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62.5:初めての敗北、初めての恋、初めての失恋

一気に3話更新、こちらは3話目です。ずっと書きたいなーと思ってたシーンなので感想もらえたら嬉しいです。

 気が付くと私は知らない天井を見上げていた、下着姿でベッドの上に寝かされ、カーテンによってベッドは囲まれているため周りの景色はわからない。


「ここはどこかしら…?」


 立ち上がろうと思えない程度には体が怠い。行儀はよくないが、横になったまま少しカーテンを動かして外を覗く。そこから見えたのは白衣を着た女性と、彼女と話している父の姿。


「あら、フレアさん目が覚めたの?」

「フレア!?大丈夫か!?痛いところはないか?」


 カーテンの音で気付いたのだろう、二人が私の方に視線を向ける。父は完全にプライベートの時の父だ、訓練や公の場での厳しく威厳のある姿はなく、娘のことが大切で、溺愛している親バカな姿。


「体が怠くて、少し頭がぼーっとします。父様は声が響くから大声は止めて」

「あ、ああすまない」

「怪我は治療魔法で治るけど熱中症には効果がないものね」

「熱中症…?」

「あの状況じゃ覚えてないのも無理ないわ。少し問診がてらあの後のことを教えてあげるわね」


 私の我儘によって実現したアルク・スティングとの決闘。戦闘中は気付かなかったが私は試合時間が進むほど、少しづつ、少しづつ通常以上に判断力や体力を削られていたらしい。その原因が熱中症、年間を通して涼やかな気候が安定しているベルデ王国ではあまり報告がなく、砂漠や熱帯地方に向かった軍や外交官の記録に残る疾患。


「決闘中の私が熱中症に…?けど熱中症は高温な地域で見られる症状ですよね…?ベルデ王国の決闘場で発症すると思えないのですが」

「ああ、それに関しては私がアルクくんから詳細を聞いてきた、審判として魔道具の使用などの違反がないか確認もあったからな」


 そして父から教えられたのはアルクの突飛な発想と、それを可能とした異常な魔力操作。土以外の初級魔法は魔力障壁に阻まれる。その常識を疑い、その原理を以って常識を覆し、魔法で作り出した熱中症を引き起こす空気を、常に私の周囲に配置するという狂気的な魔法。


 そんな精密な魔力操作を常時要求される戦術を、私の魔法を捌きながら、私と剣戟を行いながら実行してきた。魔法の出力は私の方が上、彼の魔法は大半が私には無力、剣術でも私の方が少し上、その圧倒的に不利な条件の中で。


「彼はフレアに狙いを気付かせないためにはフレアを戦いに集中させる、戦いを楽しませる必要があったから同時にこなすしかなかった。と疲れた顔をしていたがね、やるしかないからやった、で出来るような技術ではない」

「私も熱中症で運ばれた生徒なんて初めてよ、学生時代にやった程度の知識なんてうろ覚えだし、彼が対処法を教えてくれなかったら正確に処置できたかどうか」

「!?、アルクが処置を手伝ったんですか!?」

「ああ、安心して。ちゃんとフレアさんはカーテンの中で、処置をしたのは私。外から口頭で指示を受けただけだから」

「あ、そうですよね」


 異性に肌を見られるのは貴族的に問題が大きい。起きた時の私は下着姿、運動着ぐらいの薄着ならいざしらず、流石に下着姿を見られるのはよろしくない。


「それで私は負けてここに運ばれたということですね…」

「ああ、魔道具の使用もなく、フレアの熱中症はアルク・スティングの初級魔法によって引き起こされた言わば魔法攻撃の一種、ルール上何の問題もない。…人の娘になんて魔法を使っているんだという気持ちはあるが」

「私も保健医としてあまり使ってほしくはない魔法ねー。最悪死んだり、後遺症が残ったという記録もあるから。まあ決闘で、それを使うしかないほどに実力が近かったんでしょうから彼を責めることはないけどね、ちゃんとその危険性もわかった上で使ってたみたいだし」


 2人が懸念する危険性、軍務を司る公爵家の娘として私も父から教えられているからわかる。けれどそれによってアルクに怒る気持ちは少しも湧かなかった。人が死ぬ可能性がある魔法を使っていたのは私も同じだ、決闘場の結界があるから可能性は低いとはいえ即死なら結界も意味がないし、それが必要なほど、私と彼の魔法適正には絶望的な差がある。


「同い年の子に負けたのは初めてですね…、もう少しベッドで休ませて頂いても大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。彼からも熱中症患者は無理に動かさずしっかり休ませるよう教えられたしね」

「ああ、フレアはゆっくりしていくといい。フレアも目を覚ましたことだ、私は王城へと戻るとしよう」

「ではもう少し休ませていただきます」


 そう伝え、私はベッドに戻り、カーテンを閉めて横になる。そうか、私は負けたのか…。今まで年上の騎士や父様に負けることはあったが、それは素直に年齢や経験の差、師匠に負けるなんて当たり前のことでしかない。


 同い年の子に負けた。それも中級魔法も使えない、私より剣の才能もなかった子に、ただひたすら死んでもおかしくない訓練によって鍛え上げられた、彼の持てる全てを積み重ねた力によって。


 私はこの結果をどう感じている?負けて悔しい?対等に戦える相手がいて嬉しい?妹の想い人が強くて頼もしい?わからない、全部そうな気がするし、なにか微妙に違うような気もする。


「それにしても負けかぁ…」


 そう呟いて、なんとなく右手を天井に伸ばす。その時、ふと違和感に気付く。そこにあるはずの私の魔法の象徴、人差し指にはまっているはずの指輪がなかったのだ。


「えっ!?」


 驚きと共に、アクセサリーとなっているはずの魔具を探す。そしてそれは探し始めてすぐに見つかり、指輪であることに変わりはなかった。


「はぁ…びっくりしたぁ」


 無事に魔具が見つかり、一息ついて、落ち着いたからこそ私はあることを思い出し、そして気付く。 


 魔具は姿を変えることはない、これはこの世界の常識だ。だが何事にも例外はある、アルク・スティングもその一つだが、最も観測された例外で、けれどその性質から一般には秘匿されている、私が公爵家の跡継ぎだからこそ教えられている例外。


 魔具は魔法使いの運命が変わるほどの心境の変化があった時、その姿を変える。それは武器として変わったり、アクセサリーとしての姿が変わったり、私のように魔具の位置が変わったりと様々だ。けれどその現象が起こった人物の運命はいずれも大きく変わったと言われている。


「それはよくない。…本当によくない」


 私の魔具、指輪がはまっていたのは左手の薬指。それが示し、だからこそ気付いた私の本心。けれどそれは、その気持ちは、絶対に彼に向けてはならない。だって彼は、私の最愛の妹を愛していて、そしてそんな妹の想い人なのだから。


「…私はフレア・レイン、レイン公爵家令嬢。公爵家に相応しい令嬢で…、妹達に慕われていて…、妹達を大切にしていて…」


 そうだ、私はフレア・レイン。周りからは才色兼備の完璧な公爵令嬢だと言われている。仮面を被るのは好きじゃなかった、けれど得意ではあった。ならばできるでしょう?友人と妹の恋を応援する姉の仮面を被るぐらい。だって私は、フレア・レインは、小さいころから仮面を被ることは得意だったのだから。

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