91:騎士と姫騎士-前編-
劇中劇って三人称で書くから練習になるなと思いながら書いてたらめっちゃ筆がのって、これもしかして長くなる…?って気付きましたやべえっす。あれ…?もしかしてこれ3エピぐらい使う…?嘘だろ…?
アラン>アルクが演じる主役
フレイ>フレアが演じるヒロイン
その他モブ>同期のみんなが演じてます
2話前の89:脱稿の所でわかるようにはなっていますが念のため
戦場があった。帝国と皇国、2つの国の兵士達が命を奪い、領土を奪うための戦場があった。いや、領土を奪うなんて生優しい戦場ではない、国を奪う、そのための戦場だった。
そんな戦場から少し離れた丘の上、帝国の騎士アランは部隊を率いて眼下の惨劇を眺めている。
「くせぇ…、くせえなあ…」
「隊長?何か気になんの?」
「あー、そうだな。匂う、くせえ、地図を持ってこい」
「あいよ」
アランが率いる部隊、彼らを知る者からの呼び名は"亡霊"。彼らに指示を出せる将はおらず、彼らが参加する作戦もなく、彼らに与えられる栄誉もない。ただ戦場において、帝国の勝利のために動く亡霊、それが彼ら。
「…よし、お前ら移動するぞ」
「また隊長のいつものか」
「たまには説明してほしいもんだな」
「まあそれが出来たらこの人はこんな部隊率いてないって」
地図を一時眺めたアランは隊員たちに指示を出す、いや指示とも言えないレベルのただの行動決定通知。そうすることを彼が決めた、帝国の勝利には必要だと感じたから。
部隊長の指示に文句を言う隊員たち、普通の軍であればありえないその光景。けれどそれこそが彼らが普通でない証左であろう。
敵が組み上げた緻密な戦略を感覚で潰す隊長、そんな彼が集めた多様な隊員。山賊、傭兵、腕自慢、コソ泥、詐欺師などなど。ただ彼の感覚で使えると判断され、彼の武力で叩き潰され、彼に従えば真っ当に生きられると信頼するもの達。
彼らが移動した先は本陣近くの森の中、川が流れ、木々が生い茂り、馬では少数しか通れないために奇襲が来てもたかが知れてると判断されたそんな自然のバリケード。
「隊長まさか奇襲読みか?」
「奇襲が来ても俺らと同じ数がせいぜいだぞ?その程度の数で本陣に奇襲かけてもなあ…」
総司令のいる本陣に小隊規模の部隊で奇襲をかけて何が出来るのか、いくら後方に位置する本陣とはいえ騎兵の突撃などに備えていないわけがない。来るわけがない、けれど念のため、その念のためを怠るほど帝国兵は戦下手ではない。
「…来たな」
アランがぽつりと言葉をこぼす。瞬間聞こえ始める軍馬の足音、鎧の金属音、木の葉の擦れる音、それは明確な奇襲の音だった。
「かーっ!やっぱ意味わかんねえこの隊長!」
「そうなる気はしなくても隊長が言うとそうなるんだからやってられねー!」
「ほんともったいねえよなあ、ちゃんと説明さえできりゃ将軍様だってのに」
アランは戦場を俯瞰して捉える。その中に相手の意図、特に隠された意図を見つけたとき、違和感を感じ、自らがどこにいればその違和感が消えるかという基準で動く。
今回で言うならば、まだ皇国は余裕があるのになぜ国力で勝る帝国を相手にしてこの場で決戦を挑んできたのか、決戦となれば本陣を布陣できる位置は限られる。皇国の布陣場所は想定通り、当然帝国の布陣場所も想定されているだろう、それは逆に言えば互いの本陣の位置を操作できるということ、奇襲をするには絶好の条件だ。
しかしそれはないと帝国軍は判断した。森というバリケードによって奇襲の人数が限られ過ぎること、可能とするには将と兵にかなり高い質を要求されるが、それを満たす将と部隊は皇国に姫騎士フレイの部隊ただ1つ、民からは護国の聖女と呼ばれ、魔法という選ばれた力を扱い、将才、剣才に恵まれた、今後も重要になる聖女を帝国は万が一にも失うわけにはいかない、ならばここで奇襲という賭けには出れない。
