75:クラフ室長
魔道核製造体験も終わり、見学工程は一通り終了したためこのままクラフ室長との約束通り、少し話をするために応接室へと案内された。
「いやあ!お二人の貴重なお時間を頂いて申し訳ない!」
「いえ、約束ですし、俺としても下心あってのことですから」
「ははっ、先ほどおっしゃっていた私との伝手のことでしたら下心にもなりませんよ。貴族としてとても正しい判断かと」
「そうおっしゃっていただけると」
クラフ室長が用意してくれた紅茶を、3人ともに一口味わったところで彼が口を開いた。
「改めて自己紹介を、私はクラフ・ディマロと言います。ここマギアナ魔道具工房で魔道核製造室長をしています」
「クラフ室長はディマロ家の方だったのですか!?」
「ええ、現当主のディマロ外務卿は私の兄になります。フレア嬢とはお会いしたことがありませんでしたね、なにぶん我が家は政務の都合上あまり国内の社交界には出席できませんから」
クラフ室長のフルネームを聞きフレアが驚いていた。俺と違って社交界経験豊富なフレアで知らないとなると彼の言う通りディマロ家はあまり国内での社交ができていないのだろう。
「どうしてディマロ家の方がマギアナに勤めていらっしゃるのですか?」
公爵家の一つであるディマロ家、この国の外務を司っている公爵家の出身で実力もあるともなれば家督を継がずに自立するとしても、いくらでももっといい職業につけるだろう。そしてもう一つ、クラフ室長がここにいることはこの国の貴族子息が守っているとある風習に反している。
「一言で言えば魔道具が好きだから、となるわけですがそれでは不十分でしょうね。この国では一般的に後を継がないことになった貴族子息は自立し、家からなるべく離れた王都以外の土地にいきますよね?これは家督争いを避けるためにできた決まりです」
この国では過去、後継者争いに家督争いと、公爵家がそれぞれ様々な役職を司るように、家ごとに役職を持つからこそ、それを奪い合う争いが多発した。過去は一夫多妻制を採用し、貴族の血を、魔法使いの血を増やそうとしたが、妻間での争い、子供間の嫉妬、私の子の方が、俺の方が、私の方が、実力があるのに。実力を重視する風潮があるからこそ、歪んだ目で、歪んだ想いで測られた誤った実力が多くの争いを生み出した。
結果血を絶やすわけにいかない王を除いて、一夫一妻制に変更され、当主の妻への愛情の違いが、当主の子供への愛情の違いが、妻間が、子供間がという争いの火種がなるべく起こらないように制度は変わっていき、その中でできた風習が家督を継がなかった子は自立して王都以外の遠くの土地へ行くということ。
自分の派閥を作ることなどできない、家の名前が役に立たない土地で、正しく自分の力のみで生きることで実力を見つめなおす、そういう風習。派閥を作らせないことも目的だからこそ王都は向かう土地から除外される。
「けれどそうして自立した者でも、当主になにかあった場合は実家に戻る必要がでます。そしてディマロ家は外務を司る家、何かあった場合に内政問題だけで済めばいいですが、外交問題になっては戦争の引き金になりかねない。それだけは避けなくてはいけないということで、迅速な対応ができるよう、ディマロ家は家督を継がなかった人間は王都で自立しなくてはいけないのです」
「外務の隙を無くすため、ということですか」
「ええ、そうなりますね。即座に代役も立てられないようでは無用な隙を敵国に与え、無用な不安を同盟国に与えます、それを防ぐための措置です。まあおかげでマギアナに堂々と勤められるので私は運がよかったですね!」
あ、クラフ室長的に家のことよりもマギアナに勤められるかの方が大切そうだこれ。
「と、前置きが長くなってしまいましたね。アルクくんに聞きたいことがありまして」
「約束ですし、構いませんが俺は魔道具に関しては素人ですよ?」
