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93:騎士と姫騎士-後編-

劇中劇がちゃんと3エピで収まったよ!えっ!?文字数でみたら全部で4エピ分ある?うるせぇ!ごめん!

「それで、貴方達は謎の男との取引に応じたと」

「はっ、任務を強行した場合、失敗に終わってしまう可能性が高いと判断しました」

「ふむ、番犬を率いる貴方がそう評しますか…」


 明け方、カルラ大司教の天幕にて番犬の男が深夜の出来事を報告する。それを聞いたカルラはリスクとリターンを計算する。番犬はカルラが作り上げた暗部組織、皇国の要であり、カルラにとっての最も強力なカードだ、故にそれを率いる者の目には大きな信頼を寄せている。


 確かに聖女が生きている、確実な排除にはならなかったのは痛手であり、リスクだ。しかし、番犬がそう評する男と聖女の2人を同時に相手取りはたして任務が成功するのか。聖女殺しに向かわせた番犬は少ないとはいえ精鋭中の精鋭、それを失ったうえで失敗すれば目も当てられず、成功したとして、戦時に精鋭たちが離脱しては自分が思い描く着地点にて終戦させることが出来ない可能性が高い。


 ならば男が取引を守ればこちらの被害は最小でシンラ大司教の切り札を奪える。取引を破られたとて帝国に下っているならばそれを指摘すればいい、シンラ大司教の元に戻っているならば暗殺など水掛け論、むしろ敵前逃亡は純然たる事実として兵士達が証言してくれる。


「話はわかりました。よい判断です、任務は遂行出来ていませんが目的は達成されていますからね」

「はっ!それとその男から伝言を預かっています」

「伝言?」

「皇国にとっては分からないが、カルラ大司教にとってはいい取引だろとのことです」

「それはそれは…、ええ、とてもいい取引です。けれど一つだけ訂正しなければいけませんね」

「訂正ですか?」

「ええ、皇国にとってもいい取引ですよ、私が教皇になるのですから」


 男からの伝言を聞き、取引が果たされることを察したカルラは終戦後の自分の勝利を確信する。そしてそれは皇国にとって素晴らしいことであるという傲慢な自負を番犬に聞かせる。終わらない戦争はない、ならば支配層が考えるべきはどこで終戦させるか、終戦後いかに自分の利益を最大化するかだ、始まったばかりの帝国との戦争、カルラは必ず来る終戦という未来を見据えて動いていた。


 それから1週間後、アランとフレイは帝国の帝都のとある建物の一室にてフードを被った青年と出会っていた。


「それで戦場から帰って来たって?」

「おう、もう帝国の勝利は変わらねえよ。だから俺の仕事は果たしたぞ、リアン」

「リアン…?おいアラン!?もしかしてリアン皇太子のことか!?」

「初めまして、皇国の聖女殿、帝国皇太子、リアン・ホークです」

「は、初めまして、皇太子どの。フレイと言います」

「まあアランが言うならフレイ殿を皇国軍から奪えた段階で勝ちなんだろうけどね、もう少し戦場を見てくれてもいいんじゃない?」

「フレイだけじゃなく、フレイの部隊も丸々持ってきてやったんだ、フレイは無理だが部隊の方は上手く使え、それで勝てるさ」

「全く、凡人じゃ君の思考速度にはついていけないって言ってるのに、それにアランの勝手で帰れるようにするために亡霊を特殊な立ち位置にしてるわけじゃないんだよ?」

「だが帝国にとっては望外の戦果だろ?」

「…否定できないのが腹立つなぁ」


 フレイを攫った夜、亡霊たちはアランの指示でフレイの部隊の足止めを行っており、攫われたフレイと再会、事情を知って共に帝国へと亡命した。家族のことは心配だが、恐らくこういった事態になった以上自分達も消される、ならば共に亡命し、アランの取引に相乗りさせてもらうしかない。


