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74 始皇帝陵 2

「しかし、鬼谷先生。現世と来世の区切りをなし崩しにする暴挙ではないのか?」

「如何にも。さすれば秦始皇陛下。彼岸と此岸の境は守り切らねば、仙境の崩壊にもつながります。摂政王の要請によって雍正帝は死者の軍を統率し、英仏独伊露日に宣戦布告をする準備を進めています。これを防ぐには、陛下の力に縋るしかありません」


「それは鬼谷先生でも可能ではないか?」

「真人や神仙の力は現世を超越したものですが、禁欲に反する力はないのです。本来の仙境に遊び、永遠にストレスを感じない道を目指すものが神仙です。然るに真人政は如何でしょうか? 先程のように海神を使役するのは、神仙と言えども、貴方しか居りません。その力は天魂、地魂、人魂にも及びましょう。霊界、冥界にも影響力を持つ仙真は貴方しかいないのです」


「些か、我を買い被り過ぎではないか。確かに海神を使役する事はあるが。生者、死者の軍を統べるなど、2千年以上も前に行った記憶しかないからな」

「それで十分でございます。何も軍を指揮しろと言うのではなく、子孫の願いを叶えんと動く、雍正帝の霊魂を封じて頂きたいのです」


「雍正帝とは如何なる者だ?」

「はい。大清帝国第12代皇帝でございます。我等と同じく道教の修法に通じ、房中術や導引術は修めたようですが、道半ばで崩御した為尸解仙(しかいせん)となった者です」


「それでは、他愛のない神仙ではないか」

「そうなのですが、彼の者の子孫が現在の王朝を統べておりまして、生者の念が増幅しますので、真人と変わりません」


「それで朕を召喚した訳か」

「左様でございます。しかしながら、その辺りの事情を摂政王は理解出来ず、召喚者の任命も私になった次第です」


「これは面白い。鬼谷先生と知らずに楊鬼山を任命し、朕と雍正帝を召喚して霊界と現世の軍を指揮しようとした訳か。些か浅慮ではあるが、一応の知恵はあるようだな」

「左様で」


「しかし、生者が死者を制御出来ると、本当に考えたのか」

「その辺りは聞き及んでおりませんが。今回の検討団に西夷のフランス人が紛れております。恐らくその者が関係しているのではないかと推察しておりますが、しかとは」


「構わん。それで、朕は如何にすべきか?」

「明日、検討団として私が参りますので、召喚に応じて頂きます。その後、雍正帝の霊魂も召喚しますので、彼の者の力量を推し測って頂きます。陛下でしたならば容易い事かと」


「如何にも」

「その後は陛下のご随意に。陛下のお力を以ってすれば、雍正帝の霊魂を制御する事など児戯に等しいかと。さすれば摂政王も邪な夢を見る事も無くなるでしょう」


「随分に優しくなったものだな、鬼谷先生は」

「陛下以上に仙境での経験がございますので。それに、現世にて仙力を披露するのは、道教の教えに反しますので」


「朕は道教に反する真人か」

「言葉のあやでございますので」


「朕も真人となって長い。秦始皇と呼ばれていた頃よりも、秦王政に近い心持ちになっている事を伝えよう」

「道教の教えに励まれている、と言った処でしょうか」


「世辞か・・・ 久しく耳にしなかった」

「それから、これは余談でございますので、お聞き流されて結構でございます。驪山を中心に、清朝に不満を抱く者達が方々で動いているのが感じられます。陛下の霊廟近くにも感じるものですので、ご気分を害されませんように」


「先生の要望以外に、影響を及ぼす事などない。それが道教の教えであろうが」

「真に。老いては弟子に教えられ、ですな」


 二人の魂魄の交わりが続く驪山にも、鬼谷が触れた反清復明活動を継続している黄の一派が潜んでいる。勿論遠目には、法師が法要を営んでいるようにしか見えないのだが。彼等の活動に、何等の影響も及ぼさないと思えば近付いてこないだろうし、資金源と思われゝば、強襲されるだろう。すると、明日の法要は大丈夫であろうか?


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