53:王都ベルディン
俺が乗っている馬車の皆は魔物との遭遇戦の一件以降、すっかりと打ち解けていた。道中宿泊する町などでは馬車ではできなかった炎魔法や魔具の質問に答えていた。
平民出身の子なんかは魔具に関してちゃんとした指導を受けられていない子もいる。農村出身の子などは弓なら狩りで使うから指導も受けられるし練習できる、だが槍や剣を使える人はそうそういない。杖ならば魔法の制御補助がメインのためそこは独学でも問題ない。しかし杖術は魔法使い以外で扱う人は少なく、近くに教えてくれる人がいるかは大きな問題だ。
そんな状況で、魔具があらゆる武具の形態を取れるためにあらゆる武術を習得する羽目になった俺がいたらどうなるか。そうですね、あらゆる武具の講師を務める羽目になります。これも快適な学園生活のため…
「杖の武術とかあるんですね、武術といえば私剣とか槍とかそういうものだけだと思ってました」
「自衛や捕縛のための武術だからあまり有名じゃないよね。冒険者でも最低限しか使わない人も多いし」
「そうなんですか?」
「一瞬自衛ができれば魔法で迎撃したり、仲間に助けて貰ったりできるし。軍人とか騎士になるなら真面目にやらないといけないけど」
杖術の訓練を終えてひと区切り、話しかけてきたメイのように魔具が杖でも杖術の存在を知らない子は結構いる。
極めても出来ることは自衛と捕縛、杖術の訓練に時間を割くぐらいならば魔法を極めるほうがいいというのはごく自然な考えだ。そのために杖術は発展しにくく、広まることもない、騎士や警備など、戦闘を職務とする者達のみが修得する武術になっている。
「アルク様はどうして杖術も練習したんですか?」
「武具の才能がどれも並だったからだよ。これを極めればいい!ってものがなかったから全部修得して、必要に合わせて使えるようにね」
「あれだけ強かったのに才能が並ですか…?」
「あれは魔法と魔具とって色々な力を合わせた強さだから。才能があって真面目に訓練した人なら魔法無し武具限定の試合で俺に勝てる人は同年代にもいると思うよ」
まあ才能が並で真面目に訓練した人、レベルなら負ける気はしないけれど。…俺がやった訓練が異常すぎて。
「アルク、言われた通り走ってきたぞ…」
話しているとへとへとになったシーク達が戻ってきた。杖組に杖術を教えてる間に剣組にはランニングをしてきてもらい、戻ってきたら剣術を教える。次は槍組、次はその他組と皆に魔法、武術、その組み合わせを教えながら王都への旅程を過ごしていく。
ただあくまで基礎的なこと、これから学園で学ぶというのに変な先入観がつくのもよくはない。学園の授業にスムーズに入り込めるように基礎だけ知っておこうね、というレベルだ。
そうしてスティング領から南へ2週間、俺達はついに王都ベルディンの前に到着した。
王都はその威光を訪れる者達に見せるため、街を壁で囲んだりはせず、魔道具によって張られた結界がオーロラのように囲んでおり、街並みは白銀に輝き、豪華でありながらも品のある荘厳な建物が並んでいる。そんなオーロラの外側、ぽつんと、しかし見る者に十分な威圧感と存在感を与える重厚な門があり、そこでは王都に来た人々が通門審査を受けるための行列を作っていた。
「これは凄いな…」
「アルクも王都は初めてなのか?」
「社交は兄さんの役割だったからね、俺がやってたのは領民との交流かな」
そう、領民との交流を図り不満などを見逃さないようにしながら領主家に親近感を持ってもらうための活動だったのだ。決して貴族としての仕事をしてないわけではないのだ。
「ダンス交流会とかやってましたよね?友達が参加してアルク様のファンになってましたよ」
「あれは…まあ…皆に楽しんで貰うためのものだったから…」
貴族語を用いてのエスコートは出来ればもうやりたくない。いや学園のカリキュラムにダンスはあるから確実にやるんだけど、あれを何も感じずにできるほど俺の心は貴族に染まっていない。
「あいつが言ってたダンスのやつって、そうか考えたらアルクがやってたんだよな。ってことはあのこっぱずかしいセリフ言ってたのはアルクってことか!!」
「シーク、人をにやにやと見てるけどね、ベルデ学園には平民であってもダンスの講義がある。つまりシークも言うんだよ。そのこっぱずかしい台詞を」
「…嘘だろ?」
「学園の卒業生はどの学科出身であっても貴族と交友を持ちうる。だから卒業後困らないように社交の講義も当然ある」
「俺はアルクがそんな嘘で脅すようなやつだとは思ってなかったぞ」
「だろうね、だって嘘で脅してないもの」
「……」
シークを真実で脅しながら馬車は通門審査で待つ行列の脇を進んでいく。国の用意した馬車、当然王家の紋章も入っており、通常とは別に簡易の審査場が設けられており優先的にそちらで審査を受ける。御者、馬車、俺達を王都で登録されている情報と違いがないか等確認され問題なしとして通門許可を貰い、馬車はベルデ学園寮の区画で停車する。
「じゃあ2人ともこの辺りで今日はお別れかな」
「そうだな、俺達は平民寮だし」
「アルク様のおかげで楽しい道中でした」
「それならよかった、来週から授業が始まったらよろしくね」
ベルデ学園の寮は貴族、使用人、平民で分かれている。貴族寮には家事をする場所がなく、それぞれの部屋が広くて家具も質がいい、使用人寮は貴族の家事を担うためにそれらを行うための部屋が多い、平民寮は1人暮らしに必要なものは一通り揃っている、というようにそれぞれ身分に合わせた特徴がある。
学園では身分は平等と言うものの、まあそれはそれとして将来のこととか育ってきた環境による価値観の違いを考えたら一緒に暮らせないよね?という現実的な対応である。
俺はリースと共にまずは貴族寮の俺の部屋を確認、俺はリースの部屋を知らなくても問題ないが、リースは俺の部屋を知っておかないと問題しかない。使用人が主の部屋を知らないとは何事だとなってしまう。
「ではアルク様、私も荷解きがありますのでそろそろ失礼させていただこうかと」
俺の部屋の間取り、家具の配置を確認、荷解きを共に行った後、リースはそう言って頭を下げる。
「ありがとう、リース。明日は俺のことは気にせずゆっくりして、夕飯だけ一緒に街で食べようか。明後日はレイアの時みたいに一緒に街を見て回ろう」
学生達の長距離移動ということで細かい間隔で町に寄るスローペースな旅路だったとはいえ、2週間の長期間移動、いくら旅慣れてる俺達でも移動し続けで疲れはあるから休ませてあげたいし、3年間の王都生活に付き合ってくれるリースにも王都を楽しんで貰いたい。
「ありがとうございます、アルク様。では明日の夕方にお迎えにあがります」
「うん、よろしくね」
今日は明日と明後日は休日、週明けの前半は学園のレクリエーションなどが行われ、週の真ん中で入学式典となる。入学前に王都の店をリサーチしたいし、美味しいものも食べたいし、せっかくならレイアの時のようにリースにまた服をプレゼントしてあげよう。
お姉ちゃんにも学生生活を楽しんで貰わないとね。




