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Lv.0でニューゲーム(仮)  作者: 槻白倫
第一章 レベルゼロ
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025 奥の手

 学校の中庭に金属同士がぶつかり合う音が何度も鳴り響く。それと同時に、衝撃が土を抉る音や、コンクリートを砕く音も聞こえてくる。


 花壇やベンチなどがあり、芝生が敷き詰められていた中庭は生徒達の人気も高く、お昼休みによくそこでお昼ご飯を食べていた生徒もいるくらいでった。だが、そんな生徒達の憩いの場所は、今では見るも無惨な光景に変わっていた。花は飛び散り、芝生は剥がれ、木々は薙ぎ倒されていた。


 そんな光景を作った張本人達は今も戦闘を続けていた。


「はあああっ!!」


 恭子が剣を振るい、美波が斧を薙ぐ。


 二人の息のあった連携を女鬼ーーーー殺鬼は、巧みな太刀捌きで受け流す。


 避けるのも防ぐのも難しい連携を難なく捌く殺鬼は、それでも物足りなさを覚えるが、先ほどのふぬけた男よりもましだと思い口角をあげる。


 殺鬼が見せる表情は笑顔と真顔、それと呆れ顔だけだ。そんな殺鬼の表情を驚愕に塗り替えることが出来ない事に少なくない焦りを覚える恭子。


 一時は日陰を傷付けられ、冷静ではいられなくなったが今は美波に諭され、状況を冷静に判断出来るくらいには落ち着いている。だが、それもいつまで続くか分からない。


 日陰を体育館まで運んだミリーと餡子の二人がまだ帰ってきていないのだ。その事が、徐々に恭子に焦らせていた。


「恭子集中しなさい!」


 美波は注意をとばしながら恭子の前に躍り出ると大斧を振るう。恭子は美波が請け負ってくれたので一度後ろに下がる。


「後ろががら空きですわよ!」


 リリスが殺鬼の隙をつき槍を突き出すが、殺鬼は美波の斧をいなしながらもその一撃をかわす。


 不意打ちが失敗に終わっても二人は焦ることもなく連携をとりながら殺鬼に攻撃を仕掛ける。


 その様子を隙をうかがいつつ眺めていると、恭子の待ちに待った声が聞こえてくる。


「待たせた!」


「……お待たせ…」


 ミリーと餡子が戻ってきたのだ。


 二人が戻ってきたと言うことは、日陰の治療が完了したか、想像したくはないがダメだったのかのどっちかだ。


 恭子は懇願するように見る。


 そんな恭子に二人は力強く頷く。


 二人のその動作に、日陰が大丈夫であったことを理解する恭子。だが、そこで安心ばかりしているわけにもいかない。


 今は戦闘中で、相手は自分よりも格上なのだ。


 しっかりと気持ちを切り替えて相手を見据えると地を蹴り隙を作った殺鬼に肉薄する。

 

 踏み込みと同時に鋭い一撃を繰り出す。それを殺鬼は太刀で受け止める。二人は恭子が入ったことで三人で動けるように立ち位置を変えるながらも攻撃を繰り出す。


 三人で連携をとりながらも、恭子は殺鬼を睨み付ける。


「陽向は無事だったようだけど、ワタシはお前を許さない」


 恭子の確かに覚悟の乗ったその言葉に、殺鬼は怪しくニヤリと笑う。


「そいつは結構だよ。それじゃあ、こっからは本気でやってやるかな」


「なっ!?」


 本気。その言葉を聞いて恭子達は愕然とする。


 それもそのはずだ。ただでさえ殺鬼の動きにはこの人数でかかってついて行くのがやっとなのだ。それなのにまだまだ本気を出していなかったとなれば、愕然ともするだろう。  


 殺鬼は思い切り後ろに跳び着地する。


「見せてやるよ。これが鬼の本気だよ」


 直後。殺鬼の瞳がぬらりと赤く光る。その光は血が光を反射したときのような色で、ルビーやピジョンブラッドのように綺麗とは形容しがたかった。


 目が光ると同時に、体から並々ならぬ鬼気が放出され、自然と呼吸が苦しくなる。


 その眼孔と鬼気にあてられ、寒くもないのに体が震えてしまう。


 それは、純粋なる強者に対する恐怖なのだろう。


 恐怖を味わい実感する。勝てない、と。


 無理だ。今までは何とか付いてこられたが、ここからはレベルが違う。いくらミリーと餡子が戻ってきてくれたとはいえ、勝てるわけがない。そう実感させるものを殺鬼から強く感じた。