「ええ、聞きたいことは魔道具に関することではありません。ただ君の考え方、発想の源を知れば魔道具の発展に役立つ可能性が高いと思っています」
「考え方ですか?」
「はい、まず社長から君の話を伺った後、誠に勝手ながら実家の伝手を使い君のことを調べさせてもらいました。フレア嬢のパーティでプリム嬢に求婚し、それを叶える条件のために冒険者として活動、12歳にしてCランク冒険者となり、入学式での決闘騒ぎ」
「決闘騒ぎについては横にいるフレアのせいなんですけど!」
「あら?決闘を受け入れた以上あなたも共犯よ?」
「拒否できない状況にしておいて共犯扱い!?」
「ははっ、まあまあ。そして私が話を聞きたいと思った一番の理由なのですが、あなたは婚約のためにコンラート殿と戦い勝利するという条件を課された。そうですね?ああ、レイン公爵家は隠してはいますが、公爵家同士ではよほどの機密でない限りある程度筒抜けですのでこの中で隠す必要はありませんよ」
「え?そうなの?」
プロポーズの件についてはバレていても仕方ないが、条件についてはレイン家の者しかいない所で課されたもの、またその条件が下手に広まればレイン公爵を倒せば公爵家を継げるなんていう下手な勘違いを生みかねないために秘匿されている。
にも拘わらず他公爵家にはバレているという、驚いて横を見るとフレア自身は知っていたとばかりに涼しい顔をしている。
「アルク相手なら言っても大丈夫かしらね。これはお互いに密偵を入れ合って、かつその密偵に漏れる情報も可能な限り選んで行われてる実質的な情報交換に過ぎないのよ。各家の事情や職務の状況を知っておく必要があるけれど、公的に手紙を出し合ったりしてたら情報に遅れが出る上に他国の密偵が狙う絶好の経路になるわ、それに公爵家内に不和があった場合、それも把握しておく必要があるからこそ相互に密偵という形で情報を抜き合っているのよ。その許容し合っているはずの密偵になにかあれば公爵家そのものに何かがあったという証左にもなるし、抜かれてはいけない情報が抜かれているようでは防諜に疑問が出る。そういう相互監視の慣習よ」
ええ…、なにそれ公爵家こわぁ…。貴族の社交は笑顔で握手をしながらナイフを隠すとかいうけど隠さず突き付け合って許容しあってるじゃん。
「そういうわけですので私は君の目的とその条件も知っています。しかし情報は情報、99%の確度であっても100%ではない。これはその1%を埋めるための確認です」
「でしたらその情報の確度は100%ととらえて頂いて大丈夫です」
「ありがとう、そこで聞きたいことはなぜ君は条件を聞いて諦めるという選択を取らなかったのか、という点です」
「え?そりゃプリムと結婚したいからですけど…?」
「それはもちろんそうでしょう。けれど君は条件を聞いて受け入れた、一切の譲歩も求めずに。レイン公爵との模擬戦を行い勝利する、後ほど決められた模擬戦の詳細条件では剣戟戦とも、魔法戦とも定められずどちらもありの戦いと決められました。それを受け入れ、君は鍛錬のために冒険者として活動した、それも年齢からすれば常軌を逸したやり方で。これはただ諦めないという話ではありません、どこか1%でも勝算を感じてなければ無理でしょう。貴族であれば、いえ、貴族でなくともレイン公爵の強さは知っています。その上で感じた君の勝算を、初級魔法しか使えないにも関わらずその勝算を感じさせた魔法の源を私は知りたい」
勝算…?あのタイミングであったかそんなの…?いや、そうか、普通どれだけ頑張っても勝てるわけがないと感じるんだ、そこを俺は死ぬほど頑張って何とかしようと考えた。そこが1%の勝算ということか。
「うーん、2年前を思い返しながらなので正確かはわかりませんが…」
当時条件を聞かされた俺が感じたこと、思ったこと、無意識下も意識しながら、考えを纏めてクラフ室長の質問に答え始めた。




