76.5:2人だけの秘密
ブックマークを新たに1件頂いていました、本当にありがとうございます。趣味で書こう、読みたい話を書こうという気持ちで書いてるのでこういった形で気に入ったよや気になるよと伝えてくれる方がいるというのは本当に幸せです、ありがとうございます。
GWをシャドバにぶち壊されたので反省してシャドバ封印しました。今回の話は少し文字多めですが主人公の前世の記憶というものに対するスタンスを書いてるので許していただきたく
「とりあえず服はこれでいいわよね?」
アルクに誘われた魔道具工房見学、鏡の前で身だしなみを確認する。いつも通り公爵令嬢として恥ずかしくない服、落ち着いた色合いで上品な服装。
せっかくアルクと二人だけで出かけるのにこれでいいの?私?
「だから今日はデートじゃなくて工房見学だからいつもの服でいいのよ」
鏡の中の私、鏡の前の私、2人の私がぶつかり合う。鏡に見えるいつもの私、それでいいはずの私。けど彼女が訴えかける不安が私の心にまで伝播してくる。
「結局着替えてるし…」
学園の校門前、アルクと約束した時間の10分前、自分のことながら意識しすぎていて呆れる。行くのは工房見学なのに、これじゃデートを期待してるみたいじゃない…。
「あ、フレア早いね、ごめん待たせた?」
「まだ約束の5分前じゃない。謝ることないわよ、私も来たばかりだし」
ああ、もうなんでデートの定番みたいなこと言うのよこいつは。おかげで私までそういう台詞が出ちゃったじゃない。
「フレア、今日はいつもと私服の雰囲気変えた?」
「え?そうかしら?」
そうだった、こいつは男の癖にやたら女性の服装に詳しいんだ。女性の服装を見て褒めることが出来るのは紳士的な貴族の条件だけれど、12歳でここまで詳しいのは正直おかしいレベルだ。
「あまり意識はしてなかったわね」
嘘だ、だって工房見学に誘われた時から、2人だけで行くと決まった時から意識していたのだから。けれど素直に言うわけにはいかない、意識しているなんて周囲に、ましてアルクにバレたら迷惑がかかる。
マギアナでの工房見学、受付のお姉さんにもデートだと思われていた。リースもいた方がよかったかと問われたけれど、貴族の体面的にも問題ないと言いながら、その実2人だけで出かけられると内心喜んでいたのだから今の方がよかった。
けれどそんなことは悟らせない、お姉さんにアルクのことを暴露して、茶化して誤魔化す。私はこいつを好きじゃない、私はこいつを意識していない、私はこれをデートだなんて思っていない。そういう姿を見せろ、そういう風に認識させろ。
魔道具製造工程を一通り見終わり、希望する工程を体験させてもらえるとのことだった。私は希望する工程はない、なぜなら工房見学についてきたのも、魔道具を学ぼうと思ったのも、アルクのことを見ていれば彼の強さの秘訣が知れると思ったから。惚れたから傍にいたいというのも否定はしないけれど、彼の手に入れた強さの源、傍にいればそれを知れるのではないかと思ったから。
「アルクの体験したい工程でいいわよ」
選択をアルクにゆだねたところ魔道核体験を即答していた。やはりアルクは魔道具を学ぶことに対して明確な目的がある、そのための道筋がはっきり見えて行動しているように感じる。
魔道核の製造体験、刻印を掘り終わった私はクラフ室長に確認してもらい。その速さと正確性から驚かれ、職員さんの1人が私を弟子にしたいと騒ぎ始めたが別の人たちに引っ張られていった。なんだったのあのおじさんは…
手持ち無沙汰になってしまったため、アルクの様子を見る。本当にただなんとなく、集中して作業する彼の横顔は初めて見た、最初は彼の手元を見ていたのに、そのうち彼の横顔ばかり見るようになっていた。
「フレア、ほんと待たせてごめん…」
見られていることに気付いたアルクが私に謝ってきた。それで私もすっかりと彼に魅入っていたことに気付かされた。
「あ、ごめんなさい。気にせず続けて」
アルクが作業に戻り、私はまた手持ち無沙汰に戻る。同じ轍を踏まないよう、周りをみて、職員達の作業を遠くから見て、けれど結局またアルクの横顔をみていた。
その内、アルクの作業も完了し、クラフ室長のチェックを受ける。私達の出来にクラフ室長が驚いていたが、私の魔力操作はアルクに練習法を聞いたからだ、魔力操作に関して、私はアルクに勝てる気がしない。
