55:入学時試験
今日から俺達が通うベルデ学園、さまざまな学科がありリースは従者科、王城や上位貴族に仕える従者を目指す人が入る学科に所属し、他には騎士科、魔法科、医学科などがあり学科に所属したうえで各々専攻を選ぶ日本の大学のようなシステムだ。入学における年齢制限12歳以上であれば上限はなく、学費を払えるならば身分に関係なく入学することができる。
そして魔法使いだけは12歳という最低年齢の段階で学費無料で入学することになる、これは魔法という正しい知識を必要とされる力を、ある程度の思考能力が付いた段階で早めに身に着けさせるためでもある。
そんな俺達入学生はみんな制服を着て、いくつかの教室に分かれて座学試験を受けている。この座学試験は魔法使いでない入学生たちも受験し、現時点での学力や貴族の社交、平民の生活、商談など様々なシーンでの常識を問われる言わばどれだけ世の中のことを解っていますか?というテスト。
入学時試験は別にこれが悪いと入学できません、とかいうものではなく単にそれぞれの生徒が共通科目でどの講義を受講させるか、クラス分けはどうするかを判定するために行われている。俺は貴族の社交以外はある程度はわかる、学力、商談は前世の知識が活かせたし、平民の生活については冒険者活動をしていた間に慣れている。しかし貴族の社交、これに関してはリリィちゃんに仕込まれたものの経験が少ないため自信がない。
…貴族なのにそこが一番自信がないってどうなんだ…?
そして午前に座学が終われば食事休憩を過ごした後は魔法使いと騎士科の生徒は実技試験。魔法や武術といった実践的な実力を計られる。
「アルクさん、少しいいでしょうか」
「ニコラ教授?なんでしょうか」
リースと食事をしていた俺に話しかけてきた眼鏡をかけた知的で落ち着いた男性はニコラ教授、先ほど俺の座学試験を監督していた教授だ。
「いえ、次の実技試験、武術の項目なのですがアルクさんはどちらに参加させればよいかと問題になりまして…」
「あぁ…、そういうことですか…」
武術の試験、魔法使いは魔具を用いて行われる。魔法使いの魔法適正や魔具などの情報は本洗礼の段階で王城に送られ、その情報から学園は事前にそれぞれの魔具に対応できる武術担当官を準備する。
しかし俺の魔具はあまりにも特殊、事前に準備しようにも準備のしようがない、だからといって全部の試験を受けさせるのも不公平。仕方ないので準備されている担当官の中から最も得意な武術を俺に選んで受験してもらおうとのことだった。
「んー、どうしましょうかね」
担当官が用意されている武術のリストを眺めながら悩む、騎士科も受けるので双剣のような魔具であればあまりみない武術も項目にある。格闘術もあるし、結構よりどりみどりだ。使用頻度が高いのは手数と殺傷力を両立できる双剣だが、強敵と戦うときは刀や大槌なんかも使うので最も得意なものと言われても困ると言うか。
「ニコラ教授、少々よろしいでしょうか?」
「フレアさん?なにかありましたか?」
「フレア?」
リストを見ていた俺達に話しかけてきたのは赤く長い髪、燃えるに強い意志を感じる赤い瞳、初めて会った時より身長も伸び、外行きモードのため完璧な公爵令嬢にしか見えないフレア・レインその人だった。
「アルク、久しぶりね。うわー、流石に身長も伸びてるしかなり鍛えられたわね」
「久しぶりフレア、話しているところに入ってくるなんてなにか用?」
そう、会話中の中に入っていくのは基本的には失礼に値する。俺とフレアが2年前に仲良くしており、プリムとの文通を通してお互いに軽く交流を交わしていたとしても、大問題ではないが完璧な公爵令嬢として振舞っている外行なフレアらしくはない。
「実は試験のことでね、アルクには実技を剣で受験してほしいのよ」
「え、これのこと?俺は構わないけど…?」
「私としては不正を目的としないのであれば構いませんが、フレア嬢、理由をお聞きしても?」
「はい、ニコラ教授。武術試験では担当官の方と簡単に打ち合った後、同世代の受験者と模擬戦を行うという試験内容になっていますよね?」
「そうですね、模擬戦の相手は担当官の判定を基準として同年代、同程度の実力者同士で行うことになります」
