4.マジック1の夜
季節は進み、秋。
タイガースは圧倒的な強さでリーグを独走し、ついにマジックは「1」となった。
道頓堀の街は、異様な熱気に包まれていた。
戎橋の周辺には、巨大な仮設スクリーンが設置された。かつては警察官が並んで「飛び込み禁止」の黄色いテープを張っていた場所に、今は「公式飛び込み待機列」の案内板が立っている。
「本当に、やっちゃうんですね……」
市役所の若手職員、佐藤が、目の前の光景を信じられないといった様子で見つめていた。
彼は当初、このプロジェクトに猛反対していた。だが、栄吉たちの熱意に押され、最後は「安全管理マニュアル」を徹夜で作り上げるほどにのめり込んでいた。
「佐藤君、見てみ。あいつらの顔」
栄吉が指さした先には、タイガースのユニフォームを着たファンたちがいた。彼らは皆、かつてのように殺気立っているのではない。どこか誇らしげに、整然と列を作っている。
「大阪の人間はな、自由にしてええぞって言われると、意外と行儀ようなるんや。『粋な計らい』には『粋な振る舞い』で返さなあかん。それが、この街の美学やからな」
待機列の脇には、新設されたシャワー棟がライトアップされていた。そこには、金文字でこう刻まれている。
『笑う門には福来る。跳ぶ門には湯が沸く』
その時、歓声が上がった。
スクリーンの中で、タイガースの守護神が最後のバッターを打ち取ったのだ。
実況の声が夜空に響き渡る。
「阪神タイガース、優勝! X年ぶりの歓喜が、いま訪れました!」




