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Lv.0でニューゲーム(仮)  作者: 槻白倫
第一章 レベルゼロ
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016 『復活の双鬼』

 日陰が閉じ込められると言う事案から一晩が過ぎた翌朝。日陰は、今日は学校に来るも教室に行くことはなく、校長室へと足を運んだ。


 いつもと同じで人の少ない時間帯。校長室へ向かう廊下には人の姿はなく、たまに早く登校した先生方とすれ違うくらいだ。


 日陰は校長室に着くと扉をノックした。


『入りたまえ』


「失礼します」


 中からノックに返事が返ってくると、日陰は扉を開け校長室の中に入る。


 中には高級そうな椅子に座りコーヒーを飲む瑞穂の姿があった。


 瑞穂はカップをソーサーに置くと日陰を見て、笑顔で挨拶をした。


「おはよう。元気そうで何よりだよ」


「おはようございます。…元気そうに見えますかね?」


「ああ、顔色だけはな」


 そう言われ日陰は納得をする。  


 昨日は帰った矢先から三人にもう休めと言われたのだ。

 

 別に体が怠いわけでも痛みが残ってるわけでも無かったのでお夕飯を作ろうとしたら、三人に押さえつけられ、担ぎ上げられ、無理やりベッドに放り込まれてしまった。


 真月が見張りについて、満月はさっさとお弁当を買いに行った。日陰は、少しでもベッドから出ようとすると真月はササッと動き、日陰に何をしようとしたのかを聞いてから、日陰の変わりに真月が動いた。普段ボーッとしている真月からは考えられないほどの速度であった。


 因みに太陽はと言うと、何かをやりたそうにしていたが、二人に邪魔だからじっとしててと言われシュンとうなだれていた。


 まあ、そんな事もあったので、日陰はその日動くことを諦め大人しくベッドで横になった。そして気付いたら眠っていたらしく起きたら朝になっていた、と言うことだ。それなりに早い時間から寝たので顔色だけが良いのもそのためかもしれない。


 ただ、顔色は良くなっても重い雰囲気というか、オーラだけはどうにもならないのだろう。それか、日陰の今の気持ちが顔に出てたので瑞穂にそう言われただけなのかもしれない。

 

 まあ、どちらにせよ瑞穂には気付かれてしまっていたのだ。取り繕っても仕方ないだろう。


「昨日はぐっすり寝れましたから、顔色が良いのはそのせいでしょう」


「ふむ。それは重畳だ。ゆっくり体を休めることが出来たのならそれに越したことはないからね」


 瑞穂はそう言うと、手で席に座るように促してきた。


 それに素直に応じて、日陰は応接用の柔らかいソファーに腰掛けた。


「さて……それじゃあ今日の予定の再確認といこうじゃないか」


「はい、よろしくお願いします」


「うむ。まずは、今日の予定としては、一時限目の授業の開始とともに我々はダンジョンに向かう。そしてダンジョンの調査を行い、進展はどうであれ放課後までには帰ってくる。と言ったところだったね?」


「はい」


「うむ、相違ないようで良かったよ」


 瑞穂が日陰に今日の予定を確認してきたのは、今日の予定を立てたのが日陰だからだ。


 昨日、帰る前に今日の予定を日陰の方から提案したのだ。


 理由としては、できるだけダンジョン攻略の人達と会いたくないので、会わないように時間の調整をしたかったからだ。


 ただ、瑞穂が予定を決める前に言っていたように、レベリングの授業は一時的に中止されるみたいなので、日陰が決めた予定もあまり意味をなさないが、出発と帰還の時間を決められただけでも重畳と言えるだろう。


