90:ベルデ学園祭、1日目開幕
演劇の台本ができてから約一ヶ月、ついに学園祭本番の日がやってきた。ベルデ学園祭は週の真ん中3日間にかけて開催され、広大な敷地で各学科、学年が出し物や研究発表、騎士科に至っては部外者参加可の武術大会など学園祭という枠組みでは収まらないベルデ王国一大イベントだ。
「お化け組は室内ホールで10時と15時、騎士組は屋外訓練場特設ステージで11時と16時なので皆間違えないようにしてください。では最終ミーティングを終わります、みなさん学園祭を楽しんでください!」
「「「「いえええええええええええええい!」」」」
この一ヶ月打ち合わせやら練習やらでお世話になり続けた空き教室で同期のみんなと最終確認、フレア議長の一声でみんなが学園祭に繰り出していく、現在時刻は9時、家族とお化けを担当する通称お化け組は慌ただしく室内ホールへ向かって行く。俺とフレアが演じる騎士と姫騎士を担当するグループ、通称騎士組は開演まではめぼしい出し物などの情報収集を目的にした。
俺、フレア、キャロるんは騎士組、メイとシークはお化け組だ。特にキャロるんは闇の上級まで使えるために騎士と姫騎士を屋外ステージで公演する決め手となった。
屋外ならば中級魔法を派手に魅せられる、土魔法で舞台を自由自在に作り変えられる。けれど屋外となるとステージも客席も陽光で照らされてしまう、この問題をキャロるんが生み出す暗幕で解決し、光適正を持つ子数人が照明係を担当する。俺の闇魔法では出力が足りずに訓練場を全て覆うようなことは出来ないのでとても助かった。
「フレアとキャロるんは何か気になる出店の情報ある?」
「私は正直あまり情報を集められてないわね、騎士科の武術大会に出たいぐらいかしら」
「怪我して演技できなくなったら困るから辞めてね、キャロるんは?」
「お化け屋敷と音楽専攻のクラシックコンサート!」
「落差がすごいな…」
「なんかティンパニを頭で突き破るんだって!」
「クラシックだよね!?デスメタルじゃないよね!?」
何を考えてるんだ芸術科は!?ティンパニくんもまさかのティンパニ生の幕引きに泣いちゃうよ!?
「やっぱり芸術科の考えることはわからないわね…」
「流石にストーリアでもそこまで意味不明なことはしないだろうね…」
「でも見たくない?」
「「…見たい」」
俺もフレアも流石にそこは偽れない、すごい見たいもんそんな面白演奏。それにどんな音が鳴るかも気になるだろ。
「お昼は従者科のメイド喫茶でいいんだよね?」
「ええ、カリーナにもお昼に顔を出すと伝えているわ」
「お昼は美味しいの食べたいよねー」
学園祭期間中は学食がやっていない。外食しないならば学生クオリティの食事になるわけだが従者科ならば普段から貴族子息の食事を作ってる面子、ハズれるわけがない。平民や観光客が貴族気分を味わえるようにと値段もリーズナブルでシーク達も気軽に使える。
「とりあえず開演まで時間も半端だし、ぐるっと回ってめぼしい出店探そうか」
「期間は3日もあるものね」
「まずはじょうほーじょうほー!」
3人で会場を回っていく、やはり初日の開幕直後ということで出店に並んでいるのは観光客や周辺住民などがほとんど、学生達は3日間あるということで俺達同様に情報集めという人が多い。室内では研究の展示や、喫茶店、遊技場。屋外に出れば焼きそばにお好み焼き、タコ焼きに串焼きと定番の軽食。選り取り見取りの出し物が楽しまれている。
「王様が来るのが2日目だよね?」
「ええ、父様も一緒に来るわ。騎士科の武術大会は軍部としても重視しているみたいね」
「外部参加者はそこで腕を見せてスカウト狙いって人もいるみたいだよ?」
「スカウト狙い?」
「遊びに来てる貴族が衛兵だったり近衛だったりにスカウトするのよ。学生は卒業を待たないといけないけど部外者なら即時雇用できるし、求職者側は冒険者を引退したい人とか、武に自信はあるけど地元領主が募集をかけてないとかでこちらにくるの」
「ああ、じゃあ結構大会のレベルって高かったりする?」
「騎士科だって学生とはいえ卒業後は軍人や衛兵、近衛になることを目指して体系的に学んでる以上、レベルはかなり高いわ。だから参加してきたらダメかしら?」