 そしてアランの言う通り、リアンにとってこれは望外の戦果だ。帝国には皇国からの亡命者や難民が定期的に流れてくる。清貧を教義とし、教会が信徒を搾取しつくす、耐えられなくなった人間が逃げてくるのだ。それを終わらせる目的もあり帝国は宣戦布告した。


 帝国の描く終戦は、皇国を無くし、完全に帝国のものとすること。しかしその場合、皇国に詳しく、帝国への統治にスムーズに対応させられる代官が必要になる。そしてフレイという存在はこの戦争において帝国の理想とする終戦に向けてのシルバーバレット足りうる。


「まあアランがくれた機会はちゃんと活かすさ。というわけでフレイ殿、シンラ大司教のことを教えて貰えますか?」

「シンラ大司教ですか?」

「ええ、貴方がシンラ大司教の養女というのは有名です。そうですね、先に帝国の目的をお教えしましょう、そのためにシンラ大司教のことを知りたいので」


 そしてフレイに語られたのは帝国の目的、描く終戦のビジョン、これまで行ってきた侵略戦争の目的。


「世界から戦争を無くす…?」

「ええ、初代皇帝の悲願です。歴史上世界から戦争がなくなったことはない、けれど世界が統一されたこともないならば、世界が統一されれば戦争はなくなるのではないかという夢物語ですね」

「まあそんな夢物語に共感しちまってるバカみてえな一族が皇族なんだから救えねえ国だよな」

「いつ終わるんだろうね?この悲願」


 あまりにも壮大、あまりにも無謀、あまりにも現実的でない目的。それを真面目に、楽しそうに二人は語っていた。


「本当にそんなことができるのですか?」

「どうでしょう、一つ一つやっていくしかありませんが。私は世界中が帝都のようになればあり得ない話ではないと思っていますね。よかったら一度帝都をご覧になっては?皇国の民がそのような生活をできるようになるとしたらフレイ殿はどう思うかを確認してから私達に協力するか決めて頂いていいですよ」

「帝都のような生活を…?」

「おっしゃ、そうと決まればフレイ、デートに行くぞ!」

「どうしてそうなるんだ!?」

「おー、本当にアランがべた惚れだね。面白いもの見れたし、勝手に帰ったことはまあ許すことにしたよ」

「それでいいのですかリアン殿!?」

「まあそもそも亡霊って軍に共する一部隊だけど軍属じゃないし、どの指示系統にも属さないから罰しようもないんだよね。あくまで私のお願いで亡霊が戦場に行ってるだけだから命令違反じゃないし」

「それに聖女だってバレるわけにもいかねえだろ。俺の彼女ってことにしておけば帝都のやつらも身内として接してくれる、その方が帝都の本当の姿が見れるだろうよ」

「そういう理由があるなら最初から言え…」

「ね?アランの思考速度は速すぎてついていけないんだよ。過程飛ばして結論だけ言って来るし、軍議に出してみたら説明めんどくさがってそうなるのは当然だろみたいな顔するし、亡霊が出来た一番の理由は、優秀だけど将にも駒にも使いにくいアランを最大限活用するためだから」

「まあ確かに必要だからと勝手に帰るような者では…」

「あー、もういいじゃねえか。そんなことよりフレイ、今からデートいこうぜ?」

「デートじゃない、あくまで帝都の視察だ」

「フレイはそう思ってればいいさ、俺が勝手にデートだと思っておくから」

「行ってらっしゃい、フレイさんの決心がついたら連絡してね。そしたらまたここにくるから」


 リアンに送り出され、アランとフレイは街へと繰り出す。アランにとって勝手知ったる帝都の街並み、住民達もフレイという美女を釣れ歩くアランに信じられない物を見たように、けれどアランにそういった相手が出来たことを喜び、寄る店寄る店、サービスだ、お祝いだと2人に軽食や飲み物、酒なんかを押し付けてくる。


