56:実技試験
実技試験は魔法と武術、魔法の試験は一つの会場でそれぞれ名前を呼ばれたら伝えられた課題をこなすもの。課題は個人個人、適正などに合わせて定められており、上級魔法が使える生徒なんかは少し離れた広い会場で派手で豪快な魔法を放っている。…いいなぁ。
「アルク・スティング、前へ」
「はい」
「君は全適正で使える魔法は初級魔法のみだね?それぞれの初級魔法を使ってほしい、多重発動はできるか?」
「できますよ」
「では可能な限りの属性数を、発動数は上限を6として発動してほしい。それ以上の数を発動しても評価上限だから加点はできない」
「わかりました」
課題を出された俺は全ての属性の初級魔法を発動する、4属性の攻撃魔法を的に、光と闇はそれぞれ球体を自分のそばに出現させる。
「6属性同時の多重発動…、最大発動数を6にしたのは念のためこういった場合に評価できるようにするためだったが、まさか杞憂が現実になるとは…」
「まあ俺の生命線なんで…」
担当官も、後ろで見ていた学生たちもざわついている。そもそも別属性を同時に発動することが高等技術、2属性の段階でそれを練習できる人間すら限られる、それを全属性で行ったのだ。この光景を見るなんて俺と関わりがなければ無理だろう。
「しかしここまで魔法を使いこなせるなら中級だけでも使えていれば…」
「使えたらここまで出来たかもわからないですよ、中級を練習できなかったからここまで訓練できたわけなので」
「確かに威力が上がれば制御も難しくなるしな。アルク・スティング、評価点は君にだせる上限を確実につけておこう」
「ありがとうございます、失礼します」
とりあえず評価上限はもらえた、そう、俺に出せる上限だ。発動速度や多重発動、魔力操作の技術など様々な項目を総合的に評価する加点方式、つまり初級しか使えない俺は魔法威力という項目において最低評価しか取ることができない。
俺のグループの魔法試験も終了し、今度は武術試験。俺達が魔法試験をやってる間に騎士科は武術試験を終えており、会場に行けば疲れて座っている学生もいる。それぞれ魔具に合わせて会場が分かれ、最初に担当官と、その後同級生との模擬戦となる。
「で、やっぱり俺らで模擬戦になるわけか」
「当然でしょ、私達と打ち合える同級生なんていないわよ」
当たり前のことのようにフレアは告げるがこれはフレアが傲慢だったり、慢心から来ている発言ではない。ただ当たり前の事実として自分の目で見て以前の同級生たちを知っていたからこそ剣士として正しく実力を把握しての発言だ。だがしかし
「それでも俺は俺と打ち合えると確信してるフレアの才能が怖いよ」
「むっ、ちゃんと努力してるんだけど?」
「ゴブリンに囲まれてボコボコにされたり、ダンジョンで死にそうな目にあうような?」
「それを言われたら確かに私の強さは才能ね、言い返せないわ」
確かにフレアはしっかりと努力している、担当官との打ち合い、剣筋、姿勢、運動用の薄着だからこそはっきりわかる鍛えられ引き締まった体。ただ教えられるだけではなく、自ら強くなろうという意思をもって真剣に訓練しなければそうはならない。
俺はあらゆる技術を習得するために剣術に使えてる時間はフレアよりも少ないだろう。だが、だがしかしだ、フレアよりも圧倒的に死に直結する訓練を行っている、実戦で磨き上げているし、剣以外での実戦経験も豊富だ。それと彼女は打ち合えると確信しているのだ。男女の筋力差というハンデがあるにも関わらず。
正直、シーク達には今回のような条件なら俺に勝てる人もいるだろうとは言ったが、それは一流の才能を、その才能に集中させる形で時間を使った場合。フレアの場合は令嬢としてしなければならないこと、学ばなければならないことがある中でそのレベルにいるかもしれない。それは才能が超一流でなければ成しえない。
「両名、準備はいいか?」
「「大丈夫です」」
お互い開始位置につき、剣を構えると担当官から確認が入る。魔法なし、純粋な剣技のみで合図と同時に行う模擬戦。実戦とは違う、けれどだからこそ純粋な剣技が必要とされる模擬戦。
「では、始め!」
