61:布石
書きたかったシーン書き上げたぞ!ってことで一気に3話投げます。1話目です。
開始と同時、中級魔法のフレイムランスが5個、フレアの頭上に展開され、俺に向けて射出される。火には固体ではない、そのため双剣で弾くなどの対処はできない。俺はこの初撃を防ぐことは考えず、強化した脚力で、前へ、斜めへ、体をひねり、掠る程度は許容し、フレアへの距離を詰める。
次いで射出されたのは同数のストーンランス、魔法でできた巨大な石の槍。実体のある攻撃ならば、強化した腕力で流し、弾きながら、最短距離を駆け抜ける。
右の剣が5本目の槍を弾くと同時、振りぬく体勢にした左の剣。都合10本の槍を潜り抜け、遂にフレアを射程に入れる。
「そろそろこっちにも殴らせろ!」
「貴族令嬢としてそう簡単に殴られるわけにはいかないわね」
振りぬかれた俺の剣と、それを受け止めるフレアの剣。片手で握られ、しかし強化魔法によって膂力を増している一振りは、両手で握られるフレアの剣と拮抗する。
「この魔法連射のどこが令嬢だよ!」
「あら、財を惜しみなく使うのは貴族らしいじゃない?」
右の剣による突き刺しを、フレアは石の盾を生成して防ぎ、横から石槍を飛ばしてくる。近距離で放たれる致命傷を避けながら、双剣による連撃は止めず、しかしフレアは剣と石盾で的確に防いでいく。
「剣戟だけで魔法は使わないの?」
「もう使ってるよ!フレアもそれは分かってるだろ!」
そう、俺は既に魔法を発動している。筋力のための強化魔法、地面から土の槍を突出させる中級魔法アースニードルを察知、妨害するための土魔法、そしてフレアが気付いていないあと3つ
筋力が無ければ片手では両手で持つ剣と打ち合えない、足元に魔力を流しておかなければ地面から放たれるアースニードルの察知が遅れ致命傷を負う。実際に先ほどからフレアの魔力が足元に来ており、俺に察知、妨害されることでフレアがアースニードルを諦めている状況だ。
双剣で連撃をするためには石槍の回避を最小限にしなくてはならない、その分軽傷は増え、けれど連撃は通らない。このままではこちらが消耗する一方のためストーンバレットでけん制しながら一度距離を取り、強化魔法を一度切って、治療魔法で傷を治す。
「ダンスはお終い?」
「片手でお嬢様のお相手を務めるのは荷が重くてね」
双剣を槍に変え、再び発動した強化魔法の膂力を持って全力の突きを放つ、フレアが即座に発動した石盾を貫き、しかし勢いが落ちた突きを奥で構えた剣が受け止める。即座に槍を引き、再度突く、繰り返された光景に、けれど2度目はないと即座に反撃の炎槍が放たれる。
取り回しにくい槍は弓に変え、炎槍を回避しながら土魔法で作った矢を放つ、俺が弓を構えたことを確認したフレアは即座に距離を詰めようと、矢を石盾で防ぎながらこちらへ突撃してくる。石の矢とストーンバレットを組み合わせ、無数に連射する。しかしストーンバレットは所詮石礫、当たり所がよほどよくなければ決定打には成りえない。矢は防がれ、切り伏せられ、ストーンバレットのダメージはある程度許容される。
フレアの間合いに入る前に弓を手甲に変え、フレアの剣を格闘術で迎撃、振り下ろされた剣を掴み、片方は拳を握りしめ、ボディブローを狙う。しかしフレアは即座に剣から手を放し、後方に飛び退くことで拳のリーチから外れてしまう。
「全く、手癖が悪くて女性を殴るだなんてとんだ暴漢ね」
そう言いながらフレアは俺が持っていた剣を魔具に戻し、再度手元で剣を出現させる。
「そう言いながらめちゃくちゃ笑顔じゃん、お嬢様なのにに暴漢に襲われて喜ぶとか変態かな?」
「あなたみたいな強い暴漢を叩きのめせるってすごく楽しいと思わない?」
「どの道変態じゃないか…」
当たり前のように会話しながら炎槍を飛ばしてきて、落ち着いて喋らせてすらくれない。俺の遠距離魔法はほぼ無意味なのに…。
