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76:勝算

 まず、何もしない内から諦めるなんてことはしたくはなかった、それは前世の記憶があったからだ。どうせ無理、どうせ出来ない。だから一つの事に全力を傾けずにもっと効率よく、もっと気楽に、そんな人生を歩んだ前世は何も失うことはなかったが何も得ることがない人生だった。


 後悔なんてない及第点の人生だったなんて自分に言い聞かせて、その実、後悔できるほど全力を尽くしたことがないだけ、一つでも何かを得た中身のある人生であるならば自殺なんて結末は選ばないだろう。そんな後悔すらできなかったという後悔の、俺ではない俺の人生の記憶。


 だから記憶が戻って以降、全力を出せるものを探した、親から申し付けられたことであっても全力で挑んできた。そうしたらいろんなことが出来るようになった、全力で挑んだ数々のものがとても楽しかった、武術が、魔法が、ダンスが、あらゆることに全力を出したからこそ見える景色があった。


 そして一目で惚れこんでしまう相手に出会った、とりあえず全力を出す、からこの子のために全力を出す、になった。


 そんな中課された条件、レイン公爵への勝利。課された時点では勝つ方法がなかった、しかし全力で鍛えた先ならあるかもしれない。俺には魔法の力がある、魔法があればなんでもできる、とは言わないが出来ることはかなり多い。


 だからこそレイン公爵にどう勝つか、を考えた時に思ったことはレイン公爵に通せる魔法を作る、魔法で補助した武術で上回る、勝つ方法がないなら探せばいい、作ればいい。今は無理でも全力を尽くした先なら、たとえ初級魔法であっても、たとえ武術の才能が並でも、持てる力を組み合わせて、噛み合わせて、自分の力を最大化し、あらゆる要素や条件を駆使して相手の力を最小化すれば上回ることは不可能ではないだろう。


 少し考え込んでまとめた答えをクラフ室長に伝える。


「魔法を作ればいい…ですか?」

「え、だって魔法って魔力操作で引き起こした現象に名前を付けたものですよね?じゃあ魔力操作によって新しい魔法も普通に作れるものでしょ?」

「それを君は10歳の時期に考えていたと?」

「はい、だって魔力操作で水や火を操れるのにファイアボールやアクアバレットとか、これという名前のついた魔法しかないっておかしくありません?」


 魔力操作でこれだけ色々できるだからそれをどう活用するかでなんでも新しい魔法なんて生み出せるだろう。現にステンのギルマスとか魔法で生み出した動物で戦ってたし。


「なるほど、君は魔力操作が魔法の原点だと思っているのですね」

「違うんですか?」

「一般的に魔力操作は魔法を制御するための技術だと言われています。魔法の発動を早める、正確性を高める、多重発動を行う。つまり魔法があっての魔力操作なんです。魔法を新たに作り出せる人間はステンのギルドマスターのようなごく一部。教えらえた魔法が使えるようになった、だから魔力操作を練習して魔法の練度をあげる。しかし、アルク君、君の考え方は魔力操作ができればあらゆる魔法が使えると言っているに等しい」

「まあ適正と出力の制約はありますけど、概ねそうですね」

「魔法はイメージで発動する、このように教えられますね?」

「はい」

「そこで私たちはこう考えるのです、火を起こす魔法ファイアであれば火が起きるという結果をイメージする。そして魔法によってその結果そのものが魔法として発現します」

「え、過程は…?」

「そう、君のしているイメージは火が起きるまでの過程、それを魔力操作によって引き起こしファイアという魔法が発現する。君の魔法の教師はどのように魔法と魔力操作を連動させていたかわかりますか?」

「そういえばあまりそういう話はしなかったですね…、でも起こした魔法を魔力操作で制御している雰囲気だったかな?」


 サラの講義は俺の実力を確認後即実戦に移った。実践上の魔法の使い方や注意点、改善が基本。あまりサラ自身口数も多くないので魔法そのものの話は少なかった。俺がどのように魔法を使っているか、イメージしているかの話ぐらいはしたことはあるけれど、それについて何か言われたことはない。


「恐らく魔法使いにとってはイメージの仕方は人それぞれという点と、君のやり方を変える必要がなかったからでしょうね。一般的でなくてもそれが本人に合っているならそれでいい、その方がよい、とても冒険者らしい考えです」

「クラフ室長は違うと?」

「いえ、アルク君の魔法に関してはそのままでいいかと。しかし魔道具というものは道具です、画一的でなくてはならない。異常なものがあればなぜその異常が起こるのか、その異常を別の道具に活用できないか、規格にすることで利用できないかと考えます。つまり今私は君のその考えが魔道具に活用できないかを考えている」

「過程をイメージして魔法を発動するということがですか?」

「ええ、現在、魔道核の刻印というのは発掘された魔道具から扱えそうなものを複写したにすぎません。つまりこの刻印をすればこの魔法が発現するという結果を知った上でその結果を複写している。当然魔石の大きさが違えば刻印の大きさも変わりますからサイズの調整は必要ですがね」

「刻印そのものの意味などを理解は出来ていない?」

「そうです、文字なのか、記号なのか、なぜ魔石にそれを刻印すると魔法が発現するのか。文字だとしたらいつの時代のものなのか。研究はされましたが解明には至っていません、アルク君は刻印に関してなにかこういうものではないか、という考えはありますか?」

「え、俺の考えですか?」

「はい、なんでもいいので思ったことを言ってみていただければ」


 魔石の刻印をして思ったこと、刻印を掘り、魔力操作を誤れば誤作動を起こす。それはなぜか…。


「うーん、刻印は魔力の通り道で文章になっているとか…?」

「ほう、なぜそう思いましたか?」

「刻印の溝を魔力が川のように流れることで文章が完成、意味を持ったものになって魔法が発現するのかなあと」

「文章…溝の一本一本が文字である、ということですね?」

「はい、全体を文字として見たら解明できないし、文章として解明しようにも文字ではなく線で構成された文章だから共通点を探ることも難しい。あり得るのかなって」

「ふむ…、刻印全体で魔法発動までの過程を描き切っている…?魔力が刻印を満たし、過程を完走するからこそ魔法が発現する…?あり得る話ですね」


 話をしていたらクラフ室長が考え込んでしまった。研究者特有の集中モードだこれ、話しかけたらいけないやつ。


「ねえアルク」

「ん?何?」


 ずっと隣で話を聞いていたフレアが、クラフ室長との話が一度途切れたこのタイミングで話しかけてきた。


「あなたが話始める前、考えを纏めてる時に少しこぼしてたけど、前世の記憶って何?」

「え、言ってた…?」

「私にしか聞こえてないぐらいのぽろっとだけど」


 え、マジ?答えを纏めるために集中して考え込んでたからその時無意識に口からでたか?


「えっとですね…、そのですね」

「ええ、なにかしら」

「後日…説明の時間を頂いてもよろしいでしょうかお嬢様…?」

「なんでそんな卑屈な感じなの?」


 いやまあ、このこと誰にも言うつもりなかったし。言っても信じられないだろうし。フレア相手にバレた以上誤魔化すのか素直に話すのか方針も決めないといけないし。いやけど咄嗟にこんな反応とっちゃったから誤魔化すのきつそう。


 じゃあ素直に話すとして…どこまで話しましょうね…?

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