 恭子は自然と構えた剣を少しだけ下げてしまう。自分の弱さが剣にでているのだ。


 今までの威勢の良さがまるでなくなってしまった恭子を殺鬼はつまらなそうに眺める。 


「な~んだ。お前たちも耐えられないのか。それじゃあーーーー」


 殺鬼は言い終わる前に恭子と距離を積める。


「っ!?」


 恭子は失念していた。


 相手が一瞬たりとも気を抜いてはいけない強敵であることを。


 慌てて剣を構え直すも時既に遅く、殺鬼に完全に間合いを積められてしまった。


「死ね」


 冷徹な死刑宣告。


 それを恭子は諦観とともに聞き入れた。


 脳が死の瞬間をスローで捉えているのか、ゆっくりと迫り来る凶刃を見つめる。


(ああ…ここで、死ぬのかな…いや、死ぬんだろうな)


 数瞬後には殺鬼の太刀に切り裂かれて大量に噴血して命を散らす。そんな未来が容易に想像できる。


(…このまま死ぬのは心残りがあるな……皆のことも…このイベントがどう終結するのかも…………それに、陽向のことも………ああ、死ぬのは嫌だなぁ)


 そんなことを思っても、凶刃は命を刈り取ろうと確実に恭子に迫り来る。


 恭子は諦観を持って目を閉じる。そして来るべき衝撃に備えて歯を食いしばる。


 だが、そんなことは意味のないことであった。


「何っ!?」


 突如、殺鬼の驚愕の声が聞こえてくる。


 恭子は驚いて目を開けると、そこにはさらに驚くべき光景が広がっていた。


 太刀を中途半端に振り下ろす殺鬼。その脇腹に回し蹴りを入れているのは、先程まで瀕死の重傷を負っていた日陰であった。


「ひ…なた…?」  


 思わず日陰の名を呟く恭子。だが、日陰は、それに反応を示すことなくすぐに殺鬼に迫り攻撃を繰り出す。


「くっ!」


 崩れた体制を慌てて整えて日陰の攻撃に対応する殺鬼。問題無く対応していく殺鬼であったが、日陰の繰り出す攻撃に、なぜだか段々と対応できなくなり所々に傷を負っていく。


 そのことに苛立ちよりも、歓喜が先に来て満面の笑みを浮かべる殺鬼。


「やっぱり!お前はやっぱり何か隠し玉持ってた!持ってたね!」


 鬼の本気を使っても対応しきれないその連撃に殺鬼は歓喜する。


「お前なにした?なにした?ここまで凄いと思わなかった!」


 鬼の本気。それは、ある一定以上のレベルを持つ鬼族の中のそのさらに一握りの者だけが使えるスキル「鬼神化」と言われるものだ。


 「鬼神化」は、ステータスの上昇とその他身体能力ーー例えば、ステータスに記載されていない、視力や聴力などーーも上昇させ、さらには鬼族の象徴である「太刀」のステータスも上げる業だ。


 生半可な実力者では太刀打ちできない程のものだ。それこそ、一騎当千を容易くやってのけてしまうほどに強い。事実、「鬼神化」を習得した鬼族は崩壊世界では他国からは恐れられていた。


