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71:アルくん先生

「あ、アルくん先生だ!お仕事お疲れ様です!」

「はいはい、じゃあお仕事なので現状を教えてね」


 川エリアの生徒達の様子を見て、各パーティの現状を確認していく。冒険者講習初回、俺が講師役をすると自己紹介したら、じゃあアルくん先生だと騎士科の女子が言ったせいですっかりこのあだ名が定着してしまった。


 講義中はいいけどそれ以外は止めてほしい、先生じゃないし俺。


「うん、状況はわかったよ、ありがとう。引き続きがんばってね」

「はーい、そういえば向こうで変な感じになってた子達がいたよ?」

「変な感じ?」

「なんかすっごくネガティブで落ち込んでた」

「あぁ…ウツカズラにやられたんだろうね。わかった、ありがとう」


 ウツカズラ、前世のウツボカズラのような形をした植物型の魔物。ウツカズラの厄介なところは雄と雌で対処が違うところ、雄ならば火魔法で温めてから、雌ならば水魔法で冷やしてから倒さないといけない。でないと消化液が蔓から噴出してパーティ全員に降り注ぐ。


 その消化液がもたらす効果、雄の消化液を浴びたものは希望が抜け落ち、雌の消化液を浴びた者は髪の毛が抜け落ちる。つまり鬱になるか、ハゲになるか。ウツカズラ(鬱かヅラ)というわけだ。


 …この世界変な魔物も多いよね。なお雌の消化液は脱毛クリームや各種化粧品に用いられ、ムダ毛対策に力を発揮しているが、その配合は企業秘密となっており、原液の使用はオススメしない。


 川上にあるウツカズラの生息地に向かうと4人の男子がorzの形に項垂れている様子がみえた。確実にあいつらだな。


「俺はダメだ…、初級の講義すら失敗して…、このまま落第して退学勧告をうけるんだぁ…」

「はいはい、魔法科の生徒が退学とかそうそうないから、というか魔法の知識が足りてない子を野に解き放ってどうするの。解毒っと」


 すっかりネガティブパーティとなっていた騎士科3人、魔法科1人のパーティに闇の解毒魔法をかけていく。ウツカズラの消化液内の毒によって精神に変調をきたしているので闇の解毒魔法で対応できるのが救いだ。ハゲる方だった場合は素直にまた生えてくるのを待つしかない。


「あ…、アルくん先生。ありがとう…。もしかして落単かな?」

「ウツカズラの影響抜けてるよね?この程度で単位は落ちないから大丈夫だよ、という失敗から学ぶ目的の実習で失敗が許されないのはやばいでしょ」


 騎士科の男子が不安そうにしているがこの程度で単位を落とすわけがない。ウツカズラの影響がなくともネガティブなのは治しておこうね。君もう15歳なんだから。


 初回の実習は正直言って危険な依頼は何もない、ゴルド講師が死人はないようになんて言っていたけど死人が出るような魔物は対象になってない。とんでもないイレギュラーな魔物が出たり、水難事故がない限りは悪くてケガするぐらいだろう。…ハゲるのが一番悪いか?


「とりあえず経緯の説明お願いしていい?評価の参考にするから」

「言いたくない」

「言えば成績が悪くても単位はでる、言わなければ単位は出ない」

「くっ…、アルくん先生は鬼だ…」


 騎士科の男子曰く、本当に普通に戦って、別に強くもない魔物だから楽な相手だなと倒したら消化液を浴びてこうなったらしい。このパーティにいる魔法使いは水使い、事前にウツカズラについて調べ、雌雄の判別をした上で雌のみを討伐すればこうはならなかった。つまり調査不足である。


「とりあえず雌雄の見分けはここで、あと対処法はこうね。俺が教えたってことで少し評価は落ちるけど、依頼達成時はちゃんと依頼達成として評価されるから」

「わかったよ、ありがとう」


 ウツカズラの対処を教え、4人と別れる。水難事故は起きてないかちらりと川下の方を確認すると、特にトラブルはなさそうだった。シーク達が頑張ってリバーピッグと戦っている様子も見える、なおフレアは以前に伝えた通り魔法の使用禁止だ。


