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62:決着

一気に3話更新、こちらは2話目です。

「多重発動数も誤魔化してたの」

「あまり多いとアルクなら私が別属性をやれないのではなく、やらないんじゃないかと勘付くでしょ」

「買い被りすぎだよ」

「本当に?」

「まあ…違和感は凄いかな…」


 多重発動は同じ属性ならば慣れれば出来る。フレアのそれは中級魔法、初級しか使えない俺には経験できないが初級から中級に変わると難易度は跳ね上がるとサラは言っていた。両手でペンを持ち、同じ図形を綺麗に書く時、中級魔法はそのペンが両手持ちするような重いペンを使っているような感覚らしい。


 つまり中級魔法を同じ属性とはいえ5個の多重発動が出来ている時点で天才だ、10個出来るのはBランク冒険者でも多くないだろう。そんなことが出来る人間が、中級とはいえたった2属性の多重発動が出来ない、となると違和感を抱く。


「警戒される時点で見せるだけ逆効果じゃない。現にあなた、脚を怪我した上でこの数を捌いているし」

「防戦一方だけどね」


 話をしながらも、飛んで来ていた2種の槍を俺は盾で散らし、弾き、ステップを踏んで躱していく。足の痛みによって走るタイミングは選ばないとならないが、走らずとも槍の隙間を縫って動くことはできる。リリィちゃんのダンス体験会、大盛況だったあの会場ではダンス素人たちの無軌道な動きを避けながら踊り続けないといけなかったのだ、真っ直ぐ飛んでくるだけ優しいと言えるだろう。


「それで、いつまで守り続けるつもり?」

「ちなみに魔力はいつ切れそう?」

「んー、あと5時間ぐらい?」

「魔力量もおかしいだろ…」


 中級魔法をこれだけバンバン打っていて魔力が切れるころには夕飯時とか何を言っているんだ。俺も時折ストーンバレットを飛ばしてけん制しているが、当たり前のように剣で切り捨てられて終わり。出来る隙も一瞬。


 けれど、一瞬、一瞬とは言え確実に連撃に綻びは生まれていた。フレアの意識配分、動きの癖、思考の癖、魔法制御の癖、一つ一つはただ切り捨てられたストーンバレットであっても、それらがもたらしてくれた情報は多い。つまり、俺が走るべきタイミングは槍を再発動する間隙、フレアが左手側から飛んできたストーンバレットに意識を向けた…今!!


「っ!」

「流石に天才にも限界はあるよね!」


 フレアは右よりも左からの攻撃に対し、察知、迎撃までがわずかに遅れていた。これは利き手、利き目、無意識下の意識配分によるもの、どんな人間にも存在する。これを是正するには経験と、無意識を意識する技術が必要だ。


 そして火魔法の方が得意、いや、フレアの気質的には好きなんだろう。そちらの方が発生速度、精度の点で石槍よりも優れていた。だからフレアが咄嗟に魔法を出すならば火槍。石槍と違い固体ではないから弾くことが出来ず、けれど質量がないから盾で散らされるとこちらの勢いを止めることもできない。


 シールドチャージ、盾を構えたまま相手に向けて突進する技。石槍が飛んできていたらその質量で突進を止められていたが、火槍ではこの突進を止めることはできない。


「また踊ろうか、今度はどちらかが倒れるまで」

「喜んで、ミスター」


 一度目の剣戟の再現、双剣で攻める俺、剣と魔法で捌くフレア。けれど再現というのは反復ではない、全く同じ光景が繰り返されるわけではない。火槍が、石槍が、近距離になったことによって数は減らせど俺に襲い掛かり、フレアの剣戟は少しづつ綻びを見せている。


「アルク、あなた何をしたの…?剣が速くなってるわ」

「フレアにもやっと気づけるぐらいの影響出てきたんだね。俺が速くなってるんじゃないよ、()()()()()()()()()()()()


 恐らくこの会場で今のフレアの異常に気付いているのは仕掛け人である俺、仕掛けられてるフレア、最もフレアのことを知っているレイン公爵の3人ぐらいだろう。


 今、傍目に見ればフレアはこれだけ戦ったにもかかわらず汗一つかいておらず、汗を流す俺の攻め手を涼しく捌いてきたように見えるはずだ。しかし、これだけ剣戟を交わして、かなりの熱を放つ火魔法をあれだけ放っていた人間が、汗もかかないほど涼しくしている?あり得ないだろう。


「今はアドレナリンが出てるから気付いてないだろうけど、これが終わったらしっかり体を冷やしてね」

「本当に何をしたの…?」


 今フレアの身を襲っている異常、それは魔法によるものではない。魔法によって引き起こされた気象現象、その影響で発症する疾患、熱中症である。


 俺は試合が始まってから常に、火魔法で空気を温め、水魔法で湿度を高くし、作り上げた高温多湿の空気を風魔法を用いて常にフレアの周囲に配置した。特に風魔法は繊細な操作を要求されたために魔法の発動数はかなり制限されたが。


 熱中症の発症条件、それは体温の上昇と調整機能のバランスの崩壊、気温が高いほど体温は上がり、湿度が高いほど発汗による体温調整が機能しなくなる。


 魔法現象は魔力障壁を貫通しないが、魔法によって発生した物理現象は魔力障壁を貫通する。これは土魔法が初級であっても効力を発揮する基本知識だ。そのためこの世界の人々は土は魔力障壁を貫通できるが、その他の属性は貫通できないという常識を持つ。


 しかし魔法で温めた空気、魔法で湿度を高めた空気は既に物理現象と化しており、魔力障壁の影響を受けない。そしてその空気を移動させる風魔法はフレアに触れず、周囲の空気を運び、留めているだけなので魔力障壁に触れることがない。


「悪いけど剣術で負けたのはかなり悔しかったからね、決闘は勝たせてもらうよ」

「そう簡単に勝たせると思う…?」

「ここまで持ってくるだけでも簡単じゃなかったよ。けど、勝つ」


 剣戟をしながら、徐々に、徐々に飛んでくる槍の頻度が落ちていく。徐々に、徐々に石盾の生成が遅くなり剣がフレアに近づいていく。徐々に、徐々に俺の剣が、フレアの剣に打ち勝っていく。


「そろそろ終わりにしようか!」

「舐め…んな…!」


 勝負を決めようと、大振りに振られる俺の剣、その剣を迎え撃とうと振り上げられるフレアの剣。二つの剣が交錯するその瞬間、俺の手から剣は消え、行き場を失ったフレアの剣は大きく振りぬかれる。何も持たない素振りとなった俺の左手は、右手に出現していた短刀を共に握りしめ、石盾を貫いて、その脇腹へと深く短刀を突き立てた。


「ぐっ!」

「俺の勝ちだ」

「はー、女の子に刃物を突き刺すとかあり得ない」

「俺だって決闘じゃなきゃやりたくないよこんなこと」


 突き刺した短刀でフレアの脇腹を切り裂いて、致命傷を検知した決闘場の結界は即座に治療魔法を起動する。その光に包まれながら、熱中症にかかり、血を失ったことによって気を失ったフレアを抱き止め、即座に水魔法でその体を冷やしていく。


「そこまで!勝者、アルク・スティング!」

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