開始の合図と同時に、俺は打ち込みにいく。俺にあるアドバンテージ、男女の筋力差を活かすには筋力勝負に持ち込むこと、受ける側ではなく、受けさせる側に立つことで鍔迫り合いや腕への衝撃のダメージを狙う。
「あら、初手から情熱的ね」
その打ち込みを、なんでもないことのようにフレアは受け流す。俺から受けた力を完璧に逃がし、まるで俺がフレアの体をすり抜けたかのように、一切の手応えを感じることなく彼女の後方に体を流され、完璧に後ろを取られる形となる。
「期待外れ?」
「んなわけないだろ」
フレアから振り下ろされた刃を一切の視線を向けずに受け止める。あまりにも流麗に行われたカウンターは振り返っていては防げない、躱すために前に進んでも後ろを取られている不利は変らない。だが、後ろから切り付けられたぐらい、防げなければ俺の2年は乗り越えられない。
カウンターを防がれたフレアは俺が振り返った瞬間には後方へと飛び、間合いの外へと抜け出していた。
「やっぱ鍛えた男の子は違うわね」
「あの体勢有利を一瞬で捨てた判断は流石だよ」
俺は防いだ剣をそのまま、体を振り返らせながら、その力も使ってフレアの剣を弾こうとした。当初の目論見とは違うが受けることによって発生した筋力勝負の機会、体勢有利を手放すまいと対抗してきたらそのまま筋力勝負に持ち込める。だがフレアはしっかりとそれを拒否してきた、有利を投げ捨てることで、俺との力比べを回避したのだ。
「ていうかなんで初見であんな完璧に受け流しできるかなあ…、剣筋を見切られる前に決めたかったんだけど」
「父様の剣と比べたらアルクぐらいの剣、初見でも対応できるわよ」
「うわぁ、それは勝てないわ」
俺も軽口で応えるがそれは全く持って当たり前ではない、フレアが言っていることは、父親の方が剣が速いからそれより遅い俺の剣を完璧に受け流すのなんて当たり前だということ。
受け流し、これは剣を合わせるタイミング、角度、力加減を一切間違えずにやり切らなければあそこまで完璧に行うことはできない。それを彼女は速いものに慣れているのだから遅いもので出来るのは当たり前だという。
そんなわけはない、人は速度差という緩急に即座に対応できるようにはできていない。速い物に慣れてれば遅い物はより遅く感じ、正しいタイミングを掴むことなんて出来ない。
だが彼女はそれが自分が出来ることを当たり前だと思っている。剣戟という一瞬のやり取りをする近距離戦の中で、たった一瞬の交錯するまでの間に。
「次は私の番ね」
瞬間、彼女の体が目前から消える。完全な静止状態から一気にトップスピードに入ることで俺の視界から抜け出したのだ、だがそれはガーランドとの訓練で何度も受けたし、フレアはまだ自分の気配を消すことまでは出来ていない。つまり彼女が視線から抜けた先は
「下!!」
「ちゃんと対応するのね」
「俺の師匠はもっと速くて静かだからね」
「それは勝てないわね」
攻めた側と防がれた側、先ほどとは逆になった立場で言葉を交わす。フレアは女性としての利点である関節の可動域を活かして深く、深く沈み込みながらトップスピードで俺の足下まで踏み込んできた。正直この技を知らなければまともに食らっていただろうし、気配が読めなければもう少し対処に苦労しただろう。
「それで、俺の剣術は合格?」
「むしろ私の方こそ聞きたいわよ、私の剣術は合格かしら?」
2人抱いていた一抹の不安、本当に自分たちは対等に打ち合えるのか。俺もフレアも互いに相手の強さを情報として知っていて、自分の強さを事実として知っていたからこその不安。
俺(私)の方が弱すぎたらどうしよう、俺(私)の方が強すぎたらどうしよう。
同じ気持ちだったことを知り、とんだ杞憂におかしくなった俺達は、一つの答えを告げると同時、お互いに勝利しようと飛びだしていく!
「「合格に決まってる!」」
楽しい時間、初めて自分の全力を出せる、同い年の相手。魔法という特別な才能のいらない、ただ互いに学び、磨き上げてきた技をぶつけ合う言葉のない相互理解は、これから共に学ぶ者達を魅了しながら、けれど最後には勝者と敗者に2人を分かつ。
「そこまで!勝者、フレア・レイン!」




