51.5:同級生は見た
「学生さん達!馬車から降りないでください!!」
ベルデ学園に向かう途中、幼馴染のシークが貴族のアルク様の話を聞いて考えこんだ瞬間、御者のおじさんから大声がかけれた。急にとまった馬車に驚き、私もシークも、一緒に乗っている他の子たちも驚いて浮足立ってしまう。
しかしそんな中でも、周りを見ると一組だけ全く焦っているようすのない二人がいた。
「リース他の皆をお願い。俺は行ってくる」
「かしこまりました。やはり行かれるのですね?」
「まあ、戦力は一人でも多い方がいいからね」
先ほどまでシークが話しかけていた貴族、アルク様。私達が住んでるスティング領では平民の間でも有名人で、すごく親しみやすい方だとか、各地で開催されたダンス体験会に参加した子は優しくて王子様みたいだったとか、遠くベルディンにいる本物の王子様より近くにいる貴族のアルク様のほうが私達の中ではよっぽど王子様扱いだった。
私は恐れ多くて話しかけるなんて、って思っていたけどガサツなシークは関係なしで話しかけてしまったし、アルク様は確かに噂通りに優しくて親しみやすい人だった。そんな彼が、その従者が、突然の事態に全く同様を見せず、恐らく魔法を使ったのだろう、一瞬で状況を理解し、対処に動き出した。シークが聞いた12歳でCランク冒険者となったという話、天才すぎて意味が分からないと思った話が目の前で現実味を帯びる。
「皆様落ちついてください、恐らく魔物の襲撃で一時的に停止しているだけです。アルク様が対処に向かわれたのですぐに事態は収まります」
静かで、しかし浮足立った学生たちの耳にしっかりと届くメイドさんの凛とした声。いつもは騒がしいシークもその声に引き込まれて静かになっていた。
「でも、魔物なんですよね?アルク様は大丈夫なんですか…?」
学生の1人から声が出る。その少女はアルク様がCランク冒険者となったことを知らないのだろう。アルク様自身なったのは数か月前だと言っていたし、私が知ったのもシークがステンの冒険者ギルドに行きたがってそこで偶然聞いただけだった。
「ええ、大丈夫ですよ。もし気になるなら少しだけ馬車から降りてアルク様が戦うところを見るのもよろしいかと。護衛しにくいですから馬車から離れてはいけませんが」
そういうとメイドさんは御者のおじさんと少し話をして皆が降りる許可をもらってきた。御者のおじさんはアルク様の戦いを見ていたのだろう。驚愕に目を開き、あの子の戦いを学生たちが見れるならと降りることを許してくれた。
「マジで!?アルクの戦いを見ていいのかよ!?」
そこで喜んだのがシークだ、先ほどの話からCランク冒険者の戦いとはどのようなものか気になっていたのだろう。期せずして訪れた憧れている職業、冒険者の戦いが見れるということでテンションが上がっているみたいだ。
そして馬車を下りた私達が見たのは、戦いじゃなかった。一方的な蹂躙、大きくて力強い魔物であるグラスバイソンが、まるで赤子の手をひねるように遊ばれている。遠いから私達には見える、アルク様が高速で群れに飛び込み、次の瞬間には反対側に飛び出している様子が、アルク様が群れを通り過ぎるたびに、赤くグラスバイソンの血が噴き出す様子が。
「なんだよ…、あれ…」
あれだけ楽しみにしていたシークも言葉を失っている。私もシークも中級の魔法が使える。他の子だってそうだ、程度の差はあれみんな魔法が使える。魔法が使えるとわかったその時から、皆自分の魔法と、魔具と向き合ってきたのだ。家族どころか村にとっての希望だと言われるような子もいるだろう。
シークは冒険者としての活躍を夢みたし、私だって一気に広がった自分の可能性にわくわくした。そんな夢の力を真面目に練習しない子なんていない。だからわかる、アルク様の異常性が。彼が初級魔法しか使っておらず、同時に、複雑に使いこなして圧倒的な高速戦闘を実現させ、さらにその速度の中でもミスをしない瞬時の判断力を持っているという異常さ。
「なあメイドさん、アルクって初級しか使えないんだよな?それでなんであんなに強いんだ?」
シークの気持ちもわかる、あれだけの高速戦闘を初級魔法だけで実現しているのも意味が分からないし、その速度のなかでも一切乱れない魔法の扱い。
そしてメイドさんから教えられたのはアルク様がどうやって強くなったのか、Aランク冒険者とBランク冒険者を講師に付け、それが羨ましいと思えないぐらい訓練漬けの日々。果ては事情があるからとより強くなるために行われた魔物の群れ相手に単独戦闘にダンジョン巡りの旅。
平民の私達には到底願えない理想的な教師、けれど願うつもりが一切起きない地獄の訓練。一緒にアルク様の戦闘を見ていた貴族の子達も同じだろう、たとえできるとしてもやりたくないそんな表情をしている。
しかし、しかしだ、確かに私達はアルク様に魅せられていた。今まで一切わからなかったシークが冒険者に憧れる気持ちも、ダンス体験会に行った友人がアルク様に憧れる気持ちも、目の前でアルク・スティングという存在を魅せられて、理解してしまった。
恋だとかそんな恐れ多いものじゃなく、男の子が物語の勇者に憧れるように、女の子が物語のお姫様に憧れるように、私もあんな風になりたいと、頑張ればあんな風になれるんじゃないかと、夢を抱かせる圧倒的な魅力を持った存在だった。
だって私達は程度は違えど同じ魔法という力を持っていて、これから向かう先はその魔法を鍛えることのできる場所なのだから。




