69:休日の終わり
「アルクくん、あれから数日でまたこれをするのはどういうつもりだい?」
「あ、ケイン本部長。そちらの公爵令嬢がこういうことが好きなので」
「あぁ…、まあそうだろうね…」
あれで認められたら仲間の証として宴会をする。まだお昼だがフレアが認められた以上お決まりなので皆で好きに飲食している。冒険者達の気遣いにより、俺以外の学生組は無料だ。俺?俺はほら、冒険者として活動してたのみんな知ってるから…、お前はむしろこっち側だろって冒険者達から言われた。俺も学生なのに…
「フレア、キャロるん、冒険者流の宴会だから騒がしいと思うけど楽しめてる?」
「ここではこういうものなのでしょ?ならうるさく言わないわよ。普段の堅苦しい社交界より全然気楽だしね」
「私も大丈夫だよー、ご飯もおいしいし!」
「そ、ならよかった」
「俺達はこういう雰囲気のが慣れてるから楽だわ」
「よくおじさんとお父さんが食堂でやってたもんね」
今回の主役はフレア、冒険者組から剣術について聞かれたり、魔法について聞かれたりと質問攻めを受けていた。実際に現時点でフレアの実力はBランク冒険者でも違和感がない、決闘では俺が勝利したがそれは結局人間同士の白兵戦でしかない、人間ではありえない膂力や堅さを持った魔物や多数の群れを相手にする力はフレアの方が上、Bランクに求められる力を持っていると言える。
「それでアルクくんは今日はどんな要件で?まさかこのためだけに来たわけではないでしょう?」
「この前お伝えした冒険者志望の子がこの子なんですよ。それで場所とか色々確認しておきたいってことだったので」
「シークです!お願いします!」
「ああ、この前言っていた子ですね。学生なので今は登録などは出来ませんが、訓練等したければ自由に使っていただいていいですよ、どうせ講義終了後には資格も与えられますしね」
「いいのか!?」
「新人が無茶して死ぬなんてよくあることなので、そうなるぐらいなら資格取得前からしっかり学んでいただいたほうがいいですから」
シークはケイン本部長に色々と冒険者の話を聞いている、まあ冒険者について質問するなら最適な相手だろう、メイも一緒になって話を聞き、後々依頼を受けるにあたっての注意点などを気にしている。
「アルク様、助けてください」
「リースどうかしたの?」
リースが何人かの女性冒険者を連れて俺の元に来た。しかし助けてくださいとは珍しい要望だ。
「アルクくん、リースさんの服をコーディネートしたのがアルクくんって本当?」
「あー、まあ俺がコンセプトを決めて詳細を詰めたのはそこにいるキャロるんと店員さんだね。どんな服があるか分からなかったし、プロの意見がないとわからないから」
「リン、ちょっとそのキャロるんって人も連れてきて」
「あいさー!」
リンと呼ばれた女性がキャロるんの所に向かい、少し言葉を交わした後キャロるんが拉致られてきた。
「アルるんに呼ばれてるって聞いたからきたよー?」
「いや、呼んだの俺じゃないけど…」
「えー?」
「実はリースさんの服について2人の考えを私達に教えてほしいのよ。冒険者やってるとおしゃれに興味はあってもなかなか勉強する機会もなくて…」
「冒険に詳しい知り合いは多くても服に詳しい知り合いはいないものね…」
ああ…、冒険者はおしゃれに時間とお金を使う前に訓練と装備に時間とお金を使わなくては命を落とす職業だ。そういったコミュニティにいれば当然服に詳しい知り合いは出来にくいか…。
「それならいいよー!リーちょんが着てる服は高いから持ってる服で可愛く盛るやり方教えるねー!」
「あのお店は貴族向けだからねぇ。俺に出来るのはコーディネートの考え方を教えるぐらいか」
「すごく助かるわ!ありがとう!」
突発で俺とキャロるんによる服飾講習会、参加者を募ったら思ったより集まった女性冒険者達に服のあれこれを教えて、講習ついでに冒険者達オススメの武具店なども教えてもらった。
図らずも昼食を済ませることが出来た俺達はさっそく聞いたオススメの武具店へと向かうことにし、冒険者ギルドを後にした。
「さっき聞いたお店はここかな?」
「多分そうだな、ゴンズって店でよかったよな?」
初めての武具を買うならと冒険者に勧められた店、ゴンズ武具店。リーズナブルで初心者に使いやすいものが揃っており、毎年ベルデ学園で冒険者資格を取得した学生が利用する様子が見れるとのこと。
「すいませーん」
「はーい、あら?学生さん?冒険者資格を取るにはまだ早いわよね?」
「その前に場所の確認と相場を知りたかったので」
「あぁ、そういうこと、自由に見て行っていいわよ」
「ありがとうございます」
