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Lv.0でニューゲーム(仮)  作者: 槻白倫
第一章 レベルゼロ
27/39

026 これでチャラだ

いつもお読みいただきありがとうございます。


評価、感想、ブックマークとうしてくださると嬉しいです。


特に、ここ誤字あるよーとか、教えてもらえると嬉しいです

 自分よりも格上の相手の攻撃を、仲間との連携を駆使していなし続けるのは、日陰を嵌めた男、岸部裕吾。


 彼は、苛烈な殺鬼の攻撃にもって後数分だと予想する。


 彼は、戦いの中に身を置きながらも、自然と日陰との会話を思い出していた。


 




「岸部くん。少しいいですか?」


 パーティーメンバーと、自分達は何をするべきかと話していると、日陰に声をかけられた。


 日陰の声を聞いて反射的に肩をビクリと震わせる岸部。


 それはそうだ。ちょっとしたイタズラのつもりだったとは言え日陰に大怪我を負わせてしまったのだ。日陰からいつ詰め寄られるかとビクビクしている彼らは、日陰の一言一言に過剰に反応してしまうのだ。  


 そして今。遂に声をかけられ今が断罪の時なのだと悟る。


 日陰が次に口に出すのはあの件のことだ。そう思っていた。

 

 だが、日陰が放った言葉は断罪の言葉などではなかった。 


「お願いします。僕に力を貸してください」


 腰を曲げ、頭を下げる日陰。


 その光景に岸部達は動揺を隠せない。


 だが、そんな岸部達には目もくれず、日陰は言葉を紡ぐ。


「あの女鬼を倒すには皆さんの力が必要なんです。ですので、僕に力を貸してくれないでしょうか?」


「…な、んで…」


 思わず口からこぼれた言葉。それは間違い無く岸部自身の本心であった。


「お前は…俺達がやったって知ってるんだろ?」


 その言葉は、言わずもがなあの日のことを差している。日陰もそのことを理解しているのか、頭を下げたまま肩をピクリと震わせる。


 日陰が自分達が犯人だと知っていると分かったのは、日陰にイタズラをしたその日の内だ。


 彼がダンジョンから出たときに、岸部達は顔面蒼白になり恐れおののいた。その様子を日陰は横目でちらりと見たのだ。だから、日陰は自分達が犯人であるとあたりをつけたのを理解したのだ。


 だからこそ、日陰の今の行動の理由が、不可解極まりなかった。


「なのに、なんで俺達に頭を下げてんだよ…」  


 弱々しく口から漏れる言葉。


 岸部にしてみれば、いっそのこと罵倒してくれた方が気が楽だった。罵倒であれば、自分達はそのまま受け入れられたのだ。だが、日陰の口から出て来たのはお願いだけだった。それは岸部達にとっては理解できないものであった。


「なんでお願いなんてするんだよ。頭なんて下げんなよ。俺らはお前をはめたんだぞ?だったら俺らを罵倒しろよ…」 


 岸部の言葉は事実であり、道理であり、願いでもあった。


 だが、そんな願いすらも、今の日陰には関係のないものであった。


「今はそれどころじゃないんですッ!!」


 声を荒げながらガバッと顔を上げる日陰。突然の事に、動揺する岸部達。


「今しなくちゃいけないことは罵倒することでもされることでもないんです!今はこのイベントを終わらせることが最優先なんです!あなた達が許しを請うのであれば、イベントが終わったら幾らでも罵倒しましょう!あなた達が望むのならば、罪も与えましょう!でもそれはすべてが終わってからです!」


 そこまで言い終わると、日陰はまた頭をがばっと下げる。


「ですので、イベントを終わらせるためにも、力を貸して下さい!」


 なぜ。それが、岸部の頭に浮かび上がる言葉であった。


 岸部達は一度、日陰をはめたのだ。そんな前科があるのだから、信頼するには値しないはずだ。それなのに日陰は数あるパーティーの中の岸部達を選んだ。それが理解できなかった。


「俺達は…お前を…裏切るかもしれないんだぞ?」


 それなのになぜ?そんな思いを込めて出て来た言葉。


 日陰は、頭を上げると答えを言った。


「この中で、岸部君達のパーティーがトップクラスなのが一つ。そんな岸部君達じゃなきゃ、女鬼の足止めを出来ないのが一つ。そして何より……この事でくだんのことをチャラにしようと思っているのが一つです」


「…そんなことで…チャラに?」


「そんなことじゃないですよ。彼女は強いです。下手をうてば足止めとは言え死ぬかもしれません。いえ、足止めされたことで苛立って殺しにかかるかもしれません。それくらい、岸部君達に頼むことは危険なことなんです」


 そう言われ、岸部も納得する。


 あの女鬼は想像以上に強い。一度相対しただけでそれが分かった。だから、死ぬかもしれないというのもあり得ない話じゃない。


「どうですか?受けてくれますか?」


 不安げに揺れる日陰の瞳。その中には確かな恐怖が見て取れる。手は微かに震えていてとても無理をしているのが分かる。


(俺はクズか!!)