魔道核を誤作動させないために必要な魔力操作技術に私の技術が追いついていただけ、誤作動をさせないという結果だけは同じだけれど、恐らくその精密さはアルクの方が上だろう。
そんな体験が終わり、マギアナの応接室でクラフ室長とアルクの話に同席する。私もアルクの魔法の源には興味があった。
クラフ室長からの質問、それについてどう答えるか考えを纏めているアルク、思考の海に沈んでいく彼をクラフ室長は対面で静かに、私は横から答えを待つ。
そんな時、横にいたからこそ、近くで彼の方を見ていたからこそ聞こえた小さな声、彼の思考の海からぽろっと零れ落ちた一言
「前世の記憶があったからかなぁ…」
そんな意味のわからない言葉、本当に零れ落ちた程度だからクラフ室長には聞こえていないだろう。前世の記憶があるんだ、なんて誰かが言おうものなら頭のおかしいやつとしか思わない。けれどアルクの為人を考えれば与太話でもないのだろう。そしてなんとなくだがそれが彼の根幹を成しているのだろう。
だからこそ私はタイミングを伺って彼に聞いた
「前世の記憶って何?」
「え、言ってた…?」
アルクが見たこともないような顔で驚いていた、バレたらいけないことがバレたという焦りも感じる。なんだろう、珍しく慌てる彼を見ていると少し楽しい気持ちになってくる。
話が終わり、マギアナを後にしてアルクとその秘密について翌日話すこととしてその日は別れた。いつもみんなで遊ぶ時は軽食ぐらいは食べて解散するのだが今日は2人だけ、それに彼も私に話す内容について少し考えを纏めたいし、人がいるところで話せることでもないとのこと。それはそうだろう、話していたとしても本当に身近な人間のみ、内容も内容だから広められる話でもないでしょうし。
工房見学に行った翌日、学園にある会議室を一室借りてアルクと2人きりになる。リースと私の専属メイドのカリーナは扉の外で人払いをしてくれている。学園の施設を使用することで公的記録を残し、内密な話はあるけれど、やましいことではないですよ。という貴族的なポーズだ、だが
「リースも聞いてない話なの?」
そう、いくら体裁は整えていてもメイドの1人ぐらいは入れて男女2人きりという状況は避けるのが普通、しかしアルクはリースの入室すらも拒否した。私も、リースもカリーナも流石にそれはまずいと伝えたがアルクは私と2人だけであることに固執した。本来ならば誰にも話すつもりがないことであったこと、自分のミスで私にだけは聞かれてしまったから説明はするけれど、専属メイドであるリースどころか両親にも、兄にも、師匠達にも聞かせるつもりはないとのこと。
「さっき伝えた通り誰にも伝えるつもりがなかったからね、もしプリムと結婚できてもプリムにも伝えない。そういう話だから」
「それは妻にすら隠さないといけないようなやましいことなの?」
「やましいわけじゃないよ、そうだったらフレアにも話さない。俺はフレアの事を信じてるし、説明すれば危険性も分かってくれると思うから説明する。けどこのことは誰にも話さないでほしい」
そういう前置きから話されたアルクの前世の記憶、効率がいいという言い訳で全力を出すことから逃げたつまらない男の人生。そんな男の記憶が3歳のアルク・スティングに蘇りその記憶を参考に、反面教師にとして今まで生きてきたこと。
「そんなことがあるのね、でも危険性とか今までの話からは感じなかったわ。ただそういう偶然があっただけ、そういう眉唾の御伽噺としか感じないけれど」
「うん、今までの所はね。問題は俺の前世が生きてきた世界の方だから」
「世界の方?」
そして語られた、魔法がない世界が歩んだ血塗られた歴史。魔法がないからこそ人類は物理や科学といった世界の理そのものを研究し解明し活用した。そして作り出された数多の兵器、戦場を走りストーンキャノンを超える攻撃を放つ鉄の馬車、海を渡る鉄の船、そんな船から飛び立つ鉄の鳥。鉄の鳥から落とされ一度に10万人を殺す爆発魔法を引き起こす原爆と呼ばれるもの。
「流石に10万人は盛りすぎじゃない?」
「原爆はね、爆発時にまず大量に殺す、そのあと空気中にのこった放射線というものが人の体の機能を破壊する。そうして長期的に影響を及ぼすことで大量に殺すんだ。1度目の爆弾で年内に死んだのは14万、2度目の爆弾では7万人が死んだんだ。そして俺が生きた時代から100年も前じゃない、きっちり史実として残って、俺の祖父母の代にとっては歴史でもなく生きた時代のことだったんだよ」