 それなのに、目の前の何の変哲もない少年は、今殺鬼を追い詰めている。それの理由が分からなかった。


「なんでなんでどうして!わっけわかんない!」


 困惑しながらも、楽しげなその声に日陰は眉をしかめる。


 ここまでの猛攻を繰り出されてもなお笑っていられる殺鬼はやはり戦闘狂であると再確認したからだ。戦闘狂は、差はあるであろうが戦いを楽しむ者達だ。楽しむからこそ、敵の攻撃も自分を喜ばせる要因でしかない。つまりは、どんなに自分を攻める猛攻を受けたとしても、臆することはないのだ。


 日陰としては、臆させて一旦距離を取らせたかったのだが、そうもいかないらしい。


 だから日陰は無理矢理に重い一撃を放ち殺鬼を吹き飛ばす。


 吹き飛ばしてから日陰は、大きな声で叫ぶ。


「一旦お願いします!!」


 それは自分たちに向けての言葉なのかと、恭子達は思った。だが、どうやらそれは違うらしかった。


「まかせとけ!!」


 日陰の叫びに返事を返したのは少しーーいや、かなり意外な人物であった。


 それは、日陰がある日絡まれた人物であり、日陰が嵌められた人物ーーーー岸部裕吾は、無骨な大剣を振りかざし上から殺鬼に向けて振り下ろす。


 殺鬼は咄嗟の判断で大剣を受け止める。だが、それは誤りであった。


 重力+膂力+剣の重量+飛び降りた高さ。それだけの要素が加われば学校でも中堅に位置するレベルのプレイヤーの一撃はかなり重たい一撃になるだろう。


「うっ、ぐううあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 岸部の一撃に歯を思い切り食いしばり左手を太刀の峰にあてて受け止める。


「お前等!今だ!!」


「おっしゃあぁ!!」


 岸部がそう叫べば物陰から岸部のパーティーメンバーが飛び出してくる。苛烈な戦闘で気付いていなかったが、どうやら知らず知らずの内に隠れていたらしい。  

「金本さん!皆さん!一度集まってください!」 

 

 突然の出来事の連続で呆気に取られていたが日陰の言葉で我に返る。だが、我に返るも、なぜ集められるのかがいまいち理解が及ばず棒立ちになってしまう。それに痺れを切らした日陰は再度言う。


「早く!時間がないんです!」


「あ、ああ」


 それで漸く日陰の元に集まる面々。


 日陰は素早く皆が集まったことを確認すると話を始める。


「まずは、皆さんこれを受け取って下さい」


 日陰がそう言って取り出したのは七色のあめ玉だった。


「……………レインボーキャンディー…!!」


 餡子が場にそぐわない気色の声を上げるが、それにかまうことなくレインボーキャンディーを配る。


「この飴には、ステータス上昇効果があります。ですが、すべてのステータスが上昇するわけではなく、自身が上げたいと思ったステータスのみ上昇します。ちなみに効果は任意で段階ごとに上げることが出来ます。最大七段階です。それと、効果時間は十分です。ここまではいいですか?」

  

「あ、ああ。それは分かったが…これを使っても付け焼き刃にしかならないと思うが?」


「ええ。ですが、付け焼き刃でもなんでも手を打たなければ負けてしまいます」


「それには私も同意よ。でも、なんでこれを私達に?それに、なぜ今更協力をしようと思ったの?」


 美波の言葉に日陰は少しだけ表情を曇らせる。


「美波、今は…」


「恭子は黙ってなさい」


「…確かに、今になって協力するなんて虫のいい話しです」


「そうね。あれだけ否定しておいての手のひら返しだものね」


「それはワタシ達にも非があったからだろう?!」


「それくらい分かってるわ」


「だったら!」


「いいんです。瀬高さんの言っていることはもっともなことです。僕も同じ立場であったらあんなに避けられて急に協力するだなんて虫のいい話だって思います」


 そう言うと日陰は伏せがちだった顔を上げて美波の目を見つめる。


「でも、虫のいい話であろうがなかろうが、今は協力しないことにはこの現状を打破できません!ですからーーーー」


 そこで一度言葉を止めるとガバッと頭を下げる。


「僕に力を貸して下さい!」


「陽向…」


「僕がムカつくのならば殴って下さってかまいません!僕が許せないなら無視してくれてかまいません!このイベントが終わってから全部受け入れます!ですから、どうかお力を貸していただけないでしょうか!!」


