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92:騎士と姫騎士-中編-

中編と書いてはいるけど次の後編(予定)で終われるかな!?なんとかまとめよう!頑張れ未来の自分!

 失敗に終わった姫騎士フレイによる帝国本陣への奇襲。皇国としては成功すればよし、失敗しても聖女の死によって国民を戦場に送り込めるという目論見の下で行われていた。そしてそれには当然()()()()()()()()()()の意思も介在している。


「それで、フレイ様は本陣に奇襲をかける前に失敗の判断をして撤退してきたと?」

「はっ、諜報部隊が捉え切れていない部隊が一隊いるようです。そしてその部隊は隊長含め精強であり、突破した上で奇襲をかけることは困難だと判断しました」

「そうですか…、追って指示を出します。下がっていただいていいですよ」

「失礼します」


 皇国軍を率いる老齢の男性、カルラ大司教とその他数人の司教がいる本陣の天幕にて、報告を終えたフレイは次の帝国との衝突に備えるため、この場を後にする。


「困りましたねぇ…」

「確かに、フレイ様の奇襲が成功すればその隙に一気に前線を上げ、帝国との戦力差を覆せる可能性が高かったのですが」

「ああ、いえいえ、それはまあいいんですよ」

「は?」

「皇国の誇る諜報部隊が情報も持っていない部隊がいるわけがないでしょう?臆病風に吹かれてそのような嘘をついてまで撤退をするなど…。万が一真実だとしてもそれは神の与えし試練、そこに背を向けるなど聖女として相応しくない、そうは思いませんか?」

「は、はぁ。ですがフレイ様が嘘をつくとはとても…」

「いいえ、臆病風に吹かれたのですよ。聖女と祀り上げられても所詮は女ということでしょう。これは困りました、聖女が逃げ帰ったなど前線で頑張ってくれている信徒達の士気に関わる」

「では何か手を打たれるのですか?」

「そうですね…、あぁ、決めました。彼女にはもう一度奇襲をかけて頂きます」

「一度失敗した奇襲をですか?」

「ええ、そして二度と帰ることはなかった。そういうことです」

「大司教それは…」

「いいですか?彼女は失敗の責を心苦しく思い、再度奇襲をかけた、神のため、民のために孤軍奮闘し、神の元へ旅立たれてしまった。とても信心深い、聖女に相応しい最後ですね?」

「…っ!流石、聖女様ですね…!」

「えぇ、えぇ、臆病風に吹かれる聖女など、あってはなりませんからね」


 カルラ大司教にとって、フレイとは教皇の座を争うシンラ大司教の手駒だ。もしその大きすぎる手駒をライバルの手から失わせることが出来るのならば、聖女を失った指揮官の責など支払う対価として安すぎる。フレイを称えれば称えるほど、指揮官の責は小さく、侵攻してきた帝国の責は大きくなり、それに立ち向かった聖女の美談として語ることができるのだから。


 その夜、フレイの部隊に密命が下された。帝国本陣へ夜襲をかける。姫騎士フレイは先行して敵本陣を見張っているため急ぎ合流し作戦を遂行せよ。その命に従い隊員達はまだフレイが眠っている本陣を出発する。


「…なんだ?」


 フレイの眠る天幕の中、普通ならば聞き逃す微かな物音、しかし戦場にて研ぎ澄まされた感覚を持つフレイを目覚めさせるには十分な音だった。


「…っ!?何者だ!?」

「……起きていたか、構わんやれ」


 フレイに襲い掛かる皇国の隠密部隊、番犬(ケルベロス)、少し離れた場所にいる皇国の兵士たちは薬で眠らされ、近くにいるはずの隊員たちは本陣にいない、フレイが放つ魔法の音も、暗器を防ぐ剣の音も、助けを呼ぶには至らない。


 いくらフレイでも皇国の精鋭、番犬を相手にしては多勢に無勢、さらに夜闇をホームグラウンドにする彼らが有利にことを運んでいくのは当然のことだった。闇に紛れた暗器で体を傷つけられ、そこに塗られた毒で体の自由は利かなくなっていく。そんな絶体絶命の状況、聖女への神の庇護は意外な形でもたらされることになる。


