74:工房見学と製造体験
この世界における魔道具は鉱山や迷宮、魔物の体内などから採取される魔石に特殊な刻印を施して加工したものである魔道核に魔力を流すと魔法が再現される。魔石には魔力と同じように属性があり、属性と刻印の組み合わせによって発現する現象が変わるという形だ。
そして一部の鉱物や植物には魔力を流すという特性があり、魔道具用に加工されたそれらは魔力線と言われ、銅線のように魔力を通して核へと流し込むことで魔道具は稼働する。
魔石の加工、動作確認などは魔法使いでないと難しいが核以外の外装や内装部分は魔法使いでなくてもできるため、マギアナでは魔法使い以外にも多くの人が魔道具の製造に携わっている。
外装の作成、内装に使う部品の作成、魔道核の作成、最終的な組み立て。受付のお姉さんがそのまま案内役についてくれ、各工程の説明を受けながら見て回っていく。
「もし興味があればどこかの工程を体験してみる?」
「いいんですか?」
「見学に来た子が希望すればいつもやらせているから大丈夫よ、それで将来の仲間になってくれるかもしれないって目論見もあるから」
「ぶっちゃけますね…」
「100人見学させて1人でもそうなったら儲けもの程度の目論見だから大丈夫よ、それに見学を受け入れただけで国から補助も貰えるし、あなた達が遠慮することはないわ」
ようするに学園への協力の謝礼という名目で補助金がおりるからこそ、スムーズな受け入れ態勢や見学者がしっかりと学べるように体験用のプログラムを組んでおかなければならない。つまりマギアナと学園、国の3者が絡んだビジネスの一つだから俺達学生は何も心配せず楽しみ、学んでくれればいいとのこと。
「私は特にこれといった希望はないからアルクの体験したい工程でいいわよ」
「そう?じゃあ魔道核の工程をお願いできますか?」
「いきなり難しいところに挑戦するわね、大丈夫よ」
お姉さんに案内され、魔道核製造の部屋にお邪魔する。到着するとお姉さんが担当者に事情を説明し、説明を受けた担当者は喜んで作業員たちと準備をしてくれている。なぜ体験がきただけでそんな大喜びを…?
「魔道核の体験は人気がないのよ、魔法使いじゃないと出来ないのもあるけど、難しそうなイメージで敬遠されちゃってね。けどその上で体験したがる子は熱心な子が多いから将来的にうちに就職する子も多いの。現に担当者の子も元々そういう子よ」
「就職先には考えてないんだけどな…」
「でも魔道具をしっかりとは学びたいんでしょ?」
「そうですね、目的があるので」
「なら十分よ、あの子たちも喜ぶわ」
準備も終わり、俺とフレアは一つの机に案内されて担当者の人から核工程体験の説明を受ける。
「どーもどーも!魔道核製造室長のクラフです!いやー、魔法科の1年生が体験に来てくれるとは!魔道具の未来も明るいですね!」
「お、お願いします…!」
「……」
かなりフランクにぐいぐい来る男性で俺もフレアも少し引いてしまった。一般的な社会人のイメージと違い、なんというか、目の前のことしか見えていない研究者のような印象だ。
「しかも君はアルク・スティングくんですよね?いやー!一度お会いしたかったんですよ!!」
「え、なんで俺のことを知ってるんですか…?」
「学園の入学式にはうちの社長も行ってましてね。その社長から教えられました、初級魔法しか使えないにも関わらず主席生徒に決闘で勝利できてしまうような学生がいると!それを聞いて私はもう話を聞きたくて聞きたくて!」
「え、今日は俺が話を聞いて魔道核の体験をさせて貰えるはずなのでは…」
「ああ、それはもちろん!終わってからでいいので少し時間をいただけませんか!これは魔道具の発展のためなんですよ!!」
えぇ…、俺が魔道具の勉強にきたのに魔道具の発展のためにできる話ってなにがあるの…。それにフレアも一緒だから待たせるわけにもいかないし。