手甲を刀に、再度距離を詰める。刀は剣と比べ強度が低い、そのため石槍を弾くという選択をとれない、そして石槍は炎槍と比べ当たってしまった時の被害が大きい。石槍は確実に、炎槍は最小限に躱し、最初より時間をかけて距離を詰め、刀を一気に振り下ろす。
カウンターの切り上げ狙いで構えられた剣、刀を防ぐため空中に生成された石盾。刀は盾を易々と切り裂き、カウンターのために切り上げられた剣はそのまま柄を盾とする。
成立しなかった剣のカウンター、しかし役割を引き継いだ炎槍が俺に放たれ、再度回避をしながらの剣戟が始まる。炎槍は石槍と比べ効果範囲が広く、躱しても熱が俺の皮膚を焼き、石槍よりも確実に俺にダメージを蓄積してく。
しかしフレアの魔法戦闘はまだ俺ほど自在ではないだろう。時間も経ち、剣戟が僅かばかり鈍ってきた。そしてフレアは今まで一度も火魔法と土魔法を同時に使ってきていない。石槍を放っていた時は地面に通した魔力からアースニードルを放とうとしている気配は感じていたが、今は何も感じない。
魔法戦闘と多重発動、どちらも単独で高等技術だ。そして別属性による多重発動、これはさらに一段階難しい。フレアが魔法戦闘に手を付けた期間が2年弱、2年弱の訓練で中級魔法の魔法戦闘をこなしている。別属性中級魔法の多重発動を用いた魔法戦闘、俺の多属性による多重発動なんかより難しいはずだ。フレアの剣の才能は規格外だった、だが魔法の才能は天才という規格に収まっていると考えれば。
つまり炎槍を放っている今ならば、即座にアースニードルは放てない。フレアの後方に浮かぶ、炎槍の残弾が消えてからまた足元の土魔法を発動させればいい。刀の連撃、そのギアを1段階上げるため、地面にかけ続けていた土魔法を打ち切り、その分の意識を剣戟に移す。
瞬間、足元が死に覆われる。理由は分からない、分かる必要もない、ただその感覚に任せ、脚甲も出さずに足裏を爆発させて後ろに飛びのく。
先ほどまで自分がいた場所はアースニードルによって串刺しにされていた。
「なんで気付けたのかしら。うまく隠せてたと思うんだけど」
「上手く隠せてたよ、そうじゃなきゃ俺の足は今こうなってないから」
自分で起こした爆発で焼け爛れた脚、骨はヒビが入っているだろう。ダメな方向に曲がっていないだけ骨は初級魔法で対応できるラインだ。
いくら初級魔法でも、保護していない足裏を爆破させたのだ。自分で発動した魔法に魔力の障壁は意味を成さない。無防備な肉体ではいくら初級の爆発でも中度の火傷ぐらいは負う。
足元の土魔法を再度展開、強化魔法は切り治療魔法で可能な限り足を治す。ヒビは治り、火傷もマシにはなるが痛みは残る。強化魔法を用いた疾走に致命的な痛みではないが、回避中に致命的な隙を作りかねない。
「中級の別属性多重発動で魔法戦闘ができるようになってるとか聞いてないんだけど?」
「言ってないもの、出来るようになったのもこっちに来る直前だし。それよりどうして気付いたのよ。ちゃんとフレイムランスを出してる間は土魔法も気付かれないようにしてたのに」
こちらが足元に魔力を通していれば、アースニードルを放つための魔力を通されればわかるし、数秒発動を阻害することもできる。つまりフレアは最初の剣戟で俺が魔力をどこまで足元に広げているか調べ、先ほどの剣戟ではギリギリバレない位置で土魔力を待機。俺が剣戟のギアを上げた瞬間に足元の魔力を切ったと判断して奥の手を切ってきた。
「勘」
「人が苦労して張った罠をそんな曖昧なもので躱さないでくれない?」
「勘は曖昧なものじゃないから」
俺が2年間鍛えてきた勘、死への嗅覚。それが理屈を抜きにして、脚を犠牲にした後退という行動を俺に取らせた。
「でもこれでもう隠し事をしないでいいのよね」
そういうとフレアは再度炎槍を、石槍を展開する。今までは炎槍5発、石槍5発が交互に展開、射出されていたが目の前に展開されているのは炎槍5発、石槍5発の計10発。
同時に、性質の違う2種の槍が、数を倍にして俺を狙っていた。




