77:長期休暇ステン行
前からこんな話書きたいなーって思ってたまーに書いてた話も投稿始めました。ただしあちらはクソ重い話を書きたいのでカロリーが高くスローペース更新で。メインで書いていくのはこっち
ベルデ学園の前期日程が終了し、学園は一か月半の長期休暇に入ることになった。実家に戻る人間もいれば、王都に残って勉学に励む子もいる。国が出してくれる往復の馬車は入学の時とは違い、希望者のみ、別経路ということで日程もかなり短縮される、入学時に片道二週間かかったステンへの道のりも今回は片道一週間。
俺はこの長期休暇で実家に一度戻ることにしていた、ガーランドから挙式への招待状が届いていたからだ。ガーランドとマチルダの結婚式、招待状が来たら学園に休暇届を出すつもりでいたがどうやら挙式の日を長期休暇に合わせてくれたようだ。
「で、なんでフレアもステン行?」
そう、ステン行の馬車の中、レイア行に乗ると思っていたフレアとその専属である銀髪メイドのカリーナさん。カリスマ溢れる公爵令嬢とリースと同い年の銀髪メイドさんが乗ってきたのはまさかのステン行だった。
「え?だってあの総武のガーランドの結婚式があるんでしょ?なら知り合える機会だし手合わせしたいじゃない?」
「あ、そう」
「申し訳ありませんアルク様、お嬢様のことをお願いします」
カリーナさんが申し訳なさそうな顔をしている。ああ、この人フレアに振り回され慣れてるんだろうな、もう止めることも諦めてる顔だ。そして同じように振り回される同類に向ける瞳だ。
ちなみに総武というのはガーランドの二つ名らしい、武を総べるから総武、あらゆる武術を使いこなすガーランドにちなんだ二つ名だ。
「だからアルクは紹介をお願いね。流石に初めましてで手合わせなんてお願いできないし」
「俺の紹介があればいいと…?」
「弟子の紹介があるのとないのじゃ雲泥の差じゃない」
それはそうだけど…、紹介されて即手合わせの申し込み、非常識がすぎるだろ?いやガーランドはそういうの喜ぶけど…。
「あとスティング家にはもう手紙を送って滞在の許可を頂いてるから」
「は?」
「だからアルクの家に泊まるからよろしくね」
「カリーナさん?」
「申し訳ありませんアルク様…」
いや、申し訳ありませんじゃなくてね?リースもめちゃくちゃ驚いてるんだけど?君ら従者科の同級生で仲良くしてたよね?何も言わなかったの?カリーナさんも今朝初めて聞いた?…被害者3名かぁ。
「なんで父さん達も許可したんだ…」
「アルク様、公爵令嬢からの要請、カイル様たちも断りにくいかと…」
権力ぅ…。どうしてこの子はこう自分の欲望を叶える時は使える物を全部使って突っ走るんだ…。それで迷惑をかける相手は選んでやるから質が悪い、ちゃんと許されるラインを見極めてやってやがる。
「ていうかなんで俺の家?普通に宿じゃダメなの?」
「アルクの家なら好きな時にアルクと手合わせできるじゃない」
「え、付き合わせる気?」
「朝食前、昼食後、夕食後と鍛錬の時間はとるでしょう?」
「そこでやりたい時に模擬戦できるように?」
「ええ、宿にアルクを呼んでも宿に迷惑をかけるじゃない。スティング家なら訓練場ぐらいあるでしょう?」
「あるけど俺への迷惑は?」
「あら、私と手合わせするのなんていつものことじゃない」
「そんな一日中いつやるかわからんレベルじゃねえだろ!週に1日休日の鍛錬の時だけじゃねえか!」
「質の高い手合わせがいつでもできるのだから私の機転に感謝していいのよ!」
こいつ…!自分と同じレベルで俺が戦えるからと俺のことまで戦闘狂だと思ってやがる!目をきらきらさせて俺が同意するのが当然だという表情してる!
「もうこの馬車に乗られてる時点で手遅れか…」
「せっかく私が鍛錬相手になるのに素直じゃないわね」
「俺はとっても素直だよー、めっちゃ素直にめんどくさがってるんだよ」
久々の帰郷で色々顔を出しておきたいところがあるのにお嬢様の子守まで増えてるんだから面倒でしょうよ。
そんな帰郷後に増えた面倒に頭を抱え、道中宿泊する街でも手合わせに付き合わされることで増えた面倒は帰郷後に限らないと思い知らされながら一週間、馬車は俺の故郷ステンに到着した。
「さて、じゃあ家までの案内頼むわね、紳士さん?」
「はいはい、お嬢様。こちらでございますよ」
馬車から降りるフレアに手を差し伸べ、貴族の務めとして家までの道をエスコートする。道中領民たちから話しかけられ、揶揄われ、フレアとの誤解を解きながら家へと向かう。
「アルク様おかえり!その人は婚約者様かい!?」
「ちがうよー、お客さんだよー。怒らせたらステンが大変になっちゃうから揶揄わないでね」
「うえっ!?そんなお偉いさんなのかい!?」
「そうだよー、だからおばちゃん仲間たちに注意するように言っておいてねー」
「はいはい、わかったよー!みんなにも言っておくから許しておくれよ!」
「怒ってないからいいよー!」
こんな感じである。食堂のおばちゃんにおっちゃんは敵わないし、主婦連盟の元締めでもあるからおばちゃんに言っておけば変な噂も立たないだろう。
「なんというか、あなた本当に貴族なの?ずいぶん領民との距離が近いのね、領主の息子にあんな態度の領民も領民だけど」
「んー?でもこの国ならそんなものじゃないの?」
「確かに他国よりは平民との距離は近いけれど、貴方のは近すぎね」
「まあ俺自身あんまり貴族って気がしてないからね。小さいころから街によく抜け出してたし、さっきのおばちゃんとかよく仕込み中の料理を味見させてくれたりね」
「それつまみ食いって言わない?」
「味見味見、お店に出す料理の味見だよ」
「貴族がすることではないわね…」
「でもフレアはこういう街、好きでしょ?」
「見透かされてるようで癪だけど、いい街だと思うわ。レイアと同じぐらい」
「それならよかった」
そもそもフレアだってありのままだったらだいぶ貴族らしくないんだから、ステンの雰囲気を気に入らないわけがない。
「まあそんなこんなでこちらがお嬢様が滞在なされる宿になります」
「エスコートありがとう、紳士さん?」
「お嬢様をエスコートできて光栄でしたよ」
貴族のくせに貴族らしくない2人で、貴族っぽい小芝居をしてふざけ合う。最初に話した時から気楽に付き合えそうな相手だなとは思ったが、ここまで気が合って、実力も近い親友になるとは思わなかった。
まあこれだけ気の合う親友が出来たんだ、手合わせに付き合うぐらいの代償は諦めて支払うとしようか。…まさか毎日とか言わないよな?