 それは清貧を教義にしている皇国ではありえない光景だった。誰も彼もが笑顔で、誰も彼もが人生を楽しんでいる。皇国にも笑顔はある、けれどそれは静かで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()からこその笑顔だ、帝都で見る心の底から溢れている笑顔とは意味が違う。


「…いい街だな」

「お、デートはお気に召したか?」

「デートじゃない、街だ。色んな人が、老若男女だけではない、国籍、人種問わずに笑顔で、他者を慈しみ合っている」

「帝国は侵略国家だからな、人種が違う、なんてどうでもいい理由で差別だなんだとしてたらすーぐ内乱になっちまうよ」

「ふふっ…それもそうだな」


 帝都中央公園、噴水前にあるベンチで休憩をしながら2人は雑談に興じる。フレアの問いは最初は帝国を知るために、アランの問いはフレイを知るために、そして段々とフレイの問いもアランを知るためのものへと変化していく。


「よし、決めた。リアン殿を呼んでくれ」

「腹くくったか?」

「ああ、皇国は無くなるが先に私を捨てたのは皇国だ。それに私が守りたいものは皇国じゃない、そこに暮らすみんなだ。みんながこんな表情を出来るようになるなら売国奴の誹りも受け入れよう」

「安心しろ、お前は売国奴なんて呼ばれねえよ、もう皇国じゃ死んでる扱いだからな。今のフレイは幽霊だ幽霊」

「ははっ!亡霊に攫われて幽霊になってしまったか!さもありなんだな」


 そして先ほどの建物に戻った2人は、再度呼び出したリアンと言葉を交わす。フレイの持つ限りの皇国の情報、それと引き換えとしたフレイが守りたい者達の保護。さまざまな情報、さまざまな条件、それらを叶えるためのビジョン。


「うん、フレイさんありがとう。おかげで終戦までの道筋も、終戦後のシナリオも描けたよ」

「いいや、感謝はいい。例え民のためと言ってもやってることは売国だ」

「そう。それとアラン、これは皇太子として亡霊への命令だ。今まで一度も命令なんてしなかったけど、この命令だけは絶対に受けてもらうよ」

「ああ、言ってみろ」


 本来亡霊に対して命令できるものはいない、今までは亡霊は友の願いを聞き届けてきたにすぎない。けれどこの作戦だけは、成功しなくてはならない、そしてそれは亡霊の手によってでなければならない。なぜならそれは、亡霊が聖女に恋したことがきっかけなのだから。


「特殊作戦部隊亡霊、隊長アラン。皇太子リアンの名において命ずる、亡霊を率い、フレイ殿を護衛、シンラ大司教と密会する手引きをせよ」

「はっ!令旨、確かに承りました」


 そんな皇太子と皇国の聖女、姫騎士フレイの会談から数年。皇国のあった地、帝国教皇領では新たな教皇、シンラ教皇の就任式が行われていた。そのパレードの人混みから少し離れたところ、2人の男女が遠くから新教皇を眺めていた。


「おう、教皇に会っていかなくていいのか」

「ああ、シンラ教皇…、いや父様に伝えるべきことは前に伝えてある。それに万が一私の存在がバレても面倒だからな」

「親不孝な娘だねえ」

「そうさせたのはお前だろうに…、だがまあ一目だけでも見せてくれて感謝してる」

「いいってことよ、嫁のささやかな願いを叶えるのはいい旦那の条件だっていつも酒場のおばちゃんが言ってたからな」

「それはアランへのアドバイスではなく、旦那への愚痴なのでは…」

「かもしれねえけど、おかげでフレイが今幸せならそれでいいだろ」

「まあ、そうだな。帰ったらおばさまにも感謝を伝えないといけないか」

「おばちゃんじゃそれよりも酒注文したほうが喜びそうだけどな」

「ははっ、違いない!早く帰って一番いい酒を頼もうじゃないか!アラン!」


 そう言って、フレイはアランの手を取って人混みから離れていく。その顔は、いつか彼女が見たような、心の底から溢れ出す笑顔だった。

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