50:旅の終わり、そして新たな旅へ
Dランクダンジョン、メイズの洞窟を踏破してから2年ほどの月日が流れた。元々は踏破したらCランクダンジョンに挑戦する予定だったが俺の勘が悪いにもほどがあるということで予定を変更、各地のDランクダンジョンを先に巡ってから挑戦するダンジョンの難易度を上げることになった。
せっかく長距離を移動しているのに道中なにもしないのはもったいない、ということで俺は学生になった時の小遣い稼ぎ、マチルダは追加収入を目的として護衛、輸送、討伐等、さまざまな依頼をこなしながら旅をした。2年間、ダンジョン依頼ダンジョン依頼依頼ダンジョンのようなサイクルで旅を、トップクラス冒険者2人に鍛えられながらやっていれば実力も実績もランクアップに必要なだけ積み重なる。
俺はCランク、マチルダはBランク冒険者となっていた。12歳のCランク冒険者、それもお供に超有名冒険者のガーランドとサラを連れている、となればなにか不正をしているのではないか。要するに実力以上の依頼を2人にこなしてもらっているのではないか、と言うまあよそから見たら当たり前な疑惑をかけられたりしたが、その都度ギルドの訓練場で模擬戦を行い実力を見せていた。
そんな疑惑で絡んでくるのはだいたいがDランクでくすぶっている人間なので俺は普通に勝てる。というかCランク以上に上がるにはギルドの担当教官と単独で戦い実力を認められることが必須、実力以上の依頼をこなしてもらって実績を積んでも意味がないのだ。
俺が疑惑の払拭のために戦うと決まるとガーランドが元締めとなって賭けを開催し、ランクが高い者は俺に賭け、低い者は相手に賭け、しかし冒険者のボリューム層はDランク以下のため高オッズが高ランク冒険者に配当される弱者搾取の構図が出来上がっていて社会の縮図に恐怖したりもしたのだが。
そんな俺達は訓練の旅も終え、俺の実家であるスティング家の屋敷、その応接室にいた。
「マチルダ、2年間本当にありがとうね」
「私の方こそ、アルクくんが誘ってくれなかったらこんなに早くBランクになれなかったし、ガーランドさんとの今の関係もなかったわ。感謝するのは私のほうよ」
そう、ガーランドとマチルダは今では恋仲となっていた。Bランク試験に合格し、笑顔で戻ってきたマチルダにガーランドの方から結婚を申し込んだのだ。しかも求婚を受け入れた瞬間マチルダが泣き崩れてしまい落ち着かせるまでが大変だったし、ギルド内でいきなりプロポーズするもんだからギルドの盛り上がりがやばかった。
Aランク冒険者ガーランドの結婚、相手は新進気鋭のBランク冒険者。その日ギルド内はあらゆる業務を停止しての大宴会となった。ギルド職員達はこんなめでたい日に仕事なんてしてられるか!と、冒険者たちはただ酒飲まずに冒険とか行ってられるか!と。
費用はガーランド全持ち、ギルド内の食堂だけでなく近くの飲食店にも協力してもらっての大宴会、賑わいは人を呼び、人が人を呼び、もう町を巻き込んだ乱痴気騒ぎ。翌朝ガーランドは請求された金額を見て綺麗に二日酔いから覚めていた。
「ガーランド今までありがとう、結婚式の時は呼んでよね?学園休んで行くからさ」
「おう、と言ってもギルドのどこの支部長になるかが決まって、スケジュール調整してからだからまだ先だけどな」
今日をもって正式にガーランドたちとの契約は終了。ガーランドはギルドの支部長になる、マチルダとの結婚を考えたのも支部長となり、一か所に腰を落ち着けることになるからというのも大きな理由のようだった。
「サラも本当にありがとう、この後は冒険者に戻るの?」
「…それもいいけどやりたいことができた。そのうちアーくんにも教えられると思う」
「今は教えられないの?」
「守秘義務があるから…」
「あ、そうなんだ」
いつの間にそんな守秘義務が必要な契約を結んでいたのだろう。でも俺達の旅の途中で結んだのなら冒険者ギルド関係かな?
「じゃあ皆長い間本当にありがとう。おかげで俺はかなり強くなれた、学園に行っても頑張るから」
「アルクくんなら大丈夫よ」
「次会った時に鈍ってたらしごいてやるからしっかりと鍛えておけよ」
「…またね、アーくん」
別れの挨拶を済ませ、3人は応接室を後にする。俺は一人応接室に残り、ガーランドと出会ってからの6年間を思い出していた。本当に、本当に最高に楽しい地獄だった。倒れるほどの走り込みから始まって、今では12歳でCランク冒険者になれるほど強くなれた。3人と出会えなければここまで強くはなれなかっただろう。
「アルク、別れの挨拶は済んだみたいだな」
「はい、父様。ガーランド達を講師として雇ってくださりありがとうございました。」
「なに、アルクの適性を考えたら彼らしか候補が挙がらなかっただけのことだ。そういう意味では楽な人選だった」
3人が屋敷を出たのを知ったのだろう、カイル父さんが応接室にやってきた。そうか、父さんが気付いてこっちに来れるだけの時間がもう経っていたのか。
「それでアルク、もうすぐお前は学園に通うわけだが、最後に我が家でやっておかなければならないことがある」
「はい、なんでしょう」
父さんに応えた瞬間、部屋の扉がノックされる。
「ああ、丁度きたみたいだな。どうぞ、お入りください」
「アルクちゃん久しぶり!リリィちゃんよ!」
「…え、なんでリリィちゃん?」
久しぶりに出会う俺の貴族面の講師リリィちゃん。音楽、ダンス、礼儀作法などを叩き込んでくれる見た目王子様で乙女の心を持つ本名ブランさんだ。
「2年間アルクは冒険者として活動していたからな、貴族として必要な礼儀作法や芸術などの教養を忘れているだろう。出発までにブラン殿に叩き込んで貰ってこい」
「えっ、流石に少しぐらいゆっくりしたかったんですけど」
「アルクちゃんには悪いけどそんな時間はないわねぇ…。既にアルクちゃん、座ってる時の姿勢がよくないもの…」
そう言われて、俺はすっと背筋を伸ばす。リースが一緒にいたとはいえ行動の大半を冒険者に囲まれる生活は俺から貴族の高貴さというものを確かに奪っていた。リースがいたから完全にはなくならなかっただけで。
「流石に今から姿勢を正してももう遅いぞ、アルク…」
「ダメですか…」
「諦めなさいな、公爵家のお嬢さんと結婚したいんでしょ?なら礼儀作法も完璧にしておかないとね?」
「それを言われたら抵抗できないね…」
流石に2年間の冒険者生活は大変だったので多少なりとも休んでから学園に行きたかったのだが仕方ない。リリィちゃんという教師がいるうちにスティング伯爵家子息アルク・スティングくんを取り戻しておきますか!




