017 開始:復活の双鬼
久しぶりのこうしんになります
お待たせいたしました
学校につき、漸く降ろしてもらえた日陰。校庭で体育をしている生徒に見られるのではないかと懸念していたのだが、どうやらそれは杞憂だったようで、校庭には誰もおらず、日陰達の姿は誰にも見られることはなかった。それどころか、校舎の方にも人の気配は無かった。
「誰もいませんね」
日陰の問い掛けに瑞穂は答えずに、スタスタと歩いていく。事ある毎に日陰に絡んでくる瑞穂にしては珍しい反応であった。
自分を置いてスタスタ歩いていく瑞穂の後ろを、慌てて追いかける。
「誰もいないのは体育館に集合しているからだろう。こういう時は生徒を体育館へ誘導するよう、教員達には言ってある」
先ほどの問いかけの答えを振り返りもせずに答える瑞穂。その声には余裕はなく、焦りだけが伺えた。いつも余裕を見せた言動をとる彼女にしては珍しいことだ。
「…どうやら君は、突発性イベントの危険性をよく分かっていないようね」
脳天気に彼女の今の状態を観察していた日陰に気付いたのか、瑞穂はそう言った。
事実、日陰は突発性イベントの事を理解しておらず、これから何かが起こるということしか分かっていなかった。
「突発性イベントは、読んで字の如く突発的に起こるイベントのことよ。このイベントはプレイヤーに拒否権は無く、強制参加が義務づけられているわ。今回の指定範囲はこの町ね」
瑞穂の言った説明に日陰は愕然とする。
「え?そ、それじゃあ…この町にいる人、全員参加って事ですか…?」
「ええ、その通りよ」
「僕より弱い人も、お年寄りも、子供も、病人も」
「ええ、だから全員よ!全員!プレイヤーに拒否権は無いの!向こうが死ぬか、こっちが全員死ぬかしか無いのよ!」
そう言い放った後、瑞穂はハッとするとバツの悪そうな顔をした。
「ごめんなさい。私も今はあまり余裕がないの」
「い、いえ、大丈夫です。こちらこそ、すみません…」
「……今は、とにかく時間がないの。急ぎましょう」
「はい…」
そう言うと瑞穂は、歩くスピードを速める。
その後ろを、日陰は黙ってついて行った。
○ ○ ○
瑞穂が向かった先は体育館であった。
体育館の中にはもうすでに生徒が集まっており、入り口から入ってきた日陰と瑞穂は注目の的であった。
「陽向君。君はお兄さんの所に行きなさい」
「え?」
「あ、お姉さん方の所でもかまわない。とにかく、クラスメート達とは顔をあわせづらいだろうから、どちらかに行ってかまいません。君のクラスの集まるところに行っても平気だというのであれば止めはしませんが」
「……クラスに戻ります」
この注目された中で太陽達の所に行くのは恥ずかしかったし、クラスの所に戻っても最後尾であれば問題はないと思ったのだ。最後尾であれば、人に囲まれることもないし。
「…無理そうだったら、私が話している最中でも構わず移動しなさい」
瑞穂はチラリとこちらに視線を向けるとそれだけ言って先生方が集まる場所へと行ってしまった。
話している最中に移動したらそれこそ目立ってしまうだろうに。
まあ、今はそんな事はどうでもいい。
日陰は瑞穂の背中を見送ることもなく自身のクラスメート達が列ぶ列の元へと行った。
歩く最中に少しだけ視線は感じたものの、殆どの人がこれから始まる突発性イベントについて話をしていた。だが、それでも視線を向けられるのはいやなので、下を向いて歩いた。そうすれば、クラスメート達からの視線も気にならなかった。少しだけ視線は感じたものの、自分のクラスの所にたどり着くことが出来た。
クラスの列の最後尾に並び、板張りの床の木目を凝視する。注意を逸らしていないとクラスメートが怖くて仕方がないのだ。今も微かに手が震えている。
「お、おい」
突然声をかけられ肩をビクリと震わせる日陰。恐る恐る声のかけられた方を見ると、そこには恭子が立っていた。どうやら、下を向いていて気付かなかったが恭子の隣に並んでしまったらしい。
失敗したと思いつつ日陰は聞こえなかったとばかりにまた床の木目を凝視する。
さすがにこれは苦しいだろう。ビクンと跳ねてしまったし、顔もばっちり見てしまった。
「いや、それはさすがに苦しんじゃないか?」
恭子もそう思ったのか、声に少しだけ呆れを含ませてそう言った。
それでも日陰は知らんぷりを貫く。
「ちょっとあなた!無視すること無いんじゃないの!?」
リリスが黙りこくる日陰に痺れを切らし、声をひそめながら言ってくる。
それでも日陰はやっぱり知らんぷり。
「あなたねぇーーーー」