「さて、そうなると出発までにはそれなりに時間があるな…」


 ふむ、と腕を組む瑞穂。瑞穂は腕を組むのが癖なのか良く腕を組むところを見かける。これは日陰にとって、いや、男性陣にとってっは非常に厄介なものである。


 瑞穂が腕を組む度にその胸が強調されるのだ。そのため日陰は瑞穂が腕を組むと決まって目をそらす。


 瑞穂は日陰が目をそらしたのを見るとニタアっと悪い笑みを浮かべる。


「んむ?どうしたね、目をそらして」 


「え!?い、いや、何でもないです」


「何でもないなら目をそらさなくても構わないだろう?」


「べ、別にそらしてなんか…」


 瑞穂は椅子から立ち上がるとコツコツと靴を鳴らして近付いてきて日陰の隣に座る。


 腕を組んだままズイっと体を近づける。


「それならば、こっちを見てくれてもいいだろう?」


「うっ…」


 日陰は瑞穂が近付いた分だけ身をそらす。 


「うん?どうして体を反らすんだね?」


「こ、校長先生が近すぎるからですっ」


「そんな事は無かろう?」


「そんな事あるんですっ」


 体を反らす日陰を瑞穂は面白がって構う。


 日陰は心底困ったような顔で瑞穂を止めようとするが、一向に止まってくれそうもない。


 それに耐えきれなくなった日陰は、思わず口走ってしまう。


「校長先生。は、はしたないですよ!」


 その一言で瑞穂は石像のようにピタリと止まる。

 