「なにがだからなの…?怪我したら困るからダメって言ってんだよ」
いくら治療魔法があるとはいえ減った血はすぐ戻らないし、筋を痛めたりしたら治療魔法を使っても即座に治るわけじゃない。主演が武術大会で体痛めて降板とかアホすぎる。
「そろそろステージに向かおうか」
「そうね、着替えないといけないし」
「脚本家様推しカプのお2人は大変ですなぁ~」
「「……」」
「いたっ!?痛いって!!ごめんごめんー!」
ストーリアが俺とフレアのカップリングを推していることはもう同期達にバレている。取材のタイミングまでバレなかっただけ傷は浅いが、キャロるんのように事あるごとに煽ってくる奴がいるのでお望み通りフレアと連携を取って粛清する。
訓練場に到着し、キャロルは闇魔法で訓練場全体を覆わないとならないため持ち場へと向かって行った。衣装に着替え、ノエル先生にヘアメイクを施される。
「まさかヘアメイクをするほど本格的になるとは…」
「何言ってるの、ベルデ学園祭で行う以上、学生達の催しとは言え中途半端はさせませんよ?」
「ノエル先生の演技指導もめちゃくちゃスパルタでしたね」
「当たり前じゃない、一ヶ月で最低限の出来にしないとならないし。それに言ってなかったけど、あなた達の演目は芸術科の演劇専攻も注目してるのよ?派手な魔法に見劣りしない演技力は付けて貰わなくちゃ」
「え、芸術科が注目する要素ってあります?」
いくらノエル先生に仕込まれて、かつ芸術科の新入生ストーリアが脚本を書いているとはいえ演じるのは演技素人の魔法科生徒達、本職にしてる芸術科の生徒が注目するような要素はないと思うのだが。
「確かにストーリアさんは天才よ、12歳で芸術科に入学した人間なんて歴代でも数人、その子が脚本を書くだけでも見てみる価値はあるわ。けどそれは脚本に限った話、この演目が注目されているのは魔法が演劇にどのような進化をもたらしてくれるのか、その可能性を見ることができるからよ」
「今まで演劇に魔法を使ったことはないんですか?」
「私の知る限りはないわね。今代の王になってから魔法使いは増えてはきたけど、それでもまだまだ人数は少ないわ。そして魔法の適性があるなら役者や演出装置変わりになるよりもよっぽど確実で稼げる仕事はいくらでもあるもの、劇団なんて不安定な職場にこないわよ」
「なるほど、やろうと思っても出来なかったと」
「やろうと思った人がいるかもわからないけどね。これだけ大掛かりに演出のほとんどに魔法を用いる、魔法を前提とした演出どころか魔法で舞台そのものを変えてしまうなんて、そんな贅沢のために魔法使いを用意できないわよ」
ノエル先生に言われてそれもそうかと納得した。この騎士と姫騎士という演目は演者から裏方まで全員魔法使いだからこそできる演出のオンパレードだ、演技の拙さを演出の派手さで補う暴力的なパワープレイ。
「さて、ヘアメイクは終わったわ。私はフレアさんの様子を見てくるわね」
「ありがとうございました、先生」
「ええ、ちなみにこの演目に注目してる人間には私も当然入ってるから、楽しみにしてるわね」
「リハはやりましたけど、今からやるのは本番ですもんね。期待に応えられるよう頑張りますよ」
俺の言葉を聞いたノエル先生は満足そうに微笑んでフレアのいる別室に向かって行った。女性陣はメイクなんかもあるので従者科のメイドさんも手伝いに来ているらしい、フレア専属メイドのカリーナさんもフレアのメイクの時間だけ抜けてくることになっているとか。
まあ、やることもないし、舞台袖に行って台本チェックでもしながら開演を待ちますか。
30万字到達!友人が新しく読むやつを探すときに基準とするラインが30万字以上らしいのでそれをとりあえず超えました。こんなに続くとは…このリハクの目をもってしても…。
書き始めたころは劇中劇を書くことになるなんて思ってなかったんだけどなあ?なんで2回目の劇中劇書くことになってるんだろうなあ?
ストーリアは天才少女設定ですが劇中劇を書くのは当然私なので実際に書く人は天才じゃありません、これで天才少女?とか言わないで、マジで許して勘弁