リリスがさらに声を荒げようとしたところで、スピーカーからザザッとノイズが流れる。
『皆さん静粛に。これより藤堂校長よりお話があります』
スピーカーから聞き覚えのある女性教諭の声が流れると、瑞穂がステージに上がる。ステージに上がる瑞穂は、凛としていて、こんな時でも人の目を引きつけて止まない。今も幾人もの生徒が彼女に見とれている。
瑞穂はマイクの前に立つと咳払いを一つしてから口を開いた。
『皆さんは今の状況がどう言ったのもかご存じですか?今回、突発型の強制イベントが開始されました。これはこの町をフィールドに指定し、この町の住民を強制的に参加させるイベントです。ですので、このイベントが終わるまでこの町から出られません。条件を達成するか、こちらが全滅するまで続きます』
瑞穂の説明を聞き皆がどよめく。それも、無理無からぬ事だろう。強制参加で、しかも退場は死を意味するのだ。
だが、瑞穂の話はまだ終わってない。
『皆さん静粛に!話はまだ終わってません。強制イベントが開始されるまで、残り時間は約二十分です。その間に、生徒の皆さんは住民の避難誘導や、高レベルの生徒にはイベントクリアのために戦ってもらう準備をしなくてはいけません。その割り振りをしますので、この後担任の先生の元に集まり指示を仰いでください。それと、最後に皆さんにお願いがあります』
瑞穂はそこで区切ると真剣な眼差しで皆を見据えると言った。
『必ず、生きてクリアをしましょう。守りたいものを全部守って、倒さなきゃいけない敵を全部倒して、全員で生きてクリアをしましょう!』
瑞穂のその強い意志のこもった言葉に生徒は皆活気づく。
まあ、美女にそう言われれば誰であっても活気づくというものだ。
『さあ。それでは、各担任の先生方の指示に従って行動して下さい』
最後に瑞穂がそう言うと、体育館の脇に控えていた担任の先生方が各担当のクラスのところへと移動する。
日陰のクラスにも担任の先生がやってきた。その後ろには、なぜかミリーの姿が見受けられた。
日陰達の前まで来ると、長いボサボサの髪を後頭部で一括りに縛っている日陰達の担任である女性教諭、久遠茶穂が指示を出し始める。
「それじゃあ皆。指示をよく聞いてくれよ。まずは、うちのクラスはここ、日野坂高校に一般市民を誘導する誘導班。拠点となるここを守る防衛班。最後に、イベントクリアを目指して敵の殲滅をする攻撃班の計三班に分かれてもらうことになった」
「そして、私が護衛班の補助を担当することになった」
どうやら、ミリーは防衛班に付いてここを守るのが仕事らしい。
「そんじゃあ、班決めはもうすんでっから手短に言うぞ。あっ、意義は認めないからな。これは藤堂校長の決定事項だ。いいな?」
久遠の言葉にその場にいる全員が息をのむ。それはそうだ。なんせ、イベントなどには受けるか受けないかの拒否権があるのだ。それが今回は拒否権が無いときたのだ。しかも、今回の突発型のイベントは強制参加。勝つか負けるかの二択だ。勝ちは生還を、負けはそのまま死を意味している。
逃げられないし、この町には多かれ少なかれ守るべき者がいるのが大半だ。どの道、逃げるという選択肢も、イベントを拒否するという選択肢も、瑞穂の指示を無視するという選択肢も無いのだ。
自身にある道は一つだけ。戦って勝つことだけだ。
そのことが分かっているのか、覚悟を決めた彼等は息をのんだのだ。
「それじゃあ、班を発表すんぞ!時間ねぇから、一回しかいわねぇから静かにしてろよ?それじゃあ、まず攻撃班ーーー」
久遠が班分けを発表していく。日陰はそれを他人事のように聞いている。
日陰にしてみればどの班になったところで、やることは変わらないのだ。自分の身を守りつつ、家族を守る。ただそれだけだ。
幸い、父親の仕事場は突発型イベントのエリア範囲外だ。守るべき者が一人安全圏にいるので少しばかり安堵してしまう。
久遠の声を聞きつつ、日陰はちらりと太陽達のいる方を見る。
向こうも班決めをしているのだろう。先生の話を聞いている皆の目は真剣そのものだ。
そして、太陽も満月と真月も班が決まったようだ。三人とも同様に苦い顔をしていることから、どうやら三人は攻撃班に決まったようだ。
何故苦い顔をしているのかは大体想像が付く。大方、攻撃班になってしまったから日陰を守ることが出来ないとでも思っているのだろう。
その予想は正しかったのか、三人はこちらを見ると口パクで「ごめん」とだけ言ってきた。
日陰はそんな三人を心配させないように、優しく微笑む。