 いや、実際クズだ。レベルゼロだからといって目の敵にして子供じみたイタズラをして、挙げ句日陰に重傷を負わせたのだ。これをクズと言わずになんと呼ぶ。


 今目の前に立っているのは、自分達と何も変わらないただの一人の男ではないか。自分達と同じクラスにいるただの級友ではないか。


 たとえ日陰がレベルゼロだからといって変わっているのはその事だけだ。他は何にも変わらない。世界が変わる前であればただの優しげな一人の高校生だ。特別な事なんてありはしないのだ。


 そんな当たり前なことに今更気づいた。 


 もう、遅いかもしれない。今更気づいたところで巻き返しは利かない。日陰にしてしまった罪は消えない。自分達の評価は最低最悪のクズだ。それも変わらない。  


 でも、変わらないのは現状を変える気がないからで、変われないのは現状を受け入れているからだ。


 ならば、動けばいいだけだ。変えるために動けば、最低最悪のクズが、最悪のクズに変わるかもしれない。対して変化はないだろうが、それでも変わるんだ。それならば変えるために動くのだ。


「分かった。その役目、俺達がやる。いや、やらせてくれ」


 岸部のその言葉に、日陰お表情はパアッと明るくなった。仲間を見れば皆異存はないと言った風だった。皆、岸部と同じ結論に至ったのだろう。


 そのことを確認すると、岸部は一度日陰に目を合わせると、ガバッと勢い良く頭を下げた。


「それと、すまなかった!許してくれとは言わない。これで償えるとは思っちゃいない!それでも謝らせてくれ!すまなかった!」


 岸部が頭を下げると皆も頭を下げた。     


 その行動に、最初こそ日陰は驚いたような顔をしていたが、徐々にその表情を穏やかなものにしていく。


「えっと、皆さん顔を上げてください」


 そう言っても、顔を上げようとしない岸部達。


 それに少しだけ苦笑しながらも、日陰は仕方無しとそのまま続ける。

 

「ご協力、感謝します。それに、先ほど言ったとおりこれでチャラです。そのことを今更撤回するつもりもありません。それよりも、今はやらなくちゃいけないことがあります」


 日陰のその言葉に、岸部達は顔を上げる。


「行きましょう。鬼退治に!」







 激しい連撃を受け、意識を戦闘に戻す。無意識のうちに思い出していたが、戦闘中にこれは危険であった。まあ、生きているのだ。それでいいだろう。


「岸部君!下がってください!」


 そんなことを考えていれば、日陰から退避の合図がかかる。どうやら、時間稼ぎはうまくいったみたいだ。


「お前ら!順番ずつ退避しろ!」


 仲間に指示を出しながら自身も退避の準備にかかる。自分の退避は一番後だ。


 一番後と言うことは、一対一で殺鬼と相対しなくてはいけないという事だ。それは他の者よりもかなりの危険に身をさらさねばならないという事だ。


 だが、パーティーで一番レベルが上なのは自分であるし、パーティーリーダーも自分だ。ならば、一番の危険を冒すのは当然の責務と言うものだ。


(これで全部チャラになるとは俺は思っちゃいねえ!)


 当たり前だ。自分はもう少しで取り返しの着かないことをしてしまうところだったのだ。今回はたまたま運が良かっただけだ。最悪の場合、日陰は死んでいた。それは立派な殺人だ。


 その悪質さから、この世界になってからMPKも立派な殺人罪になったのだ。


(本当なら、真っ先に謝るべきだった!)


 でも怖くて出来なかった。自分のしたことの愚かさを理解して、自分のしたことの罪の重さを理解して。 


 それでも学校に通っていたのは、自分が普通にしていればそのうち有耶無耶になって終わると思ったからだ。それに学校に行かなければ疑われるのは自分だとも思った。


(実際そんなことはない!有耶無耶になんて終わるわけがなかった!)


 終わることがなかったから今回、件のことを条件に日陰に頼まれたのだ。   


(こんな重たい罪、有耶無耶になんてなるわけ無かったんだよ!)


 一人、また一人と、仲間は離脱していく。


 そうすれば自然と、相手の攻撃の手数もこちらに多く来るようになる。


 嵐のような連撃に怖くなり、思わず引いてしまいたくなる。


(逃げんな!向き合え!) 


 それはどちらに対してなのだろうか。いや、その疑問は正しくない。なんせ疑問は疑問になり得ていないのだ。答えはもう疑問になるまでもなく決まっているのだから。 

 

(チャラにしてもらえるとか甘えんな!相手が怖くても逃げんな!)


 岸部は覚悟を決める。


 そしてとうとう最後の一人が離脱する。そのタイミングに少しずらし、岸部も離脱すべく後ろに跳ぼうとする。


「逃がすかあぁ!」


 楽しげに笑いながら追いすがる殺鬼に、岸部は怒声を飛ばす。


「逃げるかボケェ!!」


 後ろに跳ぼうとした足を踏ん張り直し、後ろとは間逆の、つまりは真正面に跳ぶ。


 後ろに跳びすさろうとした岸部に追いすがるように前に跳んだ殺鬼とは、必然的に距離を詰め合う感じになる。それが岸部の狙いだ。  


 向こうはこちらの行動が予想外だから、対応が遅れる。だが、こちらはあらかじめ決めていたことだ。対応はすぐだ。


 振り下ろされる太刀をかいくぐり、殺鬼の腹めがけて大剣を振るう。


 慌ててブレーキをかけて後ろに飛び退く殺鬼だが、少しばかりタイイングが遅い。


「おおうらああぁ!!」


 気合いとともに一閃。


 殺鬼は浅くも、されども深くもない一撃を食らう。


「ぐあっ!!」


 それを確認することもなく、今度こそ退避する岸部は最後に声を張り上げる。


「後は任せた!陽向!」


「任されました!」


 陽向は力強く返すと、岸部の横を駆け抜けた。 



  

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