 数秒間瑞穂は固まると、やがて動き出し、居すまいを正し、慌てた口上で言い訳をつのった。


「い、今のは、冗談だぞ?いつもこんな事やってるわけじゃないぞ?ちょっとからかってみようかな~って思っただけだぞ?」


 ちょっと焦りながらも、そう言い訳を並べる瑞穂。どうやら、日陰にはしたないと言われて焦っているらしい。


 瑞穂も、意中の相手にはしたないとは思われたくはないのだろう。


 だが、そんな事は日陰の知るところではない。


 日陰は、引いた身を戻しつつも言う。


「今後は冗談でもやめてください。僕も反応に困ります」


「…はい。承知しました…」


 しょぼーんとした顔で返事をする瑞穂。その姿は、いつもの大人びて見える瑞穂ではなく、親に怒られてしょぼくれている子供のようであった。


「それと、みだりに異性にそんな事はしてはいけません。分かりましたか?」


「は、はい…」


「男は狼なんです。魅力的な女性にそんな事をされたら、手を出したくなってしまうのが男なんです。ですので気をつけてください」


 続けて言葉を紡ぐ日陰に、瑞穂は思わず呟いてしまう。


「な、なんで私は年下の、しかも生徒に叱られてるんだろう…」


「気・を・つ・け・て・く・だ・さ・い」


「は、はい!了解いたしました!」  


 敬礼付きで返事をする瑞穂を見て、日陰は満足そうに頷く。


「分かればよろしいです」


 瑞穂は、日陰に叱られたのが不服なのか少しだけ頬を膨らませた。


「君は何だか親みたいな事を言う」 


「よく言われます」


 せめてもの意趣返しにと思って言った言葉も、日陰のあっさりとした肯定により、意味がなくなる。


 瑞穂は一つ息を吐くとソファーに体を預けた。


 だが、数秒後、思い出したようにはっとした顔をすると勢いよく起きあがった。


「ど、どうしたんですか?」 


「いや、忘れるところだった」


 驚き顔の日陰にそれだけ言うと、瑞穂は急にステータスプレートを出現させるとなにやら操作をし始める。


 頭にハテナマークを浮かべながら瑞穂を見ていると、やがて、瑞穂のステータスプレートから一本の鉈が出現する。


 日陰が使っているのより、とても上質な物であろうことは見るだけで判断できた。


 瑞穂が鉈の柄をこちらに向けてくるので、受け取り、鉈のステータスを開くよう念じながら指で二回タップする。


 鉈のステータスを見たが、日陰の見た感じと同じだった。


 武器のランクが日陰の使っているやつよりも上だった。


「それは君にあげよう」


「え?いや、悪いですよ」


 そう言って、鉈を突き返す日陰に瑞穂は苦笑しながら言った。


「君が貧相な鉈で戦ってるのを見ると、こちらがひやひやするんだよ。それに、私は鉈なんて使わないから、遠慮することはない」


 瑞穂のその言葉に、日陰は少しだけ考えるような仕草を見せる。が、鉈をステータスプレートにしまうと言った。


「分かりました。大事に使わせていただきます。ありがとうございます」


「うむ、大切に扱ってくれたまえよ」


 と、そこでタイミング良くホームルーム開始のチャイムが鳴る。


「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」


 少しだけ声に緊張を含ませた日陰がそう言って席を立つと、瑞穂もそうだなと言ってコクリと頷きソファーから立ち上がった。





 所変わりダンジョン入り口前。


 二人は横に並びダンジョンの入り口前に立つ。


 余裕そうな瑞穂とは打って変わって、日陰は顔を少しだけ青ざめさせていた。


「大丈夫かい?」


「え、ええ。何とか…」


 口ではそう言うが、日陰の内心は結構いっぱいいっぱいであった。自分が死にかけたところなのだから無理もないだろう。 


 瑞穂も日陰の態度からそれくらいは分かっている。


 だが、日陰を止めるようなことはしない。


 もしここで止めてしまったら、彼はダンジョンを恐れて、二度とダンジョンには入れなくなってしまうかもしれない。


 それどころか、自分を陥れようとした「人間」と言う者を信じられなくなってしまうかもしれない。 


 そうなって欲しく無いので瑞穂は止めない。


 どうにかして自分の感じている恐怖を乗り越えて欲しい。  

 

「さて、そろそろ中に入ろうか」


「え、いや…もう少しだけ…」


「ここで引き延ばしていてもどうにもならないよ。君も、それは分かっているだろう?」


「……はい」


 そうだ、ここに突っ立っているだけでは何も変わらない。


 日陰は一つ深呼吸をすると覚悟を決めたのか、よしっと言う。


 ダンジョンに一歩踏み出そうとした瞬間


『ビーー、ビーー、ビーー、ビーー』


 と、謎のアラートが鳴る。


『ビーー、ビーー、ビーー、ビーー』


「な、なんですかこれ?」


 恐らく町中に響いているであろう程の大音量の謎のアラートに狼狽する日陰。


 日陰の言葉は事新世界の事情に詳しいであろう瑞穂に向けて言った言葉だった。


 だが、日陰の言葉に瑞穂は答えない。


 日陰が瑞穂の方を向く前に、アラートは一旦止まった。だが、それだけで終わりではなかった。


『只今より、突発性イベント『復活の双鬼』が開始されます』


 アラートの後鳴り謎のアナウンスが響く。二年前のとは違う、男とも女ともつかぬ声ではなかった。機械的で、無機質な声だ。


『イベント開始までの準備時間は三十分です。それまでにプレイヤーの皆様は準備を整えてください。繰り返しますーー』


「一体…なにが……」


 先ほどから何も反応を示さない瑞穂を怪訝に思った日陰は、意見も聞きたかったので瑞穂の方を向いた。


「校長…先生…?」


 瑞穂の顔を俯かせており表情は伺えない。だが、顔の見えない瑞穂が奥歯を噛みしめるのが分かった。


「陽向君、すぐに学校に戻りますっ!」


「え、ちょっ」


 切羽詰まった声でそう言われ手を引かれる陽向。


「先生!一体何がっ…!?」


「今説明している時間はありません!…陽向君、舌を噛まないように!」


「へ?うわぁっ!?」


 瑞穂は日陰を引っ張りその体を宙に浮かせると自分の腕の中に納める。左腕で肩を抱き、右腕で膝の裏を抱く。いわゆるお姫様だっこと言うやつだ。


「え、ちょ」


 いきなりのことで軽く赤面するが、間近に見た瑞穂の顔を見てその赤面もどこかへ行ってしまう。


 瑞穂の顔はこれまで見たことがないくらい焦りを浮かべていた。今朝、校長室で見た焦った表情とは違う。あれとは比べ物にならないほどだ。


「………」


 瑞穂の表情に思わず声が出なくなる。


 日陰はそのまま、瑞穂に声をかけられないまま、学校へとかかえられていった。


 

 

    

 

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