「ぐあっ!?」

「おうおう、様子がおかしいと来てみれば兵士たちは夢の中、おまけに寄ってたかって夜這いの最中と来たもんだ。全く清貧を謳う皇国の皆さんには恐れ入るね」

「なっ!?何者だ!貴様!」

「アラン…!?なぜここに?」

「なぜって、戦争で夜襲をかけるのも、惚れた女に夜這いをかけるのも、どっちもおかしいことじゃねえだろ」

「なっ…!?何を言ってるんだお前はぁ!?」

「そしたら夜這いの先客がいると来たもんだ、ただあいにくと俺は複数で楽しむような変態じゃなくてな、恋敵共には退場してもらおうか」


 戦闘に加わると同時、番犬の1人を吹き飛ばしたアランが嘯く。実際にはフレイの部隊が出陣したにも関わらず、その中にフレイがいないことを不審に思い、本陣を遠くから覗いたらフレイの魔法が見えたために、事態を察し助けに来たという、いくら軍の指示系統に入ってないとはいえ一部隊の隊長がやっていいわけがない暴走だ。


「ああ!もう!こうなったらお前でも使ってやる!アラン!背中を任せるぞ!」

「ナイトウェアの美女こそ俺の背中に隠れてろ、その体を変態共に楽しませてやる必要はねえよ」

「あああああ!もう知らん!そこまでいうならお前1人でやってろ!人を辱しめる変態め!」


 アランの軽口によって戦闘に集中していたフレイの意識が自分の姿へと向けられる。そこで気付くあられもない自分の姿、ただでさえ薄着の所を襲われたのだ、それはもう扇情的な恰好になっていた。


「そうそう、そこで布団にくるまって待ってろ。すぐ終わらせる」

「一人で我等をすぐに倒せると?」

「ああ、倒せるぜ?その証拠にお前ら今まで手を出せなかっただろ?」

「…ちっ」


 アランの言うことは番犬にとっては酷く不快な事実だった。アランがふざけている間、襲わなかったのではない、襲えなかったのだ。隙が無い、一歩でも前に出れば首が落ちるという予感、残る3人で同時に掛かっても隙だらけにしか見えないはずの相手に勝てる気がしなかった。


「まあお前らを殺してもいいんだが、ここはひとつ取引でもしねえか」

「それを我等が飲むとでも?」

「飲まねえなら殺すだけだ。手を出さなかっただけ俺との差は分かってるだろ?」

「…」

「お前らだけじゃねえ、お前らの上司にとっても悪くねえ取引だ、フレイは死んだ、そういうことにすればいい。俺が責任もってこいつを貰ってく」

「何?」

「お前はまた何を!?」

「夜這いに来たっつったろ。皇国がいらねえ、フレイの事が邪魔だっていうなら俺が貰ってやる。お前らはその名を好きに使えばいい。こいつを戦場には立たせねえし、生きてるなんて言って離間を計ったりもしねえよ」

「その口約束を信じろと?」

「信じねえならお前らは死んで任務に失敗するだけだな、上司の目論見も潰える。聖女様が身内に殺されそうになった、なんて広まったら帝国との戦争もままならねえな?」

「…いいだろう」

「それでいい、上司にはよろしく言っといてくれ。皇国にとってはどうか知らねえが、あんたにとってはいい取引だったろってな」

「待て!?勝手に私の処遇を決めるな!?」

「諦めろ、ほら、さっさと着替えろ。早くしないと俺がお前の服を漁るぞ」

「やめろ変態!うぅっ…、どうしてこんなことに…」


 フレイとてわかっている、援軍だったはずのアランがこう決めてしまった以上、従わなければ彼が敵に回るだけだ。それに番犬が自分に差し向けられたということは、今の皇国にとって、自分という存在が邪魔になったのだということ。ひどく悲しく、けれど皇国の実態を知っているフレイからしたらついに来たかという納得もある、ただただ空しさを感じる結論。


「よし、着替え終わったな、それじゃこいつは貰っていく」

「うわっ!?やめろ馬鹿!降ろせ!」

「ははっ、今のお前は俺の戦利品だ。戦利品は戦利品らしく貰って行かねえとな」


 アランはフレイをその肩に担いで歩き出す。それはフレイが戦闘中に毒を受けていたことに気付いたアランが、彼女が辛い思いをしないようにという、優しく、乱暴なエスコートだった。

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