「私は少しぐらい待ってもいいわよ」
「フレア?」
「アルク、あなたの目的のために魔道具を学びたいのよね?それならマギアナの室長になれるような人材との伝手は作っておくべきよ。室長さんが何を聞きたいのか、アルクは何を答えるのかには私も興味があるわ」
フレアの言うことは最もだ、魔道具を学ぶことを俺が決めたのはプリムとの婚約の条件である、レイン公爵に勝つため。そのためには俺に足りないもの、魔法出力という点を魔道具という外付けの力によって補うため。学園で教わる以上に実際に魔道具を作成している、それも責任者レベルの知識、技術を持つ人間との伝手はかなり大きい。
「でもクラフ室長のあの感じだと本当に少しの時間か分からないよ…?」
「それは…、まあ…。けど私自身、あなた達の話が気になると言ったのも本当だから」
「フレアがそこまで言ってくれるなら…。クラフ室長、先ほどのお話、お受けさせていただきます」
「おお!ありがとうございます!いやー!張り切って魔道核作成をお教えさせていただきますよ!」
いや、普通に教えてくれればいいのだが。しかし始まってみると先ほどまでの自分が自分がとグイグイきていたのはどこへやら、かなり魔道核の製造工程を丁寧にわかりやすく説明され、作業中に浮かんだ疑問は等はその場で疑問の答えだけでなく、なぜその答えになるのかという理由まで端的に教えてくれた。
正直この人めちゃくちゃ指導が上手い。俺の師匠達と比べてもクラフ室長が指導力はトップだろう。魔道核という複雑な機構、それを初心者である俺達にたった一度の説明で理解させ、俺達が抱いた疑問にはどのタイミングでその疑問を抱いたのか、という情報からどういう思考をたどってその疑問に至ったかを察し、その道筋を解きほぐす理由も付けて答えてくれる。
今回の体験で俺達が刻印するのは光の魔石に明るく光るライトの魔法を再現する刻印。以前俺が購入したルームランプなどで使われている魔道核だ。ライトのための刻印は類似する刻印がなく、ミスによって別の効果になってしまったり、暴発しても危険のない安全な体験内容なのだそうだ。
そして刻印を掘る工程、ここが魔法使いでないと出来ないと言われる理由。刻印を掘るための彫刻刀のような刃物、これは魔力を通す鉱物で作られた刃に魔力を通す木材で持ち手を付けたもの。つまり刻印を掘る時はこの刻印刀と呼ばれる工具に魔力を流しながらでなければ魔石の加工が出来ない。
当然魔石に常に魔力が触れているに等しいため、魔力操作を誤れば刻印が完成した瞬間に魔道核が稼働してしまう。魔道核製造が難しいと言われる所以で、それゆえに体験希望者も減ってしまうとクラフ室長は言っていた。ライトの刻印体験程度なら稼働しても光るだけなので全く難しいことはないのだけれどと少し寂しそうだった。
「クラフ室長、これで完成だと思うのですが、確認お願いできますか?」
「はいはい!…うん、完璧ですね。先に終えたフレアさん共々魔道核が作動することもなく、本当に初めてとは信じられませんよ、新人が核製造に携わって、製造中に誤作動しなくなるまで数か月はかかるのですから」
そう、フレアは俺より先に終わらせていた。邪魔してくるようなやつではないが、流石に待たせてる相手がじっと見てくるというのは少し申し訳ない気持ちになるので勘弁してほしかった。
俺は結構器用な方だという自負があったけれど、フレアの刻印の速さは熟練の職人のようなおじさんが目の色変えて弟子にしたいとか言い出すほどだった。クラフ室長にあの人はなんだったのかと聞くとマギアナ一番の魔道核職人で実力はクラフ室長でも足元に及ばないほどだが、事務処理能力やマネジメント能力、折衝などの社会人としての部分があまりにも致命的なために出世せず魔道核製造室のエースをやっている人らしい。
確かに突然体験参加者を弟子に勧誘するのは社会人として致命的かぁ…。