「少し外縁も見て回るかー」


 エリアの外縁は他のエリアの魔物、つまり生徒達の討伐対象でない魔物がいてもおかしくない。特に山側は一段階強い魔物もおり、そんな魔物は初実習の生徒達には手に余る。事故を防ぐためにもしっかりと確認しておかなくてはならない。


 山の麓を歩いていると3年ぶりとなる肉いあん畜生との再会が俺を待っていた。マウントボア、発見されることが希少で、討伐しておかないと危険だと言われる美味しいお肉。


 そう、これは別に俺がマウントボアの肉が食いたいというわけじゃない。万が一、万が一にもマウントボアが川の方に降りてきて、大切な生徒達に被害が及んでしまっては一大事だからここで討伐しておくのだ。ただそんな危険な討伐対象がいましたよ、という報告をするためにその死体を持ち帰るだけなのだ。


「今日はマウントボアでバーベキューだオラアアアアアア!!」


 血抜きをしたマウントボアを担いで巡回に戻る。闇魔法で日光を遮った上で水魔法で冷やす、簡易冷蔵状態だ。自立式冷蔵庫アルクくん、目的地まで食料の鮮度を保って運搬します!


「アルク、あなた実習中に何を狩ってるのよ…」

「フレア、これは巡回中に危険な魔物がいたから万が一がないように討伐しただけだ」

「うわぁ!マウントボア!アルるんさすがー!」

「でけぇ森豚だな」

「シーク、これ森豚じゃないよ…。マウントボアすごく美味しいんだけど滅多に見つからないって」


 シーク達も無事リバーピッグを倒したようでハリを切った大きいハリセンボンを運んでいる。人間ぐらいのサイズ感があるハリセンボンってすごいな。


「とりあえず俺はまだ巡回があるから4人は戻ったらリースを呼んでおいて、実習参加者と…そうだな、フレアとキャロるんの使用人さんも呼んでバーベキューをしよう。申し訳ないけど使用人組にはバーベキューの準備をしてもらう形で」


 生徒それぞれが1人連れてくることのできる使用人、従者科に通ってはいるが主人の呼び出しであれば当然そちらが優先されるし、それによって成績などへの影響はない。なので安心してリースを呼ぶことができる。


「お、マジで!?俺達も食っていいの!?」

「実習参加の生徒皆でね、初実習記念だし。というかこの量は俺とリースだけじゃ使いきれないし」


 冷凍保存しようにも学園の施設を借りる形になる、流石にそれは申し訳ない。だったらみんなでバーベキューでもして楽しんだ方が何倍もいいだろう。


「そういえば私の誕生会の時もアルクはマウントボアを狩ってきてたわよね」

「あの時は道中で狩ったから冷凍保存してて味が落ちてたからね。今回は狩ったばかりだからあの時より美味しいと思うよ」

「そう?それは楽しみにしておくわ」

「私、マウントボア食べるのはじめてー!ありがとうね、アルるん!」

「キャロるんも楽しみにしておいてね、じゃあ俺は巡回に戻るよ」


 シーク達と別れ、他の生徒達の様子をみる。ちらほらと討伐が完了した生徒達が王都の方へと戻っていく、通りすがりに俺のことを見て驚き、何事かと聞かれるのでシーク達に話した計画を伝え、可能なら準備を手伝ってほしいとお願いする。


「アルくん先生の頼みなら仕方がないな~~~」

「尊敬する先生の頼みを聞けない生徒なんて俺達の中にはいねえよなぁ!」


 みんな疲れていた表情が一気に笑顔になり、一部の生徒はよだれも垂らして王都へと急いで帰っていく。急いで帰っても俺が帰らなければバーベキューは始まらないので意味はないのだが、まあリース達を手伝ってくれるので早いにこしたことはないだろう。


 そろそろ今日の講義時間も終了、ほとんどの生徒はもう学園に戻っており、何組かの生徒がまだ討伐対象が見つからず探し歩いている。うん、まあ見つからないよ、だって君らの討伐対象がいるの草原エリアだから…。

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