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80 秦始皇軍 1

 楊は泰陵の祭壇の前、貴賓席に向かい話しを始めた。

「私は只今、秦の始皇帝陛下及び世宗憲皇帝陛下の霊魂を此処、泰陵に招来させました。皆様の眼前にお二人の龍身が降臨した訳です。しかしながら、皆様は気を練りましても、その龍身を見る事は叶いません。それには神通力が必要だからです。私は気を練り、神通力によって龍身を実体化させ、この地上に両陛下の魂魄を現実化させましょう」


 楊の説明に、宗人府内書堂の(てい)(えい)(たい)学長が気色ばり、楊の名を呼びながら、祭壇に近付いてきた。

「楊先生」

「何ですか?」


「摂政王、醇親王(じゅんしんのう)載灃(さいほう)殿下からのご下命です。始皇帝陛下の霊魂を降臨させたならば、今日此処に招集した1個大隊の兵士を陛下によって制御して頂きたい。陛下に大隊を率いて頂き、上海共同租界地に進軍して頂きたい。これは殿下の命です」

「生者に転移させるのですか? 進軍すれば戦争になりますよ」

「質問は受け付けません。貴方は殿下の命を実行するだけで、それ以外の選択は許されないのです」


「そうですか」

「直ぐに実行しなさい」


「・・・」

「さあ、早く」


「分かりました」

 短いやり取りの後、丁学長は貴賓席に戻って行った。そして傍に控える大隊長に向かって、兵士全員を至急泰陵前に整列させるよう、命じた。

 大隊長は各中隊長に、早急に泰陵前の石畳広場へ兵を招集するよう命じた。中隊長達はそれぞれ小隊長に、小隊毎の緊急招集を命じる。大隊、中隊、小隊、分隊と命令が下り、約800名の兵士が泰陵前の一段低い石畳の広場に整列して待機させる。


 楊は騒然とした雰囲気の中で法要を再開させた。

「それでは、陛下は降臨して実体化して頂き、泰陵の環境を崩壊されますか?」

「いや、それは勘弁願いたい、鬼谷先生。朕は、折角真人政になれたのだ。現世を崩壊させてしまうなど、神仙の神通力の悪用以外の何物でもない。そもそもが、現世に関与しないのが神仙の立場ではなかったか?」


「そうですね。我らは仙境でのみ生き、外界と関与せず、しかる後彼岸に向かう立場ですからね。わざわざその禁忌を破って、輪廻の輪に戻る愚を犯す真人はおらんでしょうな」

「それを理解しているのなら、鬼谷先生。朕に何かを望んでは困る」


「仰せの通りです。先達として参考意見を伺っただけですので」

「それでは朕も、蓬莱山に向かうとしよう。安期生先生が朕を待っているからな。蓬莱山に招待されてから、2千年以上返書を出さなかったから、多少の詫びはしなければなるまいが、積もる話しもあるし、莫大な褒賞も渡さなければならないし・・・」


「それでは陛下、良い視察を」

「行って参る」



 秦始皇の魂魄は東海の彼方、蓬莱山に向かった。真人政の後姿を見送り、魂魄の痕跡が消えた後、楊は泰陵周辺の天候改変に着手した。

 護摩壇に向かい大量の段木を投入し、香油を注ぎ、壇から大量の白煙を天に届ける。白い筋が幾重にも重なり合い、螺旋を描いて昇る。


「オン、ソラソバテイ、エイソバカ。オン、ソラソバテイ、エイソバカ。」

「オン、ナンダ、バナンダ、エイソバカ。オン、ナンダ、バナンダ、エイソバカ」

「ノウバ、サッタナン、サンミャク、サンボダ、クチナン、タニャータ、オン、シャレイ、シュレイ、ジュンテイ、ソバカ」

 楊は弁才天真言、竜王真言そして准呧観音真言を唱え、段木を投げ入れ、香油を振り撒いた。それを何度か繰り返し、真言を唱える。手印は額の前、胸の前で組まれ、瞑目して真言が流れる。


 数分と経たずして天が俄かに乱れ、風が吹き、気温が急降下。太陽は何時しか厚い雲に覆われ、日差しが消え、辺りは昼なのに薄暗くなる。天候の急変に貴賓席の者は辺りを見回し、整列して待機していた兵は騒めき、泰陵は喧騒に覆われた。

 ポツリ、ポツリと雨粒が天より、石畳に落ちて来る。始めは小さな雨粒であったが、次第に大粒の雨となり、石畳を激しく叩く。目地に溜まった雨水は高所から低所に流れ出し、階段下の広場に大量の雨水が流れ込む。兵士達の足元はすっかり雨水に浸かってしまう。

 それでも大隊長からの命は下されず、中隊長、小隊長、分隊長は不動の姿勢で待機している。しかし、一般の兵卒は右往左往しだす。兵卒の動揺を見て、大隊長は中隊長に、兵に雨合羽着を羽織るよう命じた。軍の規律が乱れると、指揮命令が機能しなくなる恐れがあるからだ。

 雨合羽着用で幾分か兵の動揺は抑えられた。それでも雨音の中から騒めきは、聞こえては来るが。全員が雨合羽の着用を終えた頃、雷鳴が轟いた。だが、雷光は未だ見えなかった。

 これに一部の兵が反応した。小銃などの金属を携えている兵は落雷を酷く恐れている。小銃に稲妻が落ちれば、落命するかも知れない。死亡しない迄も重度の火傷を負うかも知れない。兵の動揺は、少しづつ広がって行った。


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