 今まで見せたことの無いほどの真摯な姿勢に思わず恭子達は唖然とする。


 その静寂が今の日陰には耳に痛い。


 恐らく良い答えは返ってこないだろうと思っている。当たり前だ。散々無視しておいて大変になったから力を貸してくれなんて、虫がいいにもほどがある。


「……その結果があれなのか」


 美波はそう言うと殺鬼と何とか戦っている岸部を見る。いや、戦っているとは言い難い。殺鬼の猛攻に何とか耐えていると言った方がいいだろう。


 あれはもう戦いですらない。殺鬼にとっては暇つぶしのようなものだ。


 だが、それでも凌いでいてくれている。もって後数分といったところだろう。


 岸部が日陰に絡んでいるところを見た。それだから、今の光景が意外でならない。 


 だが、今の日陰のストレートな気持ちに突き動かされたのであれば、美波は、岸部を突き動かした彼を信じても良いと思った。


「君はもう少し今みたいに感情的な方が可愛げがあるな」  


 美波はそう言うとふっと頬を緩める。


「いいだろう。君に力を貸そーーーー」


「そうじゃないだろう美波!」


 美波の言葉を遮り、恭子が少しむっとしたような顔で言う。


「む?」


「協力しあうんだ!どっちかが力を貸すとかそうじゃない!」 


「つまり?」


「力を合わせるんだ!」


 そう言うと恭子は日陰に向き直り肩に手を押いて頭を上げさせる。


「一緒に倒そう!あの鬼を!」


 日陰はその言葉を聞くと、周りの他の面々の顔を見る。


 雪子は微笑んで肯定を示す。


 豊も微笑みをもって肯定を示す。


 円は無邪気に笑いサムズアップで応える。


 リリスは不愉快そうに顔を背けながらも、しょうがないという。


 餡子はあめさえくれればなんでもいいという。


 ミリーは当然だとばかりに頷く。


 美波は肩をすくめながらも笑う。


「あ、ありがとうございます!」


 もう一度頭を下げようとするのを恭子は肩に置いた手に力を込めて止める。


「頭は下げるな」


「は、はい」


「とりあえず、時間無いから話を詰めよう」


「そうだね」


「協力を仰ぐと言うことは、何か秘策があるのですか?」


 雪子の言葉に、日陰は力強く頷く。


「あります。あの鬼の度肝を抜くものが…………多分」


 日陰の最後の言葉に皆は肩をガクリと落とす。


「多分なんだな…」


「すみません…珍しいとは言われたのですが…自分で言っておいてなんですけど度肝を抜くかどうかまではちょっと……」  


「だがそれしかないのだろう?それならば時間もないしそれで行くしかない」  


 ミリーの言葉に皆が頷く。


「それじゃあ、向こうも堪えられなさそうだし行こうかね」


「そうだね~!そろそろ終わりにしよ~う!」


「そ、そうですね!皆さん不安がってますし、早く終わらせましょう!」


「そうよね~そろそろ私も疲れたしね~」


「………………早く飴舐めたい……」 

 

「まだ舐めてはいけな本倉餡子。十分しか効果は続かないのだから。まあ、甘いものが食べたいのは同感ではあるな」


「それなら、さっさとかたずけますわよ!」


「おっし、それじゃあ行こうか!」


 皆が皆、思いの丈を言葉にし気合いを再充填する。そして、最後に日陰を見る。おそらくは何かを言えと言うことなのだろう。


 日陰はそれに気づきワタワタしながら慌てて言葉を紡ぐ。


「えっと…皆さん信じてくれてありがとうございます!僕も信じてますから!」


 そう言うと日陰は恥ずかしいのを誤魔化すようにステータスプレートから剣を取り出す。


「え?それで行くのか?」


「はい。これが奥の手ですから」 

    

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