ならばこの決戦はなんなのか?帝国軍は徴兵のための茶番という結論を出した。皇国は宗教国家だ、侵略者から神を守るため、国を守るため、信者を守るため多くの兵が命を落とした、彼らに報いるためにも、神のためにも、信者一人一人が立ち上がらなければならない、残虐な異教徒から愛しい隣人を守るために。そんなお題目を上げるための決戦、兵士達を捨て石にして、あわよくば帝国の戦力を削り、そんな美談で国民全員を戦場に駆り立てるための茶番。
そしてそれは間違いではない、実際にそういう話を流すための密偵は放たれていたし、その情報を帝国が掴んでいたからこその判断。ただ一つ帝国は読み違えた、皇国は聖女ですら捨て石にしたということ。
「お前ら仕事だ!真っ当に生きたきゃ戦え!死んでもこいつらを通すな!」
「生きたければ戦えって言っときながら死んでも通すなって意味わかんねえよ隊長!」
「死にたくねえけど戦わなきゃ隊長に殺されるから選択肢がねえんだよなぁ!」
アラン率いる亡霊が、姫騎士フレイの率いる奇襲部隊に攻撃を仕掛ける。見通しの悪い森、馬という移動手段、兜の視界、それらの要素は亡霊を伏兵とした。奇襲をかけるための部隊が奇襲をかけられた瞬間である。
「なっ!?全員落ち着いて対処しろ!敵は少数だ!ここを突破して作戦を続行する!」
「「「はっ!」」」
フレイが驚いたのは一瞬、即座に敵の数、編成を確認し的確な指示を出す。付き従う部隊も精鋭、奇襲で出来た隙は少なく、フレイの指示にも即座に応答する。
「くそっ、なぜここに帝国兵がいる!?邪魔をするな!」
魔法を放ち、剣を振り、襲い掛かる敵を蹴散らすフレイ。皇国の密偵は優秀だ、その練度は帝国を上回っており、あらゆる部隊の情報が入っていた、だからこそ、ここで防がれるわけがなかった。
「お前らは雑魚を相手してろ!姫騎士は俺がやる!」
フレイにアランが襲い掛かる。フレイにとって、いるはずのない部隊、あるはずのなかった防衛戦力、けれど亡霊からすればそれは当然だった。なぜなら彼らは帝国のどの部隊にも属していない、どの指揮系統にも属していない、戦果を挙げても栄誉はなく、彼らの存在を知るのは帝国でも極少数。帝国軍に彼らを知る者はいない、なぜなら亡霊なんて部隊、帝国軍にいないのだから。どれだけ優秀な密偵でも、いないものを知ることはできない、ゆえに亡霊、ゴーストなのだから。
「貴様も邪魔をするな!」
剣を受け止めたフレイが魔法を発動する。鋭利な土の槍と燃え盛る炎の槍、フレイの頭上から放たれる障害を排除するための二槍、それを前にしたアランは眉1つ動かさず、ただ告げる
「魔法を使えるのはお前だけじゃねえぞ」
「なっ!?」
土の槍を受け流す土の盾、炎の槍を包み込む水の盾。姫騎士の道を切り開くはずだった二つの槍は消え去って、障害となる男との剣戟を終幕へと導けない。再度放たれる魔法、再度防がれる魔法、威力に劣る男の魔法は、けれど剣戟の終幕を許さない。
「くそっ!しつこい!」
「ははっ!姫騎士お前やるな!ただ魔法に頼ってるだけじゃねえ、剣も相当鍛えてる!ああ、そうだな、これがそうか、どうやら俺はお前に惚れたらしい!」
「はあっ!?こ、こんな時に何を言ってるんだお前は!」
悲しいかなフレイにはこういったことに耐性がなかった、聖女として崇められた、姫騎士として恋焦がれられた、けれどそんな肩書を抜きにして女性として真っ直ぐ求められたのは初めてだった。アランの宣言はフレイが聖女だから、姫騎士だから出た発現ではない、フレイがフレイだから出た台詞だった。
