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52:英雄の虚像、崩れ去り

 馬車に戻った俺を待っていたのは同級生たちの質問攻めだった。初級魔法しか使えないというのは本当か、なぜあんな風に戦うのか、どうやってあれほどの速度で動いているのか。


 どうやらリースの提言で皆は俺の戦闘を見ていたらしい。え、馬車から降ろしたの…?アルク様なら魔物相手に後れを取らないから問題ない…?信頼してくれるのはいいけど他に魔物がいたら護衛の皆さんがやりにくいからね…?俺、広域戦闘はできないからね?


 とりあえず質問に答えて、必要だったら魔法を実演して、馬車の中は突発の移動魔法教室になってしまった。みんなの適性を聞いて、魔力操作のコツや応用を教えて。あっ!火はやめて!馬車が燃えちゃう!


「なあ、アルク。アルクはどうしてそんな強くなれたんだ?」

「どうして?師匠がよかったから?」

「いやそういう意味じゃなくてさ。というかメイドさんに聞いたけど本当にいい師匠なのか…?結構めちゃくちゃだったぞ?」


 はっはっはっ、何を言ってるんだシークくん。俺の体力はいきなり児童虐待かと思うぐらい走らされたおかげだし、俺の速さは貞操を守るために変態から逃げる方法として生み出したものだよ!素晴らしい指導の賜物じゃあないか!!


「アルクがそれでいいならいいけどよ…。メイドさんから聞いたこの2年がとんでもなかったからなんでそんなことできたのかなって」


 リース、君どこまで話したの。事情があって強くなろうと思いました、うん。それで訓練しましたで話終わったんじゃないの?訓練の内容を言った!?あの自殺志願者コースとしか思えない訓練を!?そりゃそんなこと教えられたら皆も事情気にするじゃん!?


「恥ずかしい理由でもないのですから言える範囲で言えばよいのでは?」


 理由は恥ずかしくなくても俺が恥ずかしいでしょうが!!なんでリースはそういう所がちょっと抜けてるの!いつもは完璧メイドなのにさぁ!


「えぇ…言わないとダメかなあ…」

「どうしても嫌ならいいけど、冒険者を目指す参考になるかもしれねえし、皆も気になるよな?」

「来年ぐらいにはバレるでしょうし遅かれ早かれですよ」


 みんなが一斉に同意を示す。いやそりゃあの訓練内容教えられたら俺だって気になるよ。そりゃそうだ…。そしてリース、遅いか早いかの問題じゃないんだよこういうのは。


「……条件だから…」

「は?条件?わりぃもっと大きな声で言ってくれねえか?」

「惚れた相手との婚約条件だから!」

「は?婚約?」

「えっ!婚約!!??」


 困惑する男性陣、盛り上がる女性陣、真っ赤になる俺。リース、君はあとで折檻です、シルバからやり方は教わってるから。


「どういう条件だよそれ」

「とある人と戦って勝ってください、その人は世界トップクラスの魔法使いです」

「それ遠回しに断られてねえ…?」

「それがクソ真面目にその条件出されたんだよねぇ…」


 本当になんでこんな条件なんだろうね?受け入れるしかないんだけどさ。


「アルク様、私達応援してるから!」

「えっ、あぁ、ありがとう」


 メイ達女性陣から力強いエールを送られたと思ったら、女性陣はどんな告白が理想かとか、どんな男子がタイプだとかの恋バナを始めている。うん…まあみんなが打ち解けるきっかけになったならよかったよ…。


「うーん、俺の参考にはならなそうだな…」

「シークはどうして強くなりたいの?」

「え?だって強いやつってかっこよくね?」

「質問を変えるね、強くなって何をしたい?」

「冒険…?」

「冒険のために俺と同じことをしてまでの強さっている?」

「いらねえかな…」

「そこの差じゃないかな、強くなって何をしたいか、そのためには何を乗り越えないといけないか。俺の師匠は、強くなりたかったら死ぬような目に合わないといけないって言ってた。それを乗り越えないと強くはなれないって」


 俺の今日の戦い方だって自殺行為と紙一重だ、巨体を持つ魔物の群れに高速で突っ込む。一瞬の判断ミスで大事故を起こすのはF1レーサーみたいなものだ、それを生身でやるわけだからレーサーより酷いかもしれない。そして冷静にこなすには生死のラインを冷静に見極める必要がある、そのラインは死を目前にした経験がなければ冷静に見通すことなんてできない。


「アルクの場合はその何をしたいかが婚約だったってことか?」

「んんっ!?まぁ…そういうことになるけどさ…」

「「「きゃあああああああ!!」」」


 何!?君ら恋バナしてたじゃん!?なんでいつの間にかこっちの話聞いてるの!?


「アルク様アルク様!シークばっかり質問してたんじゃ不公平だと思うんですよ!」

「メイ?なんかキャラ変わってない?それと君らも結構質問したよね?」

「恋バナを前にした女の子なんて皆こうです!それで!私達も当然追加で質問していいですよね!?」

「…婚約に関係することは無しで」

「アルク様がレイン公爵家の次女にプロポーズしたというのは本当ですか!?」

「婚約に関係することは無しって言ったよねぇ!?」


 先手打ったのに一切関係なしで無視するじゃん!ていうかなんで相手バレてんの!?リースなんか言った!?


「貴族の間ではアルク様がプリム様にプロポーズしたのは有名ですよ?アルク様はすぐに旅立ったので知らないでしょうが、可愛らしい紳士のプロポーズだと奥様方に人気でした。貴族のお嬢様もいらっしゃいますし、この中に噂を聞いた方もいるのでは?」

「……」

「むしろ聞き耳を生業とする貴族という方々が多くがいる場で行ったことがなぜバレていないと思っていたのです?」


 そう…で…すね…。リースさんの言う通りです。社交界経験が無くて貴族耐性がないとか、あの時はいっぱいいっぱいだったとかあるけど、完全に考えが回ってなかった…。


「もしかして条件教えたのダメだった?」

「具体的に誰を、というのを言わないのであれば所詮推測、噂話だとすれば問題ありません。それにアルク様が冒険者として活動を始めたことから既に様々な噂は流れていますので」

「どんな噂?」

「振られてグレた、Sランク冒険者じゃないとダメだと言われた、龍の頸の玉を要求された等ですかね」


 9割9分フラれてるじゃねーか。最後かぐや姫になってるし、いやまあこの世界に龍はいるし龍の頸の玉はこの世界においては口蓋垂のことだけども。


「まあ最初は論外ですがあと2つはニアピンでは?」


 …なんでその2つがニアピンになっちゃうんだろうね。


「つまりプロポーズ相手に関しては隠しても意味がない?」

「2年前から」


 そっか、2年前から無意味かぁ…。


 そっかぁ…。

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