドブレードをその場から飛び退いて躱す。しかしそれもそうだろう、初めて戦った時に疑問を感じ、調べて知ったがフォレストウルフ最大の特徴は魔力の感知。


 魔法が発動する前、いや、さらにその前である魔力が魔法という形を取ろうとしている段階をフォレストウルフは感知する。だからこそフォレストウルフに魔法は当たらない、通用しない。そしてその速度でもって魔法使いをかみ殺す魔法使い殺しの狼。


 そんな魔物がなぜEランクパーティーでも受注できるのか。理由は単純、それ以外はただのちょっと強い狼だからだ。魔法使い殺しなだけで、剣士や戦士と戦えばただの狼。そして冒険者の大半はそんなもの達で、魔法使いはごく少数、しかも後衛だから単独で討伐に当たらない限り特に問題もない。


 フォレストウルフ戦で前衛に求められるものは純粋な武技とヘイトコントロール。そして後衛に求められるのは入り乱れる敵と味方を見ながら的確な補助魔法を扱うこと。つまり冒険者がパーティとして戦う時の基本中の基本だ。


 なおこのことは冒険者講習でやってるのでシークが忘れてるだけである。後で補習です。


「シークあなた冒険者になりたいならその講義ぐらい真面目に受けなさい」

「真面目に受けてるけど覚えてられねえんだよ!」

「じゃあ体で覚えるしかないわね」


 剣技のみで2体のフォレストウルフを同時にいなすフレア、フレアならば一瞬で倒せるが3人の練習にならないということで手加減し、後衛にフォレストウルフ達を通さないためのヘイトコントロール役に徹している。


「シーク!少しだけ下がって!」

「毒まくよー!」


 フォレストウルフの特徴をしっかり覚えている2人は広範囲魔法による補助を選択。メイが広範囲の地面を水でぬかるませ、機動力を奪った状態でキャロるんがフォレストウルフ達の周囲に毒霧を発生させる。キャロるんが放ったのは闇の中級魔法ヴェノムフォグ、痺れや熱など吸い込んだ対象に様々な不調を与える毒魔法、吸えば吸うほど体の不調の種類が増え、悪化もしていくという即効性はないが範囲に優れる魔法だ。


 しかし広範囲魔法であっても事前に知っていれば影響は抑えられる。毒霧が発生するころにはフォレストウルフ達は範囲内ギリギリまで逃げており、1匹は霧の向こうへ、残り2匹はそれぞれシークとフレアを襲撃している。


「まあ、これなら倒してもいいでしょ」

「流石にこれだけ動きが悪くなってりゃ倒せるぜ!」


 ただ範囲が広ければ事前に知られていても相手に当てることができる。一瞬とはいえ毒霧を吸ってしまっていた3匹の動きは目に見えて悪くなっており、これを譲ってもシークの練習にならないと判断されたフレアは一閃、シークも爪、牙と数合打ち合った後フォレストウルフを撃破した。


「あと1匹!」


 そう言ってシークが残りの1匹に視線を向けたその瞬間


「アオオオオオオオン!!」


 残ったフォレストウルフは遠吠えを上げる。それは俺の懸念が的中した証、シークとメイが立てた方針、その問題が表面化した証だった。


「なんだ…?あいつ」

「まあ、このパターンを俺がいるときに引けたのは幸運と思っておこうか。フレア、アースフォートレスお願い、のぞき窓だけ開けておいてあげて」

「ヤバい奴でもくるの?」

「ヤバい奴はこないよ、俺とフレア以外だとヤバい数が来るだけで」


 フレアも予想はついてそうだが確証はないのだろう。なぜならレイン公爵家は軍人、対人か国家危機レベルのモンスターが担当で、フォレストウルフは冒険者の領分だ。


 シーク、メイ、キャロるんが1か所に集まり、アースフォートレスに囲われる。俺が出るときはそういう風にするように伝えてあるし、この方針を取った時はお説教と補習があるというアルくん先生との約束だ。


「なあアルク…、俺はなにを間違えたんだ?」

「まあそれは帰ってからかな、今から沢山のお客様を相手しないといけないし」


 そういった瞬間、無数のフォレストウルフが俺達の前に姿を現した。

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