72:バーベキュー
昨日新しく調整したチャンピオンズのパーティが楽しくってぇ…、気が付いたら15時間ぶっ通しでやっててぇ…、レート2000に乗せたくってぇ…。難しいパーティだけどちゃんとプレイングに応えてくれるパーティっていいよね
「実習初回、みんなご苦労だった!口頭試問も全パーティ終了、そこのアルク講師補佐の独断と暴走によりここにいる全員でマウントボアを食えることになったぞ!お貴族様でも滅多に食えねえっていう最高の肉だ!今日の反省も、説教も次回の講義に回してやるから今日は楽しめ!乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
学園に申請を出し、屋外訓練場を貸し切って行われたマウントボアを主役としたパーティ実習お疲れ様バーベキュー。会場を借りるための申請経路やらなんやらの関係か、ニコラ教授や学園長など事情を知ったのだろう教師陣の姿も見える。
え、なんで…?いやまあ数人増えてもいいけどさ。
「アルクさん、生徒の危険を事前に取り除く討伐。君に講師補佐をお願いしてよかったです」
「ニコラ教授、訓練場の使用許可ありがとうございます」
「なに、学園長も生徒の安全が確保されたことにお喜びでしたし、この程度なんでもないですよ」
でしょうね、学園長もあなたもマウントボアの肉をお皿に山盛りにしてますもんね。
「学園長からも今回の件でアルクさんの個人評価に加点を入れるよう伝えられています。講師補佐として生徒のために真面目にやってくれていますからね」
うん、完全にお肉のお礼だね。学園長そこで肉を馬鹿食いしながらお酒を浴びるように飲んでるもの。というかあの年であそこまで食って飲んでできるのすごいな。
「ありがとうございます、真面目に励んだ甲斐があります!」
うん、真面目に励んだ結果だよ。決して肉が食いたかったわけじゃないよ。
「ではゴルド外部講師にも話があるので私はこれで」
「はい、ニコラ教授もバーベキューを楽しんでください」
「ありがとうございます、楽しませていただきますよ」
満面の笑みで俺の元から去っていくニコラ教授。フレアの誕生会でも貴族が群がってたし、マウントボアの肉にはなにかやばい成分が入ってたりしないよな?
「アルク、この肉マジでうめえな!!」
「でしょ?シーク、俺に感謝しておいたほうがいいよ」
「今回ばかりは素直に感謝できるな!ありがとよ、アルク!」
「うむ、くるしゅうない」
肉が美味しかったのはいいことだけどねシーク、ちゃんと野菜も食べようね?リース達が食堂からもらってきてくれていっぱいあるんだから。焼きとうもろこしとか甘くておいしいよ?
「シークは初めて魔物と戦ってみてどうだった?」
「流石に緊張したし、盾と魔法をちゃんと使えば大丈夫ってわかってても怖かったな…」
「リバーピッグのハリはシークの風で吹き飛ばせばいいから割り振られたけど、まあ最初は怖いよね」
「アルクはどうだったんだ?」
「俺は師匠のほうが怖かったから…」
初めて戦ったのはフォレストウルフだったけれど、ガーランドの方が速かったし、恐怖はあまりなかった。なんで魔法も無しで四足の獣より速いんだろうねあの人。
「フレアのやつは一切躊躇なしで突っ込んでたな。本当にお嬢様かよあいつ」
「どうせハリも一切シークの補助なしで対処してたでしょ」
「そうなんだよ!あれどうなってんだよ!意味わかんねえよ!」
シーク達のパーティが取るべきリバーピッグ対策は、最前衛にフレアを配置、中衛にシーク、後衛にメイとキャロル。ハリ攻撃の前兆が見え次第、シークは任意の方向に強い風を吹かせる魔法、ウインドブロワーによってハリを吹き飛ばす。それ以外に怖い攻撃はないので適当に攻撃していればいい。
しかしシークも魔法戦闘ができるわけじゃないので中衛として戦いながら魔法を使う時は一度魔法に集中しなければならない。それが遅れるほど、ハリはシーク達に飛んでくるわけだが最前衛のフレアは当然その影響を真っ先に受ける。
「フレアにはどうやってるか聞いた?」
「聞いたら同時にくるわけじゃないんだから順番に対処するだけじゃないって言われたぞ、いや同時に来てるようにしか見えねえよ」
「まだシークには出来ない対処だねえ…。シークは今のやり方を鍛えていけばいいよ、最初はウインドブロワーだけでも近接戦しながら発動することを目標で」
ウインドブロワーはただ強い風を吹かせるだけなので中級でありながらそのシンプルさから戦闘中は初級魔法より使いやすい。俺が使うような空気抵抗を減らす魔法なんかはかなり繊細な魔力操作が要求される。
「アルクがやってる魔力操作ってなんかコツとかあるのか?」
「コツ…うーんなんて言ったらいいのかなぁ…」
魔力を使う、魔法を発動する。そのために大事なのはどれだけ具体的にイメージできるかだ。魔力そのものや魔力による操作対象の把握に前世の知識である原子論等はかなり役に立っている。空気等の目に見えないものを具体的に把握、イメージできるというのはかなり有用だが、この世界にはまだない考え方。教えてもいいけれど、正直前世の知識はどこまで教えていいのかが判断がつきにくい。
前世にて、科学的知見を深めた人類は誰でも簡単に、大量に人を殺せる兵器を生み出してしまった。この世界でも上級魔法ならば似たようなことが出来るが一部の人間しか使えないのなら最悪その人間を排除すればいい。けれど誰でもできるとなるとそうはいかない、そんな世界になってしまう方向へわざわざ加速させようとは思わない。
「自分のやり方でいいから具体的に把握して、ちゃんとそこにあるものとして空気を感じることだね」
「空気を感じる?」
「風魔法って言うけど、それで操ってる風って要は空気の移動だからね。厳密には操ってるのは空気ってこと」
風魔法使いでも風を操っている、と思っている人は多い。まあそれでもイメージさえしっかりしていれば発動するのが魔法の凄いけれどアバウトな所だ。俺だって原子論を用いて理解の助けにしているけれど、空気中の成分なんてはっきり詳細に知っているわけじゃないし。
「空気を操る…」
「水中の泡なんか目に見えるし、練習する上で分かりやすいと思うよ」
シークが真面目に考え込んでしまった。せっかく紙皿に乗せてあるお肉を食べる箸も止まってしまっている。仕方ないので肉が冷めてしまう前に俺が頂いておくとして、フレアやメイ、キャロるん等他の生徒達にも今日の感想を聞いて回り、反省点や改善点を伝えていく。
なぜなら俺はアルくん先生、講師補佐という形で皆が安全に学べるようにしてあげないといけない。俺のアドバイスが少しでも役に立って、皆が怪我する確率が1%でも下がってくれるならそれに越したことはない。というか目の前で重症なんて負ってほしくないし。
「アルク!お前人の肉勝手に食っただろ!?」
「え、今更気付いたの…?」
とりあえずシークくんはどんな時も広い視野を持てるようにしようか。




