80:フレアVSガーランド
ガーランドの結婚式から一夜明け、フレアを共に冒険者ギルドを訪れた。朝食を軽めに取った後、ウォームアップ代わりにフレアと軽く打ち合ってから来たのでガーランドと合流さえすればすぐにでも手合わせできる状態だ。
「おう、来たな。ウォームアップの時間はいるか?」
「俺達は済ませてきたから大丈夫、ガーランドは?」
「2人が着替えてる間にでも済ませるさ。坊主は更衣室と訓練場の案内をしてやれ、先に行って待っておく」
「わかった、フレアこっちいくよー」
「覗かないでよね」
「他の女性冒険者もいる状態でフレアの着替え覗く奴はただの自殺志願者だろ。俺も着替えないとならないわけだしそんなつもり一切ないよ」
フレアを女性更衣室に案内し、俺は男性更衣室へ。着替えを済ませて両更衣室の中間で合流、訓練場に向かうとこの短時間でウォームアップを済ませたガーランドが中央に仁王立ちで待っていた。いや少ないけど訓練してたらしい冒険者が怖がってるじゃん。なんでそんなところで
「あいつらには事情を話して少しどいてもらった。どうせ嬢ちゃんも魔法戦闘ができんだろ?」
「よくわかったね」
「体捌きが剣士のそれだ、だが一流でも坊主の魔法戦闘を剣だけで捌けるほどの達人じゃねえ。坊主とあんまり変わらねえだろ?まああの年のお嬢様がそこまで剣が使えるってのがおかしい話だが」
「体捌きだけでそこまでわかるの」
「何人も剣士を見て、手合わせしてりゃその内わかるようになる。つーわけで嬢ちゃん、最初から魔法使っていいぞ、全力でこい」
「胸をお借りします」
「おう」
俺と先約だったはずの冒険者達、ガーランドが見学しろと連れてきた冒険者達が観客となって訓練場を貸し切ったフレアとガーランドの模擬戦。全力のフレアと、ガーランドの手合わせは上級魔法は無しという以外制約は何もない。訓練所の結界が上級魔法に耐えられないし、まあそもそも上級魔法をガーランド相手に放てる余裕もないので特に問題はないが
「2人とも準備はいいか?」
「おう」
「問題ありません、審判を引き受けてくださり感謝します。ジュリアス様」
今回の模擬戦の審判はジュリアスが引き受けてくれた。俺のフレア評を聞いて生半可な冒険者では審判が務まらないということ、ジュリアスも貴族からたまにきいたフレアの実力が気になっていたらしい。しかしきっちり場を仕切ってる世紀末モヒカンの姿はやはり違和感がすごい。
「でははじめ!」
「行きます!」
「おう!こいやぁ!」
合図と同時、フレアは炎槍と石槍、合計10本の多重発動をガーランドに放ちながらそれらに続くように自身も突撃していく。手数と威力を兼ね備えたフレアの得意魔法、俺との戦いを経て土魔法の練度も上がり、2つの性質の槍が緻密に計算された軌道と順番でガーランドに襲い掛かり、それによって生まれた隙をフレアは突こうとする。
凡百ならば隙を作る前に試合が終わってしまう連撃だが、ガーランドはその程度で隙が生まれるような戦士じゃない。軽々と片手で大剣を操り、空いた手で掴み取った石槍をそのまま自らの槍としてしまう。大剣と槍の二刀流、圧倒的な膂力と技術によって誕生した旋風は、そのまま自らに向かって来る令嬢をくい千切らんと襲い掛かる。
「っ!?」
「自分の魔法を利用されるのは初めてか!?」
フレアとて一流の魔法使い、ガーランドの実力を知らずとも圧倒的高みだということは知っているし、自分の初撃ぐらい通じず反撃が来ることは想定していただろう。だが石槍を掴んで大剣との二刀流で襲って来るなんて想像もしていない。
しかもそれは付け焼き刃の攻撃ではない。槍を知り、大剣を知り、片腕で完璧に操る膂力でもって制御された連動した攻撃。槍術が、大剣術が、1人の人間によって二刀流へと昇華された未知の武術。
そんな未知に襲われながら、それでもフレアは一撃を許さない。一切攻撃を受けることはせず、流し、反らし、躱す。剣で、魔法で、体捌きで、踊るように、蝶が舞うように、旋風の中を羽ばたき続ける。
「魔法で俺の一撃を受け流すか!魔力制御は坊主にも負けてねえな!」
「流石に彼には及びませんけれど、一度魔法の防御を貫かれたので!」