「それが、世界の理を解明した結果だっていうの…?」
「そうだね、化学や物理の怖いところはね、原理を知っていれば誰でもできるってところなんだ。さっき言った原爆だってあらゆる国が所持していた。原爆を持ってる国同士の戦争には発展しにくくなって、大きい戦争がなかったのは皮肉だけど、逆に言えば持ってない国と持っている国だったら持っている国の方が外交での力関係は圧倒的に上、新たに原爆を作ろうとしようものなら持っている国から先に叩かれる」
「そんな力を全員が持てるというの?」
「極論言えばそうだね。当然前世では権限のある人しか使えなかったけど、その人に魔法使いみたいな特別な資質は必要ない」
一度に10万人を殺す、小さな国ならば国もろとも全滅。ベルデ王国でも人口の大半が死に絶える。そんな爆弾がいくつもあり、権限さえ手に入れれば誰でも使える。いや、ルールさえ無視してしまえば権限もいらない、それが誰でも使えるということだろう。
「まあ、俺の世界でも人類が積み重ねた知識から1人の天才が編み出した技術ではあるんだけど、そんな天才がこの世界でも生まれない保証はない。いつか遠い未来で現実になるかもしれないけれどその未来を早めるつもりは俺にはないし、そういう誰でも使える兵器の知識があるって知られるだけで身に危険が及びかねないのもフレアならわかるよね?」
それはそうだろう、この世界にも戦争はある、そしてその戦争の規模は歩兵の質ではなく強力な魔法使いの有無に左右される。逆にいえばそこが戦争の規模の限界点、アルクの前世と比べれば足元にも及ばないほどに小規模。強力な魔法使いが居ない国が、組織が、その知識を欲して非合法なことに手を染めない保証はない。
そしてそういう立場の者達の思惑を想像し、私も一つのことに気付く
「ああ、そうか。あなたがどこまでの知識があるのか。なんてそういう奴らには関係ないのね」
「うん、俺にさっき言った原爆を始めとした兵器を作る知識はない。兵器の存在を、その性能を、その怖さを知ってるだけ。けどそういったところで兵器の知識を欲する側には関係ないよね、自分たちの知らない下剋上の知識を知っているかもしれないそれだけで身柄を狙う理由には十分なんだから」
そう、知っているかもしれない。それだけで十分なのだ、逆に言えばアルク・スティングがそういう知識があると思われた段階で狙われるのはアルク・スティングだけではない。彼の家族、友人、使用人、例え彼らが何も聞いていなくとも、聞いているかもしれない、知っているかもしれない、聞いていなくとも知っていなくとも最悪人質には使える。
そしてそれは兵器の知識である必要もない、なにか自分たちの役に立つ知識を、この世界にはない知識があるかもしれない。どれだけ荒唐無稽であっても、そう妄想された時点で危険なのだ。
なんて厄介な知識だろう、ただ前世の記憶が人生の反面教師に、指針になるぐらいなら問題なかった。けれどその世界の知識があまりにも危険すぎる。世界の理を活用した世界は便利な世界だったが、それ以上に危険に満ちた世界だった。
「あなた本当に厄介なことをバラしてくれたわね…」
「それは本当にごめんって、俺もどうするか昨日すごい悩んだんだけど、結局正直に説明して共犯になってもらうのが一番いいと思ったんだよ…」
アルクが年齢に似つかわしくない大人びたところがあることは知っている。その理由も今明かされた、だからこそ隠し事をすることに関してそれが及ぼす影響も多面的に評価し、正直に説明するという選択を取ったのだろう、私ならこれを知っても悪用しないと、私の事を信じたからこそ。
「はぁ、本当にバレたのが私だけでよかったわね。あの距離ならクラフ室長にも聞こえていないでしょうし、仕方ないから一緒に秘密にしてあげるわよ」
このことを誤魔化さずに説明されたこと、私なら大丈夫だと信じられたことそれが少し嬉しくて、照れ隠し気味に言ってしまう。
「本当に助かる。ありがとうフレア」
アルクがたまに見せる真剣な表情で私に感謝を伝えてくる。私が工房見学で横顔に見惚れてしまったその表情、それを正面からぶつけられて
「ああ、もう、いいわよ、2人だけの秘密ってことで」
ただでさえ照れ隠しをしたばかりなのに、アルクの視線から逃げたくて、その真っ直ぐな視線に耐えられてなくて、私は再度、照れ隠しにそんな約束を交わしたのだった。




