54:王都観光
リースと久しぶりに2人きりでの散策、しかも目的は観光となれば当然レイアでのことを思い出す。となれば最初にやるべきは決まっている。
「じゃあリース、服を買いにいこうか」
「服ですか?王都の流行などが気になるのでしょうか?」
「まあそれもあるね」
そう、それもある、だがそれは王都のトレンドに合わせてリースをコーディネートしたらどうなるか、という意味である。
服を選び始めて早々にリースも俺の意図に気付く、レイアの時は水辺に合わせた白のワンピース。リースの綺麗な黒髪を引き立てるために対比させたコーディネート。今回は別コンセプトとしてリースの黒髪と調和させる方向で服を見繕っていく。
グレーのトップスに黒のスカートを合わせた濃淡コーデや、紺のワンピースで大人コーデなど色々試していく。リースももう20歳、前世ならまだしもこの世界なら成人して5年、新社会人などじゃなく一人前の大人として見られる年齢だ。まあ、明日から学生なんだけど。
「んー、やっぱりリースはなんでも似合うから困るね、店員さんはどう思います?」
「そうですね…、お嬢様でしたら黒髪に美しい艶がありますし、あえてトップスからボトムスまで黒で統一して艶髪を引き立てるのもよいかと。オールブラックは重い印象を与えてしまうので服自体を軽めの生地で、少し肌を露出するのもいいかと」
「艶を活かす方向かあ、そうなると確かに服を黒系っで抑えるよりも思い切って黒そのものにした方が映えるね」
「艶が素晴らしいからこそ可能なことですね。髪と服、黒同士で統一感を出しながら光の反射をアクセントにする。女性なら誰もが羨む、けれど出来る人は限られるコーディネートです」
うん、確かに深い黒の服でもしっかりと黒髪は引き立っている。ならば問題はどの程度肌の露出を許容するかだ。トップスは黒のVネックにして鎖骨が見える程度に、スカートは膝下ぐらいのミディアムかなあ。
「背中を少し開けるのもよろしいかと、髪が動いた際にうなじから少し下あたりが見える程度で、開きすぎてしまっては下品に見えますが、程度や魅せ方を間違えなければ上品な色気を出せるかと」
「チラリズムかぁ。流石王都の店員さん、本来なら見えないところを魅せるテクニック、勉強になります」
「お客様もその年でよくここまで服飾への見識をお持ちです。私もとても楽しく対応させていただけますよ」
これでもアルクくんは前世で散々女性をコーディネートしてきたからね。モンスターを捕まえて戦わせる冒険ゲームなのに、やたらと主人公の服が多くて女主人公を着せ替えるためにお金を集めて、色んなコーディネートを試して冒険が進まなかったけど。
「あの…服を着る私の意見は…」
「リースは今でも自分の服には無頓着だからだめ」
「…」
リースは相変わらず機能性重視で服を選ぶ、着られればなんでもいい状態だ。リースが着飾るのもせいぜい俺がプレゼントした髪留めぐらい。せっかく美人なのだからもう少しオシャレに気を使ってほしい。
「じゃあ店員さん、俺達が着てた服は寮の方にお願いします」
「かしこまりました、確かに届けておきますので」
というわけで店員さんの提案を参考にリースの服を決め、ついでに俺の服も王都仕様に着替えた。リースは俺の服ならば真剣に選ぶのでそこでは意見も聞いて、本日の散策スタイルが決定した。
「とりあえず軽食をつまみながら色々回ってみようか」
「かしこまりました」
寮にいる間にだいたいどの区画になにがあるかは聞いてある。寮から学園へも行ってみたし、学園からここまで来たから商店区への道もだいたい覚えた、今日中に知っておきたかったものは確認済なのであとはどんな店があるか見て回りながら王都生活に必要なものを買い足していこう。
「そういえばリースは従者科だけど何か必要なものある?」
「そうですね…、学園から言われたものは準備してありますが、折角ですので家財道具を見繕えたらと」
「確かにそういったものは持って来れてないからね、俺もなにか欲しいものがあるかもしれないし行ってみようか」
世話役として付けられた使用人はベルデ学園の従者科に通うことになる。世話役が学園外にいて主から離れるのも問題だし、魔法が使えないのに魔法を使うような学科に来られても邪魔だし、王城勤めを目指す貴族子女のための従者科があるのだから、そこに通わせればいいか、というやつである。
店で掃除道具やアイロンなど、リースが使うもの、俺も持っておいたほうがいいものだけでなく、芳香剤等あると少し生活をよくできるものを買っていく。流石は王都の店、質もいいし種類も多い、ルームライトとして使う魔道具なんかもインテリアとして楽しめるだけの様々なデザインがある。
魔道具は魔力を補充しなければ動かせない、魔法使いでなければ夜間に灯りが欲しければランプなど火を用いたものを使うしかないからこそ、広まっているのはランプの方だし、ランプがあるのにわざわざ高価な魔道具で灯りを求めたりしない。
そんな需要が少なく、けれど高価なものですらこれだけのデザインを取り揃えているのは流石は王都だ、店員に話を通して、試しに暗い中でどう光るかを闇魔法の中でルームライトを灯したりして気に入ったものを購入し、別の売り場をみていたリースと合流して引き続き様々な店を覗いて、ふらっと気になった喫茶店で休憩する。
「流石王都だね、いい物が多くて沢山買っちゃったよ」
「そうですね、寮に届けていただけるのは助かりますが戻ってからが大変そうです」
リースも気に入るものが多かったのだろうかなり機嫌がいい。服への姿勢に見えるようにデザインを気にせず機能性を気にするリースだ、王都で扱われている商品の質の高さ、細かい要望まで応えられる種類の多さに過去類を見ないほど買い物を楽しめたようだ。
紅茶とケーキを頂きながら、リースと何が気になったか、何を気に入ったかなどの感想や明日以降の互いの予定の確認、打ち合わせなどを行う。自室でやると使用人と主とはいえ、男女で密室に長時間ということであらぬ疑いを持たれてしまうため、密室で2人きりになる状況は最低限にしなければならない。
「明日は入学時試験だけど、俺のほうは午後もあるから昼食を食べたらリースは先に帰ってていいよ。来週いっぱいは俺のことよりも自分の準備とかを優先して」
「ありがとうございます、お言葉に甘えさせていただきます」
世話役としてリースを連れてきてはいるが俺は前世の記憶もあるし、冒険者生活もしていたしで生活能力はかなり高い。というか生活だけを考えたらリースを付ける必要はない。それでも連れてきたのは貴族としての体面とか、何かあった時の連絡とかもあるがリースに学生生活を楽しませたいと思った俺の希望でもある。
しかし明日の入学時試験、実技はまだしも座学はあんまり自信ないなぁ…