魔法で相手の攻撃を受け流すのは防ぐよりも難しい。ただ相手の攻撃の軌道に石盾を出せばいいというわけじゃない、タイミングを、角度を計算して魔法を発動、制御しなくてはいけないからだ。それも戦闘の最中に。
俺とフレアの戦いを決した一撃。あれは結局の所、土魔法の制御が至らなかったことが決定打になっている。熱中症によって生成が間に合わず、強度が不足したことで短刀の一撃に貫かれたのだ。
強化魔法を使っていたとはいえ、槍の攻撃も防げていなかったことからフレアは剣術と同様、受け流しや反らしという技を魔法でも行う必要があると考えてその技術を磨いた。元々のフレアの剣術と合わさり、今では多方向からの同時攻撃ですら、まるですり抜けたかのように流してしまう。
槍と大剣、一撃一撃が必殺の旋風をいなし続け、細心の注意を払いながらも意識の片隅で準備したのだろう、連撃が途切れる僅かすぎる刹那、フレアはアースニードルを発動して反撃するも、ガーランドは地面から飛び出した鋭利な土槍を踏みつけ、足場にすることで後方に飛びのく。
「…アースニードルって足場に出来るんですか?」
「ま、この程度できなきゃ俺はこれまでに死んでたってだけだ」
「アルクもよくそう言いますけど、師弟揃って死線を潜りすぎでは?」
「むしろ死線を潜らずこの領域に来てる嬢ちゃんがおかしいんだよ。ま、坊主も待ってるし、そろそろ終わらせるか」
そう言って、ガーランドはこれまで持っていた石槍を投げ捨て、大剣を両手で構える。
「私はまだ、楽しみたいのですけれど」
「おう、この一撃を防げたらまだ楽しめるぜ」
ガーランドはただ確定している未来として終わりを告げ、未来を変える当たり前の方法をフレアに伝える。瞬間、フレアの目前にガーランドが出現し、遅れてフレアが後方の壁へと叩きつけられた。大剣は先ほどまでフレアが立っていた場所、そのほんの少し手前で止まっている。
周りで見ている冒険者たちは何が起こったか分かっていない、この場にいて何が起こったか分かっているのはジュリアスと、あの技を受けたことがある俺だけ。
大剣の腹を相手に向け、常軌を逸した速さで動く。するとどうなるか、大剣によって押し出された空気が、大剣の裏に回り込むことが間に合わなかった空気の塊が、技の終点にて暴風となり爆発する。
簡単に言ってしまえばめちゃくちゃ強く団扇で扇いだようなもの。どれだけ大剣を受け流そうと、どれだけ槍を受け流そうと、如何なる膂力も無に出来ようと、空気に触れることは出来ない、空気を受け流すことは出来ない。あの技は受け流すという対処を許さない、暴風を防ぐ術がなければ対処できない技。だからガーランドは防げたら、と伝えたのだ。
正直12歳の女の子に使う技じゃないよねあれ?
「そこまで!アルク様、お嬢様の手当をお願いできるか?」
「わかった」
フレアの元へ向かい、水で傷口を洗い、初級魔法で治療する。これで傷が残ったり、化膿してしまうことはない。
「さてフレア、手合わせした感想は?」
「今の技は何?」
「あれはねー」
フレアに先ほどの技を説明する、原理は簡単、対処もシンプル。言うは易く、理解も易く、けれど行うは難しなクソ技だ。
「何それ、私の天敵じゃない…」
「ガーランド相手に慣れてる俺で常に意識に入れておいてギリギリ技を完結させないって対処が取れる、一応助走距離がいる技だから常に近距離にいれば使われはしないかな」
片手で大剣振り回せるゴリラを超えてる何か相手に常に近距離戦をしろってなんの冗談かと思うが。
「そう、やっぱり冒険者の高みはすごいわね」
「あれはその中でも突出しすぎてると思うけどね、満足した?」
「最高に楽しかったけど、満足できるわけないでしょ、むしろもっと打ち合いたいわ」
「うーん、流石フレアだね。まあ次は俺の番だし、王都に帰るまでに沢山機会はあるよ」
そう言って、場外に出たフレアと入れ替わりにガーランドの前に立つ。
「よし、坊主、鈍ってねえだろうな?」
「まだ別れてたった半年、しかもフレアみたいなのに鍛錬に付き合わされてるんだよ?鈍るわけがない」
「ならよし。ジュリアス、合図を頼む」
「おう、では両者位置につけ。…はじめ!」
ジュリアスが告げた開始の合図、半年ぶりに会うガーランドとの模擬戦。初めましてのフレアとは違う、久しぶりという、この半年間を伝えるための戦いが始まった。