日陰の表情を見た三人は申し訳なさそうな顔をしたが、すぐにその表情を引き締めた。これも大体予想が付く。
日陰が危険にさらされないよう、一刻も早くボスを倒そうと思っているのだろう。その目には確かな決意と、確固たる意志が宿っていた。
その目を見た日陰は無理だけはしないで欲しいと思いながらも、久遠の声に耳を傾ける。
今の所、日陰の名前は呼ばれていない。どうやら、攻撃班でも誘導班でもないらしい。それならば消去法でいくと防衛班と言うことになる。
「最後のパーティー、金井ん所のパーティーとプラスアルファで陽向も防衛班だ。と言うわけで以上だ!攻撃班は九重さんのところに!誘導班は鈴本さんのところに行ってくれ!防衛班はそのまま待機!指示はミリーさんが出してくれる!」
久遠はそう言うと、自分はどこかへと行ってしまう。多分、瑞穂に次の指示を仰ぎにでも行ったのだろう。
さて、とりあえず防衛班に決まったわけだ。やはりレベルゼロには下手に前線に出て死んで欲しくないのだろうな。賢明な判断だ。
日陰は、その場に残りミリーの話に耳を傾けている生徒から少しだけ離れたところでその声を聞いていた。
指示が終わると、防衛班の皆は一様にどこかへ行ってしまう。日陰は、元々戦闘用の装備だったからいいが、他の者は制服だったので着替えに行ったのだろう。
そうなれば、日陰がここにいる意味はない。
日陰は体育館の空いている端の方に行き座り込む。
すると、すぐに日陰の後を追ってきたのか日陰の前にミリーが立ち尽くす。
「さっきの話はきちんと聞いていたか?」
「…ええ、聞いてました」
彼女と話すのも随分と久しぶりになるな、唐突にどうでも良いことを考える。
「そうか。ならば良い……隣、座るぞ」
許可ではなく決定事項なのは何故なのだろうか?と疑問に思うが、ここで断ってもイヤな奴になってしまう。日陰は人を遠ざけたいが、嫌われたいわけではないのだ。
ミリーの言葉に、日陰は頷くこともなくボーッと体育館の床を眺める。
ミリーは宣言通り日陰の横に腰を下ろす。
「…」
「…」
隣に座った割には何も話さないミリー。
日陰としては、沈黙は苦ではないので別にかまわないのだが、わざわざ隣に座ったのだから用があったのでは?と思ってしまう。
そんな日陰の気持ちが伝わったのかは分からないが、ミリーはおもむろに口を開いた。
「…怖いか?」
「…それは戦うのが、と言うことでしょうか?」
「……それもある。が、それだけじゃない」
ミリーはそう言うと日陰の方を見つめる。
「…クラスの皆が…怖いか?」
ミリーのその言葉に思わず反応してしまいそうになる。だが、すんでのところで自分を抑える。ただ、自分を抑えるのに手を強く握ってしまったのでバレているかもしれない。
「…いきなりなんですか?変なこと聞かないで下さい」
「藤堂校長から話を聞いた」
しらを切ろうとしたところで、またもや思わぬ事を言われる。
「………それなら、しらを切るのも無理みたいですね…」
「ああ。だから、全部話してしまってかまわない」
「……怖いですよ、皆…」
そう言いながら日陰は俯き立てていた膝に顔を埋める。
「怖くて怖くて仕方ないですよ。誰が僕をあんな目に遭わせたのか分からない。何人か怪しい人はいてもその人達が犯人だって言う確証もない。だから、クラスの皆が怖いです。あの中に僕をMPKしようとした人がいると思うと吐き気が止まりません。……僕はなにかしましたかね?誰かに殺されそうになるくらい酷いことしましたかね?誰かに恨まれるようなことしましたかね?」
言っている内にポロポロと涙がこぼれてくる。その涙を見せないよう、より一層膝に顔を埋める。
「僕は極力人に関わらないようにしていたので、人から恨みを買うようなことはしていないつもりです。それも、殺されそうになるようなことなんて一つもないですよ。……………僕が、レベルゼロだからですかね?僕が異端だからですかね?………………………もう…どうしていいのか…分からないですよ……」
ミリーは涙を流す日陰をそっと抱き寄せる。
かけるべき言葉がなんなのかは分からない。だけど、こうしてあげたい、そう思ってしまったのだ。
体育館には未だに多くの人がいるが、二人のその様子に気付いた者はそういない。皆自分の事に追われそれどころではないのだ。その事にちょうどよかったと思いながら、ミリーは日陰の背中を優しくさすった。
すると、突然鳴り響くアナウンス。
『準備時間が終了いたしました。只今より、イベント、「復活の双鬼」を開始します』
アナウンスの直後、空気を渡り響く爆発音が鳴り地鳴りが起きた。




