3.「シャワーと湯」の奇策
しかし、最大の問題が残っていた。
飛び込んだ後、どうするかだ。
いくら水質が改善されたとはいえ、川から上がった人間は濡れ鼠である。そのまま街を歩けば迷惑だし、風邪もひく。何より、見た目が「汚らしい」と批判の種になる。
「栄吉さん、これ、どうします?」
若手の商店主が、戎橋のすぐそばにある空き店舗を指さした。
「ここ、元はドラッグストアやったところですけど、今は空いてます」
栄吉はニヤリと笑った。
「そこや。そこに『道頓堀ビクトリー・バス』を作るんや」
栄吉が提案したのは、前代未聞の施設だった。
道頓堀川の岸辺に直結した専用の通路を作り、飛び込んだ直後の人間がそのまま「入浴場」へと直行できるシステムだ。
「ただの風呂やない。最新のシャワー設備を完備し、泥汚れを落とす強力な洗浄機も置く。さらに、脱水機とドライヤーも完備。おまけに、タイガースの優勝記念バスタオルまでセットで貸し出すんや」
この計画に、地元の銭湯文化を守ってきた「大阪府公衆浴場業生活衛生同業組合」が全面協力を申し出た。
「最近は銭湯も減る一方や。若いもんに風呂の良さを知ってもらうええ機会や」
ベテランの風呂屋の親父たちが、ボイラー技士のプライドをかけて、臨時とは思えない立派な大浴場を作り上げた。
さらに、行政側からも「特例」が引き出された。
「飛び込みを禁止するのではなく、特定の条件下において『河川の親水利用』として認め、安全管理員を配置する」という、実質的な飛び込み解禁の方針が固まったのだ。
条件は三つ。
一、事前に「阿呆登録(飛び込みエントリー)」を行うこと。
二、飲酒運転ならぬ「泥酔飛び込み」を防止するための検問を受けること。
三、飛び込んだ後は、指定の入浴施設で必ず体を洗うこと。
これには警察も苦笑いしたが、勝手に飛び込まれて事故が起きるよりは、管理下で安全に飛ばせた方がマシだという結論に至った。




