60:決闘
Cランク冒険者の強さは野球で言えば大学、社会人野球ぐらいだと思ってください。Dが草野球、Bはプロ野球、Aはメジャーリーグ、Sはメジャー殿堂入り。当然同じランクでもピンキリなのでアルクくんは12歳で社会人野球のトッププロスペクトになってると思ってもらえれば。
「なあ、アルク、お前やっぱ妹に求婚したせいで嫌われてねえか?」
「あれはそんなんじゃないよ。ただ本当に戦いたいだけだ…」
「フレア様は…その…活動的な方なんですね!」
「メイ、現実を見て、あいつはただの戦闘狂だよ」
突如行うことになってしまったフレアとの決闘、全力の俺と戦いたいと言われても、模擬戦の時と違って俺の魔法や他の魔具が解禁されたとして、それフレアの魔法も解禁だよね?火と土って殺傷力が高い属性2つなんだけど…。もしかしてシークの言う通り本当に俺を消しにきた…?
ベルデ学園に設営されている決闘場、致命傷や四肢欠損が発生した場合、即座に結界の治療魔法が発動しそれらを回復してくれる。ただし、その回復魔法が発生した段階で回復された側の敗北となる。まあそれは結界が無ければもう戦闘不能だったのだから当たり前のルールだろう。
ただしそんな結界も万能ではない、どんな致命傷も、どれだけ五体を切り刻まれようとも、生きてさえいれば完全に治してくれる。そう、生きてさえいれば…。つまり即死にだけは効果がない、しかもフレアの魔法は火と土、殺傷力の2トップ。入獄を回避したと思ったら今度は入棺の危機だ。
「アルクくん、入学おめでとう。大変なことになりましたね」
「ケイン本部長、わざわざありがとうございます。あのお嬢様やりやがりました」
式典終了後、決闘場の待機室でシーク達と準備が整うまで待っていたらケイン本部長がわざわざ挨拶に来てくれた。学園と冒険者ギルドの関係を考えれば参列しているのも何も不思議はない。
「私は君たちの強さを人伝にしか知りませんが、Cランク冒険者になった君でも苦戦する子なのですか?」
「実技試験の剣術では俺の負けでしたね。他の武具、魔法が使えたらどうなるか分からないですけど、むしろお互いに魔法有りになると有利になるのはフレアなので…」
魔法有りルールで有利になるのはフレアだ。中級魔法が使えるフレアは俺に遠距離からでも決定力を持ち、俺の初級魔法は決定力を持たないどころか、魔力量の高いフレアにはその魔力で弾かれる。魔力量による魔力障壁を無視できる土魔法しか攻撃として機能せず、闇の毒魔法も魔力の高い相手には意味がない。その土魔法も結局初級だからけん制、搦め手にしか使えないわけで。
「それは戦いになるのですか…?」
「まあその方法を考えるのが俺のスタイルなので」
剣術のみという条件よりも、魔法有りの方が条件として有利になるのは間違いなくフレアだ。けれどこの条件になると俺にできることは一気に広がる。剣で勝てない、ならば槍で、弓で、大槌で、魔法を絡めてと戦い方を変えていくのが俺の戦い。つまり魔法有りの時、俺の方がより強くなる。
「失礼します。ケイン本部長、陛下が貴殿をお呼びです」
「陛下が?わかりました。アルクくん、申し訳ないけれど失礼しますね」
「いえ、ああ、もしレイン公爵が一緒にいたら伝言をお願いできますか?」
「なにかお伝えすることが?」
「はい。責任取ってちゃんと後でフレアをしかってください、親バカ公爵。とお伝えください」
「ふふっ!いいでしょう、いらっしゃったら伝えておきます」
ベルデ王が呼んだなら軍務卿であるあの人はきっと同じ部屋にいるだろう。こちとら一回あの人直々に呪詛も送られているのだ、このぐらいの恨み言は受け止めてもらう。
「アルク様、どうなるか分からないって言ってましたけど、あの速く動く魔法を使ってもダメなんですか?」
「そうじゃん、アルクあれ使えば勝てるんじゃねえの?」
「いやー、フレア相手には使えないかなあれは…」
あの高速移動は足裏で爆発を起こし、衝撃を風魔法で全て推進力に変換することで成立する移動、つまり俺の魔具を脚甲にしておかないと衝撃で足が吹き飛ぶ自爆技になる。魔法が使える剣士相手に手持ち武器無しの状態は作りたくない。
しかもフレアの剣術の腕ならあの速度で動いても見切って対応されるだろうし、急に方向を変えることができない移動で道中に中級魔法を設置されたら間抜けな事故車の誕生だ。
「それは確かに使えないですね…」
「中級魔法に自分から突っこんでいくとか考えたくねえな…」
「でしょ?あれ結構ピーキーなんだよね」
やれることは増えるがその中にはやってはいけないこともある。取れる選択肢、取ってはいけない選択肢、戦闘開始前にある程度の基準は作っておかなければならない。
「アルクさん、決闘場の準備が整いました。アルクさんは大丈夫ですか?」
「ニコラ教授、ありがとうございます。俺は大丈夫です」
「でしたら入場口のほうへお連れします、今回はなんというか…お疲れ様です…、なんとか無事で終えられるように祈っています」
「ありがとうございます…」
ニコラ教授も流石に入学式直後に決闘は初めてだろう、というか学園全体が初めてだろう。
「では運営陣に伝えてくるので呼ばれたら場内にお願いします」
「わかりました」
教授に連れられ、到着した入場口。場内を覗くと土のグラウンドが一面壁で囲まれており、その壁からは王都外周のように結界がオーロラのように見えている。あの結界が観客たちを流れ弾から守り、そして戦う者達の命を担保してくれる。
入場口で待つことしばらく、遂に俺の名前が呼ばれ、決闘の場に立つ時が来た。
「来たわね。せっかく王への願いを使ったんだから、私にアルクの本気を見せてよね?」
「本気でいかないと困るの俺でしょ…、へたしたら死ぬじゃん。しかもこんな無茶苦茶して公爵家の評判が落ちるよ?」
「そこは考えがあるから大丈夫よ」
「マジかよ後先考えてたの…」
「でなきゃこんな無茶しないわよ」
「無茶なの理解してて強行するんだもんなぁ…」
フレアが本当にご機嫌である。ご機嫌麗しゅうお嬢様とか思ってられない。
「アルクくん、なんというかその…、家の娘がすまない…」
「レイン公爵、本当にお嬢さんの教育しっかり頼みますよ」
本当にしっかり頼みますよ。本当に。
「互いに魔具を出して、開始位置に」
「「はい」」
フレアは剣を、俺は双剣を出して開始位置へ、決闘場にある開始位置の距離は3種類、俺達はその真ん中、近距離魔具を使う魔法使い用の位置を利用することになる。
「事前に持ち込みの申請がない道具や魔道具の使用、戦闘中の外部からの助力は即時敗北。また結界の回復魔法が発動した時点でも敗北となる。それ以外では私が戦闘続行不能と判断した時点で決着とする。なにか質問はあるか」
「「ありません」」
審判であるレイン公爵からルールの最終確認、これをもって、決闘は正式に成立。ルールの変更を希望することも、決闘を取りやめることももうできない。フレアに仕組まれ、王の要望という形式でもって成立した、なんとも不本意な決闘であろうとも。
けれど
「では、始め!」
俺だって、リベンジの機会を願っていたんだよ!