「おいおいこんな時に隊長女を口説きはじめたぞ!?」
「うっそだろ何考えてんだあの人…」
「そのくせ全く剣にも魔法にも加減がねえ…、本当に惚れてんのか?」
周りの亡霊たちも、フレイに付き従う騎士たちも、突然聞こえた愛の告白に困惑している。彼らは少し前から戦闘を止めている、それは命令に従わないだとか、命惜しさにとかそういうわけではなく、ただこの局地的な戦闘が、彼らを率いる者達の手で決着すべき物だと理解したから。どれだけ兵を残しても、アランが残れば帝国の勝ち、フレイが残れば皇国の勝ち、この場はそういう戦場だった。
「姫騎士お前結構生娘か?さっきから魔法も剣も鈍ってるぞ!」
「くっ、そう言いながら貴様は愛を語った相手に本気で剣を向けるのか!」
「ああ!お前は強いからな!強くなるために鍛えた技だ!大切な何かを守るために鍛えた技だ!そんな相手に本気を出さないのは無礼だろ!?」
「っ!それはありがたいがな!戦闘中の告白はいいのか!?」
「それは惚れちまったから仕方ねえな!」
攻めるアラン、防ぐフレイ。アランの告白から一転した状況は、まるで好きな人にアプローチをかける男と、それにたじろぐ乙女の必死の抵抗だった。
「くそっ、ここまで消耗させられては奇襲も成功しないか…。作戦は失敗だ!全員撤退!」
「「「はっ!」」」
決着の付かなかった戦い、けれどフレイはこれを突破すれば終わりではない、この後に奇襲をしなければならないのだ。そして目の前の男を相手にそれだけの余力を残して突破することができない、ならばこの作戦は失敗である、自分たちの被害が増える前に、囮となっている前線の被害が増える前に撤退判断をしなければならない。
「おう、姫騎士。気を付けて帰れよ、帰り道で殺されんじゃねえぞ」
「さっきから姫騎士姫騎士と…、私の名はフレイだ。惚れたというなら貴様の名ぐらい教えろ」
「俺の名前はアランだ、この部隊の隊長をやってる。誇っていいぜ、俺らと会って生きて帰れた部隊はフレイ達が初めてだからな」
「隊長が皆殺しにするからな…」
「生存者がいなければ部隊の存在はバレないって理屈、本当にやるの隊長ぐらいだよな」
亡霊は存在を知られないからこそ亡霊足りうる、それは味方だけでなく、敵にもだ。戦争を繰り返している帝国で、けれどなぜ他国にもその存在が知られていないのか。それは彼らと戦った部隊は誰一人として帰らなかったからだ、目撃者がいなければ、生存者がいなければ、亡霊は存在を知られない。送りだした部隊が帰らなかったのは、特定部隊の仕業であると断定できない、戦場のどこかで死んだのだろう、なにか不足の事態があったのだろう、それこそ心霊現象にでもあったかのように忽然と姿を消してしまうから。
「ふんっ、次はその恥ずかしい口を首から黙らせる」
「おうおう、じゃあ俺はお前を倒して俺のものにする。帝国らしくな」
「ほざけ異教徒」
不快そうに応えたフレイがその場を去っていく、亡霊はその背を追撃しない。フレイの部隊は隊員の練度も高かった、アランに鍛えられた隊員達にはその強さが分かっている。ここを追撃すればお互いに泥沼の戦いで、なんの得もない、奇襲を防いだ時点で帝国の勝ち、亡霊の秘匿のためにそこまでのコストは払えない。フレイ達がその存在を知ったからとて、まだたった1つの目撃証言、眉唾の心霊現象の域は出ない。
「しかし隊長って女に興味あったんだな」
「いやあれ女にというか剣にの延長だろ…?」
「俺達シバかれて無理矢理仲間にされたけど、姫騎士もそうなるのかね?」
流石の亡霊たちも、隊長に突然訪れた殺伐とした恋に色めき立っているというのもまあ、一因ではあるけれど。