ゴンズ武具店に入るとおばちゃん店員に迎え入れられた、ここの武具を作っている鍛冶師さんの奥さんだそうだ。ゴンズ武具店が初心者向けに使いやすいものを作っているのはこの奥さんの方針らしい。
「とりあえず防具とローブかなあ」
「そうだな、なあ、なんで魔法使いの冒険者ってローブを着るんだ?普通の防具じゃだめなのか?」
「あー、まあ布が欲しいからだね」
「布?」
魔法使い=ローブを着ているイメージ、前世でもあったこれは魔法使いの冒険者達がローブを着ているからこの世界でも根強い。サラになぜかを聞いたところ帰ってきた答えが布である。持ち運べる物資には限界がある、そのため必要最低限の荷物を選別して持ち運ぶわけだが、持っておけると色々便利だがその荷物には含みたくはないもの、それが布だ。
怪我の応急処置、物資を運ぶ巾着、寒さを耐えたい時の毛布代わり、さまざまに使えるが持ち運ぶにはかさばりすぎる布。ならば布なんだし着てしまえ、という結論から遠距離戦が基本のため防具の必要性が低い魔法使いが簡単な防具にもなるローブを着るという流れにこの世界ではなったらしい。
「へー、そんな理由だったのか」
「冒険者は軍と違って自分たちで物資を運ぶしかないからね、収納術みたいなものかな」
シークのための防具、メイのためのローブを眺め、2人は値段やサイズを確認、どのぐらいの予算を組むか、そのためには今後の生活費がこうでなどの話をしている。
フレア、キャロるん、リースは3人で武具を様々見ているがそちらはまあ冷やかしと変わらない。冒険者活動をしないだろうし、魔法使いが武器を買うのは極稀だ。
俺も適当にいいものはないか見て回る。と言っても俺も武器もいらないし、防具も使わないスタイルだ。防具の重量による速さの低下は俺のやり方と相性が悪い、使用するとしても必要な時に、かつ軽量な物に限られる。
「お、このナイフいいな」
流石初心者向けの店だ、適当に試し振りなどしていると軽くて使いやすいナイフがあった。業物ではないが質の良い万人向けのナイフ、こういったものは冒険者たるもの1本は持っておけと言える一振り。うん、そうだな、これはよさそう。
「おばちゃんこれ頂戴」
「はいはい、ナイフだね。銀貨8枚だよ」
ナイフを購入した俺はシーク達の元へと向かう、リースのためとは言え結果的に女性陣にのみ服を買い、シークにはなにも買っていないという少し不平等な状態だったし、これは先輩冒険者としての激励みたいなものだ。
「シーク、このナイフ、あげるよ」
「は?なんで突然」
「女性陣には服を買ったけど、シークには何もなしだったからね、これは冒険者の先輩として。使いやすいナイフは一本持っておいたほうがいい、できれば普段の料理とかでもたまに使って慣れておくといいよ」
「お…、おう。なんつーか、さんきゅな!」
ナイフはあれば便利だが最悪無くてもいい装備、言ってしまえば初心者冒険者が後回しにする装備の代表のようなものだ。けれど遭難などの事態になった場合、あると無いでは雲泥の差が生まれる。ならばまあ俺から渡しておこうか、というわけだ。
「フレアたちはこの後行きたいところとかある?」
「特にないわね」
「私もないよー」
「じゃあこれが終わったら喫茶店で紅茶でも飲みながら少し話して今日は解散にしようか」
「それで構わないわ」
「いっぱい歩いたねー!」
シーク達の確認したかったものも確認が終わり、店を後にした俺達は道中で見つけていた喫茶店に入って講義の感想や、こんな行事が楽しみだ、などを話し合った。皆の好きな物の傾向なんかもわかったし、リースも女性陣とだいぶ打ち解け年の離れた友人として接することが出来ている。
「発起人であるキャロるんは満足できた?」
「すっごい楽しかったよー!みんなが私みたいな恰好もしてくれて嬉しかったし!」
「それならよかった、キャロるんのおかげでリースも楽しめたみたいだしありがとうね」
「いやいや~、アルるんのコーディネートもよかったよ?私も勉強になったし、特にフレっちをギャルにしたのはアルるんじゃないと無理だね」
「まぁフレアをギャルにしようなんて無礼者はそうそういないだろうね」
「あははっ!皆公爵令嬢には及び腰だからね!アルるん達ぐらいじゃないかな、フレっちとこんな風に付き合えるの」
「キャロるんも友達なんでしょ?」
「私も友達だけどアルるんぐらい気楽には無理だよ~、だってお家からしたら上司の娘さんだよ?」
「あれで気楽じゃないの…?」
「これでも多少は気を使ってしまっているのです!」
「えぇ…?」
気を使っているそんな相手をフレっちと呼べるとは、ギャルという生き物の生態はわからない。疑問を抱きながらキャロるんを見るけれど、キャロるんはいつも通りの笑顔を浮かべていて、ただの人懐っこいギャルにしか見えなかった。むふーとかいう音出てるし。