ここまでは事前に説明されている試験内容だ、そして騎士科を受験するのは体が出来てきた15歳以上、成人済みの人間が多い、必然的に俺達魔法使いの受験生は魔法使い同士で模擬戦をすることになる。
「正直に申しまして、私は公爵令嬢として同級生の剣を使う貴族たちはその実力も合わせて知る機会に恵まれています。その上で言わせて貰いますと、私と対等に打ち合える人間はアルク・スティングしかいないでしょう」
「なるほど、そういった事情ですか」
俺がCランク冒険者となっていることも、フレアの剣の才能と実力も、当然学園は情報として知っている。これは学園がそこまで新入生の情報を集めてるとかでなく、単に情報として知られてしまうほど、12歳でCランクというのは異常だし、フレアの剣の才能も貴族社会に轟いていたというだけだ。
「そういった事情でしたら私からもアルクさんには剣での受験をお願いしたいと思いますがよろしいでしょうか」
「大丈夫ですよ、俺は武術に得意不得意は特にないんで」
「では剣で登録しておきますね、ありがとうございました」
ニコラ教授はリストを回収し去っていく。俺的には本当になんでも構わなかったので特に困ることもない。
「改めて久しぶりねアルク、といってもプリムの文通に合わせて簡単な交流はしてたからそこまで久しぶり感もないけど」
「初めてフレアとコルンちゃんの書いた手紙も一緒に入ってたときはびっくりしたよ」
「コルンが自分も文通したい!って言いだしてね、私も魔物とかダンジョンでのことを聞きたかったしついでにね」
そう、俺とプリムの文通は途中から3姉妹全員との文通になっていた。フレアに聞かれたのは魔物やダンジョンの情報だったので文通というより偵察の報告のようなものだし、一度だけレイン公爵からの呪詛が入っていたこともあるが。
「でも俺とニコラ教授の話してる内容なんてよくわかったね?」
「アルクの魔具のことを考えたらそういった展開になるのは予想できるし、別に内緒話でもない会話なんてある程度の距離にいれば普通に聞き取れるわよ。社交界にでるならそれぐらいはできないとね」
「これだけ騒がしいのに…?」
そう、俺達が食事しているのは学生食堂、学生達が食事し、談笑し、賑わう空間。俺は話しかけられるまでフレアに気付いていなかった、つまり人混みに遮られていたか、近くにいなかったということ、その距離から賑やかな空間で俺達の会話内容を聞き分けたということだ。
「騒がしくてもこの中にいた教授はニコラ教授だけ、教授に意識を向けていればその先にあなたがいるんだから難しくないわ」
「なるほどね…」
学生たちは制服を着用している、それはつまり制服じゃない人間は教授や職員でほぼ確定だ、ほぼなのは不審者の可能性がわずかに存在するから。
「ところで制服で現れた美少女令嬢に紳士としてなにか言うことはないの?」
「否定はしないけど自分で言うんだ、よく似合ってると思うけど俺に言われて嬉しい?」
「そんなわけないでしょ。来年にはプリムも入学してくるのに、その時ちゃんと褒めることが出来ないようじゃ姉として許せないじゃない」
つまり私で練習しておけということだ。妹の恋路を応援するお姉ちゃんとしての気持ちが半分、そして恐らく俺をからかうネタが欲しい学友としての気持ちが半分というところだろう。
「ちなみにその内容で俺を揶揄おうという気持ちは?」
「合格点なら揶揄わないわよ、不合格なら揶揄うけど」
なんて極悪な試験だよ、合格でもメリットはなく、不合格なら辱しめられる。俺にメリットがなにもない。
「えぇ…、でも本当に似合ってると思うよ。制服に着られてるような印象もないし、しっかりとフレアを引き立たせる服として着こなせてるね」
「そう?貴族らしくはないけど、私向けな褒め方だから及第点としてあげましょうか」
「それは光栄の至り」
「じゃあ私はいくから、模擬戦で手を抜いたりしないでよね」
「するわけないでしょ、フレアがそんなこと望むわけないのに」
用件を済ませたフレアは満足そうに俺の前を去っていく、試験だし、いくら相手が公爵令嬢だからって手を抜くわけがない。俺は文通をしていたからわかっている。
「だってフレアかなりの戦闘狂じゃん…」




